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講談連続物『天保六花撰』あらすじ

(てんぽうろっかせん)




《主な登場人物》

●河内山宗俊(こうちやまそうしゅん) 千代田城内のお数寄屋坊主。11代将軍の家斉(いえなり)はお美代の方を殊の外ご寵愛しており、宗俊はその父親である。その権勢を利用して、いつも威張り散らし方々で悪さをするが、役人でも手を出せない。江戸の人たちは宗俊の名前を聞くと震えあがっていたという。
●片岡直次郎 通称「直侍(なおざむらい)」。御家人で本郷大根畑の組屋敷に住むが、小禄で懐はいつも厳しい。役者のようないい男で、吉原大口楼の三千歳花魁と深い仲になるが、しょっちゅう金を無心している。なんとか三千歳と一緒になりたいと、宗俊と画策するが。
●暗闇の丑松 本所横川のやくざ者。元は板前をしていた。深川の芸者、お半と深い仲になり、後には女房にする。2人の間には松太郎という子供もできる。お半には様々な男が言い寄り、丑松は凶事に手を染めることになる。
●金子市之丞 別名「金子市」または「ピン小僧の金市」。下総国流山の出身。バクチ打ちになり、後には、浅草鳥越で剣術の道場を開く。片岡直次郎を見限ったあとの三千歳と深い仲になる。
●森田屋清蔵 日本橋室町の海産物問屋の主人。裏の顔は海賊の首領。大口楼の三千歳を身請けし、それが縁で宗俊と関係を持つようになる。裏の顔が露見しそうになり江戸を脱出する。
●三千歳(みちとせ) 吉原大口楼の花魁。片岡直次郎と深い仲になり、一緒になるため宗俊らと謀り森田屋清蔵を騙そうとする。直次郎に愛想をつかしたのちは、金子市之丞に心を傾ける。

【(01)松江侯玄関先の場】
 上野の池之端に上州屋という大きな質屋を訪れたのが河内山宗俊というお数寄屋坊主。自分の名前のある名札を50両で貸して欲しいというが、番頭は断る。そこで主の彦右衛門が出て来て宗俊は奥の座敷に通され相談を受ける。彦右衛門には「なみ」という18歳の一人娘がおり、雲州松江の松平出羽守の上屋敷に女中奉公に出ているが、出羽守がなみを気に入り離さない。なみは嫌がるがそうすると座敷牢に閉じ込められてしまったと言う。なんとかなみを助け出して欲しい。宗俊は上州屋から300両という金を受け取った。
 宗俊は上野宮様の使者だと偽って、赤坂の出羽守の屋敷に乗り込む。なみの話を持ち出し、このことがご公儀に知れたら大変になると脅すと、出羽守は震えあがり、なみを解き放つ。さらに50両という金が差し出される。帰ろうと玄関先に立つと、出羽守の家来の北村大膳は、お数寄屋坊主の宗俊であることを見抜き、槍を突きたてるが、留守居役の高木小左衛門がこんな話が広まったら大変なことになると大膳をなだめる。宗俊は大膳に向って「馬鹿め」と笑って、出羽守の屋敷を出るのであった。

