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『慶安太平記〜鉄誠道人』あらすじ

(けいあんたいへいき〜てっせいどうじん)


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【解説】
 連続物の『慶安太平記』は、江戸時代初期の1651(慶安4)年に起こった『慶安の変』(由井正雪の乱)を題材とした読物。徳川に恨みを持った由井正雪が幕政を乗っ取ろうと、丸橋忠弥などの門人と共に、幕府に対して反旗を翻そうとする。神田松鯉一門が演じるこの話は19席。幕府転覆という志を同じくした仲間を次々に集めた由井正雪。事を起こすには武器を買いそろえるなどの大金がいる。そこで乞食坊主の鉄誠道人を利用しようと思い立つ…。

【あらすじ】
 三代将軍・家光の時代のこと。由井正雪(ゆいしょうせつ)はクーデターを起こして幕府転覆を謀ろうと、協力してくれる仲間を集めている。また事を起こすとなると数十万両という大金が必要である。そこで一案思いつく。
、鉄誠道人(てっせいどうじん)は生まれつき、髪の毛から足の先まで体じゅう真っ白な男である。乞食坊主をしており、「こんな身体になってしまったのは、お前らの罪障を背負って来たからだ。功徳のために施しをしろ」と説教し、道行く人々から金を巻き上げている。これに目を付けたのが由井正雪で、欲が強そうな男だ、こいつを利用しようと考える。正雪は人を介して鉄誠道人を呼ぼうとするが、「あんなイカサマ師」と言って相手にしない。それでも正雪は、どうしても来てもらいたいと繰り返し請い、仕方なく鉄誠道人は正雪に会う。正雪は人をたらし込むことに長けた人物で、鉄誠道人もたちまち正雪に魅了される。
 ある日のこと、正雪と鉄誠道人は一緒に酒を飲んでいる。正雪が、一日街角に立つといくらくらいになるかと尋ねると、鉄誠道人は1朱か2朱くらいだと答える。正雪は元手の5000〜6000両を貸すから、20〜30万両の金を稼いでみないかと提案する。鉄誠道人はどういう方法を使うのかと尋ねるが、正雪は今言うとお前のためにならない、とりあえず信者を増やせ、そうしたら計略を伝えると言う。
 しばらく経って、鉄誠道人は信者が十分に集まったという。そこで正雪は、信者を集めて面白いことをやると計略を話す。信者には皆の罪障を消滅させるためだと告げ、鉄誠道人に棺の中に入り、そこに火を付け、群衆の目の前で焼け死んで欲しいと言う。鉄誠道人は死んでしまったら、いくら金があってもしょうがないではないかと拒むが、正雪は「手妻」を使うから大丈夫だと言い、さらに信者を増やせと言い付ける。
 正雪の計略とはこうである。大勢の者たちを集める。目の前で坊主が火あぶりになるとなれば物見高い江戸っ子は大喜びするであろう。これは古くからある仏法だ、見れば功徳になるし、さらに寄進をすればさらに大きな功徳になると喧伝しておく。集めた金は鉄誠道人が火定入滅した場所に「山東山道灌寺」という寺院を建立するための資金にすると説明しておく。大勢の者から莫大な金が集まるだろう。しかしこれでは鉄誠道人が焼け死んでしまう。そこで棺のなかにあらかじめ牛の生皮と煙を防ぐ秘薬とを用意しておく。また棺の底には抜け穴がある。こうすれば死なずに逃げることが出来る。さらに囚人かなにかの骨を置いおく。こうすれば誰しも鉄誠道人が焼け死んだものと思うであろう。これを聞いた鉄誠道人はこれは面白いと喜んで引き受ける。
 さて、当日になった。江戸市中のみならず遠方からも大勢の人が詰めかける。罪を鉄誠道人がすべて背負ってくれる。数十両、百両という寄進が引きも切らない。巨大な賽銭箱には間断なく金銭が投げ込まれる。棺が丘の上に据えられ、周りには薪が用意されている。数万の群衆に見守られて鉄誠道人は丘の上に上がる。これで私の罪はあがなわれる、群衆は歓喜の声をあげる。鉄誠道人は「馬鹿な奴らだ」とほくそ笑み、棺の中に入る。門弟は棺に錠前を掛け、周りの薪木に火をつけるとブワッと燃え上がる。群衆は熱狂する。
 棺の中の鉄誠道人は牛の生皮を被るがそれでも熱い。正雪が用意した秘薬を飲むが、これは実はしびれ薬で、意識が朦朧(もうろう)となる。棺の底には抜け穴など無い。鉄誠道人はやっと気づいた。俺は騙されたんだ、このままでは自分が骨にされてしまう。棺から脱出しようにも錠前が掛けられてる。群衆は大声で念仏を唱える、沢山の僧侶がガンガンジャブジャブポクポクと太鼓、鐘、木魚を打ち鳴らす。鉄誠道人は大声を出して助けを求めるが、声はまったく届かない。七転八倒の末、鉄誠道人は息絶えた。
 火は収まり、群衆はシーンと静まりかえっている。正雪は丘の上にあがり、鉄誠道人の頭蓋骨を拾い上げ、群衆に見せつける。群衆はまたもワッ―と騒ぎだす。耳かきにのせられるほどの骨が何両という金で売れる。群衆は散り散りになり騒ぎも収まった。寄進された金を数えると合わせて15万3千両にもなった。
 それからしばらく経ったが、寄進された金で建立されるはずの寺がいつまで経っても建たない。正雪は門弟が全部の金を持ち逃げしたと主張する。「これは正雪の謀(はかりごと)だ」との風聞が広がるが、人の噂も75日、いつしか人々は忘れてしまった。
 15万3千両という大金が集まり、これで軍資金も出来た。志を同じくする仲間も十分そろった。いよいよあとは3代将軍・家光が逝去するのを待つだけである。次代の将軍はまだ10歳、そうなれば幕府の体制は揺らぐ。これに乗じて反乱を起こし、幕府を倒そうというのが正雪の計略である。いよいよ幕府転覆の計画が実行されるという話になる。




参考口演:神田伯山

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