【(02)暗闇の丑松とお半】

 天保11年の6月の話。大川を下る屋根船にはお客を送った後の芸者が3人、船頭が1人乗っている。芸者のうちの1人は「お半」という深川櫓下でも一番の売れっ子で24歳。両国から乗り込んできたのは、河内山宗俊。3人の芸者とも見たことのない客だと言う。いきなりチョキ舟から暗闇の丑松という男が乗り込んできて、お半を殴る。深川の料亭で宗俊が丑松から理由を聞く。丑松とお半は夫婦になろうと誓い合った仲であった。丑松がその話を紅葉の松五郎にすると、お半と言えば、櫓下でも一番という芸者でそんな女をただのやくざの丑松が女房に出来る訳がない、もし女房にしたのなら髻(たぶさ)を切って祝ってやるとせせら笑って恥をかかせる。丑松が江戸を離れている間に、お半は姿を消す。人に聞くと彼女は心変わりをしたという。そしてチョキ舟に乗っていたところ、お半を見つけて殴りこんだと言う。お半は宇都宮まで連れられて行った事情を話し、決して心変わりをしたのではないと話す。翌日、下谷練塀小路の宗俊の家で、丑松に世帯をもつための金だといって十両を渡す。丑松とお半は本所石原火の見下という所に家を借りる。4日目、紅葉の松五郎が丑松の家を訪ねてくる。丑松は、嫌がる松五郎の髻を無理やり切る。松五郎は這う這うの体で逃げていく。いきなり丑松はお半と別れたいと言い出す。松五郎の髻を持って河内山宗俊の元に行く。髻を切って男になれたのでもうお半の身体を返すという。宗俊は金をつけてお半を芸者に戻し、一方で丑松の名はあがる。


【(03)河内山宗俊と片岡直次郎の出会い】
 本郷の大根畑に住む、片岡直次郎、通称「直侍」という御家人は役者のようないい男。しかしわずか三十俵二人扶持という小禄で、懐具合はいつも悪い。そこで宗俊を強請って金を稼ごうと考える。
 直侍は河内山宗俊の屋敷にやってきて、近頃バクチで擦ってばかりで金がない、いくらか恵んでくれないかと金の無心をする。1両でも渡されれば「10両もらえなければここを動かないぞ」と凄むつもりであったが、宗俊は「100両くらいならご用意できます」と告げる。さすがは宗俊、自分とは役者が違うと驚く。
 宗俊は100両の金包みを出し畳の上に置くと、「手を付けたら、お前の腕を斬る」と脅す。「あんたには敵わない」と直侍は降参する。宗俊は「これでも取っておけ」と財布から2両の金を取り出し、直侍にポンと投げる。2人はしばらく語り合う。話しているうちに直侍は宗俊に心酔してしまい、2人は兄弟分の盃を交わす。直侍は毎日のように宗俊の屋敷に通うようになる。

【(04)三千歳足抜け】
 しばらく経ったある日、直侍は宗俊に相談したいことがあると言う。吉原の大口楼という廓の三千歳という花魁と、惚れて惚れられという仲になっているというのだ。金のない直侍は三千歳から金をせびり、今では大口楼から出入り止めになっている、なにか三千歳と気兼ねなく会う方法はないかという。宗俊はそれなら三千歳を廓から足抜けさせるしか方法はない、足抜けさせたらここ練塀小路の屋敷に来いと言う。
 天保11年11月23日、この日は雨が降り、さらに夜になると風も強まり嵐のようになる。直侍の手引きで吉原から足抜けした三千歳は駕籠で宗俊の屋敷に到着する。宗俊の指図で三千歳は玉帳を持って来ていた。それを見て宗俊はカモになりそうな客を探す。直侍に手により三千歳が足抜けしたことはすぐに追手に露見してしまうだろう。屋敷にやってきた直侍、それに三千歳と共に、うまく騙すための芝居の筋を思案する。

【(05)片岡直次郎の解き放ち】
 直侍は吉原に戻り、越後屋という店に上がり、夜が明けると馴染みの湯屋へ入る。しばらくして大口楼の若い衆が入ってきて直侍に気づく。あれ、三千歳の足抜けの手引きをしたのは直侍だと思っていたのに。見ると昨夜三千歳が着ていた半纏を今朝は直侍が引っ掛けている。若い衆は会所の役人へ訴え、30人ばかりの捕り手が囲み直侍は捕まった。縄を掛けられた直侍は会所へ連れられていく。「縄を掛けられる」、実はこれは宗俊、直侍の策略であった。取り調べるのは小出道之助である。ここへ入ってきたのは河内山宗俊で、罪も定かでないのに縄を掛けるというのは問題だと言い寄る。困った小出は茶屋の主人に頼み、どうにか仲裁してもらう。詫び料として宗俊は200両を受け取り、直侍は縄を解かれて宗俊と共に悠々と吉原を離れる。

【(06)森田屋清蔵と河内山】
 大口楼での馴染みであった日本橋室町の海産物問屋の主人、森田屋清蔵宅に駕籠で乗り付けた三千歳。森田屋にどうしても会いたいので足抜けをしてきたと言い、お数寄屋坊主の河内山宗俊は自分の兄だという。その宗俊が森田屋の店にやってきた。宗俊はこの三千歳は自分の実の妹だ、どうしても森田屋と一緒になりたいというので、身請けの金を出して欲しいと言う。森田屋は三千歳には、片岡直侍という色がいるでしょう、そういってすぐに自分の元を逃げ出すつもりでしょうと一笑に付す。そこで三千歳を身請けして5ヶ月間は自分の妾にしてくれ。そうしたらその後は、三千歳と直侍を添わせてやる。しかしその5ヶ月の間は絶対に2人は会ってはならないと言う。森田屋の聡さに宗俊は舌を巻く。2人を会わせない、宗俊は固く約束する。

【(07)三千歳と片岡直次郎の密会】
 森田屋の金で身請けされた三千歳。石町(こくちょう)の妾宅に婆やとともに暮らす。三千歳と直侍は共に会いたくてしょうがない。ある日、森田屋は上総まで買い物に行くので数日家を空けると言う。ここぞとばかり三千歳は手紙で直侍を呼び寄せて、二階で逢瀬を楽しむ。真夜中、二人の寝間に突然、森田屋が現れる。「よくも男の面に泥を塗ったな」、どうぞ堪忍してください、必死に謝る三千歳。森田屋は河内山宗俊を呼んだ。訪れた宗俊も誠に申し訳ないと何度も頭を下げる。「よくも恥をかかせてくれたな」、直侍を叱り付け、片岡直侍と兄弟分の縁を切る。三千歳は再度大口楼に勤めることになった。店からは700両の金を受け取り、これを宗俊は森田屋に渡す。大口楼では三千歳と直侍とが会う事を禁じる。

【(08)三千歳の愛想尽かし】
 三千歳と密かに会い、相変わらず金を無心する直侍。そんな彼に三千歳は次第に嫌気がさしてくる。大口楼には、浅草鳥越で剣術の道場を開いている金子市之丞が通うようになる。三千歳は人がよくて金の使いっぷりの良い市之丞に心が徐々に傾いていく。「よくも俺の女に」と憎しみを膨らます直侍。吉原土手で市之丞を襲うが、返り討ちに遭い怪我をしてしまう。直侍はまたも三千歳に10両の金を無心する。三千歳は市之丞から100両を受け取り、これで縁を切って欲しいと直侍に渡す。「こんな金は受け取れるか」、直侍はバラバラと金を投げつけるが、金に困っていたので結局はこの100両を懐に入れてしまう。

【(09)金子市之丞召し捕り】
 三千歳を取られてどうにも悔しい直侍。バクチ場で金子市の正体は、流山無宿のピン小僧金市で役人を叩き斬ったお上のお尋ね者であることを知る。直侍は知り合いである火附盗賊改役にこれを訴え出る。すぐに大口楼にいる金子市を捕り方が取り囲み、縄を掛ける。その場には直侍の姿があった。これを見た金子市は、訴人は彼だと知る。いつか復讐をしてやる、金子市は心にちかうのであった。

【(10)丸利の強請】
 捕らえられた金子市之丞は、暗闇の丑松の兄貴分であった。金子市のために20〜30両の金がいると丑松は河内山宗俊に相談する。しかし宗俊もいきなり金が用意できるわけではない。そこで宗俊の一案を考え、訪ねたのは日本橋の袋物の店、丸利である。煙草入れを買うといい、さらに緒締が見たいといって、手に取って見せてもらう。袂から鼻紙をだし、チーンと鼻をかんで、その中に店の者に分からないように珊瑚の緒締を入れてくるくると丸め、ポイっと店の外に投げる。これを紙屑屋に扮した丑松が背中の駕籠に入れる。店では緒締がひとつ足りないという。座敷で宗俊は着物を脱がされ調べられるが、緒締は見つからない。怒った宗俊は、自分の素性を明かし、ここで切腹すると言う。狼狽した丸利の主人は詫び料として100両の金を渡す。宗俊は100両の金と50両もする緒締を手にしたのであった。

【(11)金子市もっこ抜け】
 伝馬町に入牢になった金子市之丞だが、うまい具合に暗闇の丑松から25両の金が手に渡り、牢内では何かと特別扱いを受ける。そのうちにわざと病気になった金子市は浅草の病監に収容される。もっこに担がれ、数寄屋橋の南町奉行所まで移動してここで取り調べを受ける。この日ももっこに担がれていたが、浅草見附の付近で小便がしたいという。そこに寄ったふりをした丑松が近づき、金子市を逃がす。金子市は直侍を探すが、なかなか見つからない。

【(12)金子市と三千歳の再会】
 直侍を探す金子市之丞。夜になったら吉原に行こうと、昼、入谷の湯屋に入る。ここで大口楼の寮に療治に向かう途中の按摩が三助に語っている話を聞く。寮では金子市之丞を想って恋煩いになった三千歳が療養していると言う。これは三千歳と今一度会えという天命なのか。金子市は文を認め、三千歳に渡して欲しいと按摩に頼む。寮に向かう按摩を金子市はそっと付けていく。按摩は文を三千歳に見せる。表に出た三千歳は金子市と再会し抱き合う。一緒に逃げよう。三千歳は寮に戻り、箪笥から金を出そうとする。その音を按摩が聞きつけ大声を出す。大口楼の若い者が出て来た。金子市がもっこ抜けしたと聞いていたので、さては2人で逃げ出そうとしているのだなと察知し、三千歳と金子市を捕らえようとする。「三千歳、もうこの世では二度と会わねえぞ」。金子市は1人逃げて、故郷の流山へ向かう。

【(13)金子市の生い立ち】
 市之丞は、下総国流山で造り酒屋をする金子市兵衛の子である。父母、姉と共に暮らすが、市兵衛が死ぬと家は傾き、造り酒屋の株を鹿島屋に貸す。13歳の市之丞は一人江戸に赴き、鹿島屋の店から300両を強請り取る。母にこれを話すと勘当になり、さまよっているうちにバクチ場で300両の金を一気に1500両に増やす。親分の三次に気に入られ、勝った金は気前よく分け与えるのでバクチ仲間からも慕われる。また旅の用心棒から剣術を習いメキメキ腕をあげる。三次が死ぬと数百人の子分を抱える。八州廻りの役人から目を付けられると、逃れるように浅草鳥越で剣術の道場を開く。

【(14)金子市の故郷帰り】
 金子市之丞は激しい雨の日、故郷の流山へ戻る。寺で出会ったのは古い馴染みで今は目明しをしている甚九郎である。七日前に母親が死んだことを知らされる。墓参りをし姉に挨拶をするのでそれまでは縄を掛けるのは待って欲しいと言う。父母の墓前に参り、姉に会おうとするが、姉はすぐに帰ってくれというので、そっと百両を置いていく。甚九郎は金子市を探すが、どこに行っても「出かけた」という。これは金子市を逃がそうという子分たちの計略である。伊勢の桑名へやってきた金子市。隣の部屋の男女が心中しようとしており、これを止める。2人は駆け落ちしている途中であった。金子市は2人を説得し、娘を京まで連れ戻す。ここで出会ったのが平次という男で、金子市が凶状持ちであることなど、彼のことをよく知っている。京にまで知られている様では、江戸には自分の居場所はないか。またお数寄屋坊主の河内山宗俊が捕らえれたことを知る。流山に戻った金子市は、甚九郎の縄に掛かり、江戸へ送られ、これまでの悪事をすべて白状するのであった。

【(15)森田屋清蔵江戸脱出】
 日本橋室町で海産問屋を営む森田屋清蔵。裏の顔は海賊の首領である。ある日、店を訪ねて来た田舎者の男。以前、主人の清蔵に2両を恵んでもらってその礼に来たというが、実は海賊の手下である。清蔵は手下の一人が泥棒をして捕らえられたと聞き、自分ももう江戸にはいられないと悟る。一方、五万石を取る越後国の内藤家では殿様が雪子姫を縁付けようと思っている。家臣の内藤帯刀(たてわき)は森田屋清蔵に相談する。清蔵は河内山宗俊と会い、小町の金太という役者のようないい男を紹介してもらい、この男を三千石の旗本の跡取りに仕立てる。見合いの席で雪子姫は一目見てこの偽の跡取り息子を気に入り、話は進む。向島の別荘に千両の持参金を持ってお供と共に雪子姫が現れる。清蔵はしびれ薬を使ってこの千両を奪い、雪子姫の操を汚して、船にて江戸を離れる。雪子姫は仏門に入り、帯刀は責任を取って切腹となる。

【(16)小町の金太の茶番】
 さすがの河内山宗俊も森田屋清蔵の悪事に舌を巻く。小町の金太も思わぬ事件に巻き込まれてしまい、宗俊の屋敷の中で震えている。ようやくほとぼりも覚めて、金太は湯島天神下の湯屋に行くと、「目覚ましのお静」という絶世の美女がおり、見ると腕に「金命」刺青がある。これは面白い、茶番をしようと金太はお静の家を訪ね「よくも俺の面に泥を塗ったな」と凄むと、50歳ほどの男がいる。向かってくるかと思ったら、川越の大島屋宇右衛門だと名乗り、50両の金を手切れ金ととして金太に渡す。一旦宗俊の屋敷に戻った金太。もしも訴えられたら雪子姫の件までお上にばれてしまうかも知れない。お静の家を再び訪ね、茶番のつもりだったと詫びる。しかしいつの間にかこの2人がいい仲になる。

【(17)小町の金太の召し捕り】
 大島屋宇右衛門は、妾宅のお静を訪ねると湯屋に出かけていて不在である。女中にお静と金太の関係について問いただすと、金太は毎晩のように泊まっていると言う。宇右衛門は戸棚に隠れ2人を待つ。まずお静が帰り、続いて金太が入ってきた。「間男見つけた」、宇右衛門が戸棚から出て来て金太を掴まえようとするが、躓いた宇右衛門は沓脱ぎの石にぶつかり気絶してしまう。お静は金太に金を持たせ、宗俊の屋敷へと戻す。医者が見ると、宇右衛門の息が無い。お静は酒を飲んでいるうちにひっくり返ってしまったと言い、薮な医者も酒が原因でしょうと言う。宇右衛門の死骸は川越へ運ばれるが、その途中雨にたたられ、一行は近くの店に入る。夜、宇右衛門は生き返り、金太とお静に殺されそうになったと嘘の話をする。お静は捕まり、金太も神田のバクチ場で捕らえられる。結局2人の供述から宇右衛門の嘘がばれ、両人とも軽い罪で済む。後に2人は芝神明に寿司屋を開き大変繁盛する。

【(18)丑松とお半の再会】
 暗闇の丑松は、神田のバクチ場に役人が乗り込んできた際に怪我をさせる。河内山宗俊と相談の上、江戸を離れる。元が板前であったので東海道筋の料理屋で働きながら回る。3年経って江戸へ帰ってきた。宗俊からお半は芸者を辞めて姿を消してしまったと聞かされる。翌日、丑松は茅町で犬に大福餅を取られた子供を出会い、この子の家に行くとそこにはお半がいた。この子は丑松の子で松太郎という名であるという。お半の母親も一緒に暮らしているが強欲の権化のような婆ァである。4人は一緒に暮らすようになる。

【(19)丑松二人殺し】
 暗闇の丑松、お半、2人の子の松太郎、お半の母親は浅草聖天町に住む。丑松は千住で板前を、お半は浅草奥山で水茶屋を営む。この水茶屋にかつての馴染み客の旗本の息子、野間佐十郎が偶然やってくる。数日経って、佐十郎はお半の母親の元を訪ね、自分は家督を継ぐことになるがお半を妻に迎えたいという。母親はお半には丑松という夫がおり、子どももいると語る。お半が旗本の奥方になれば自分にも大金が手に入る。邪魔なこの子を殺してしまえと、欲に目が眩んだ母親は松太郎に手を掛ける。ちょうどお半が帰って来て、現場を目撃する。お半が逃げると小塚原で家に戻ろうとしていた丑松と出くわす。事情を聞いた丑松は、よくも我が子を殺したなと、お半を追いかけて来た佐十郎、母親を出刃包丁で殺害する。丑松とお半は心中しようとするが、これを五斗兵衛市が止める。お半は彼が預かり、丑松は旅に出ることにする。

【(20)銭屋安兵衛】
 河内山宗俊の屋敷を訪ねた丑松。弟分の坂本の太吉の紹介で秩父小鹿野にある料理屋の銭屋安兵衛の元に厄介になることになる。もとより丑松は腕のいい板前であるので店は繁盛する。明神の祭礼の夜、掛け取りに向かう安兵衛の倅の安太郎に、村雨の松右衛門は無理矢理バクチに誘う。騒動になるがここを丑松が通り掛かり安太郎を助ける。松右衛門の姉は代官の妻になっている、迷惑は掛けられないと、丑松は銭屋の店を出ていく。再び松右衛門の一味が丑松を襲う。丑松は捕まり、代官の川村清左衛門の前に引き出される。丑松は江戸で2人を殺したことを語り、唐丸駕籠で江戸まで送られることになる。

【(21)唐丸駕籠送り】
 暗闇の丑松を唐丸駕籠で江戸に送る途中、役人2人と雲助らは休息する。するとどこからか矢が飛んできて役人に当たる。深編笠を被った男に丑松は逃がされる。助けたのは森田屋清蔵であった。清蔵は海賊の首領であることがばれそうになって江戸を船で脱出したが、嵐に遭って、今は秩父・日野にいる弟分、妙義小僧の若太郎の元に厄介になっていた。かつて世話を受けた河内山宗俊の第一の弟分である暗闇の丑松が捕らえられたと聞いて助け出しだという。しばらく経って、丑松は連続して宗俊の悪い夢を見たといい、気になるので江戸に戻りたいと言い、清蔵も了解する。

【(22)お半の自害】
 中山道の板橋宿で雨にたたられた暗闇の丑松は、雨宿りがてら安い女郎宿に泊まる。相手の女性はとんでもない巨体。この相方が用足しにいっている間に現れたのは、女郎になったお半。命を助けてもらった五斗兵衛市がひどい人物で、高崎で丑松が捕まり縄を解くの金が必要だというのだが用意が出来ないという。そこでお半がこの板橋宿で身を沈めたという。丑松の話から五斗兵衛市に騙されたのだと知る。しかも彼はお半の肌を穢していた。お半は丑松の元を去るが、しばらくして向こうの部屋で首を剃刀で斬って息が絶えていた。丑松は下谷練塀小路の河内山宗俊の屋敷を訪れ、お半の仇討ちを誓う。翌朝、本所三笠町の五斗兵衛市の家に向かう。五斗兵衛の女房はお半には男が出来て駆け落ちをしたとデタラメを言うが、丑松はこの女房の首を斬り落とす。さらに近くの湯屋で五斗兵衛市を見つけ斬り殺す。すぐにご検死がやってくる。暗闇丑松が殺したのは明らかである。

【(23)玉子の強請】
 ゆで卵を1個、袂に隠して上野山下の近江屋という乾物屋を河内山宗俊が訪れる。病気見舞いに行くので、生卵を20個ほど折に詰めて欲しいと言う。番頭は卵を日向(ひなた)に向けて、卵の新旧を確かめる。河内山は、ひょいと積んである卵を1個取り、卵を袂に入れる振りをする。番頭は「お客さん、ふざけたことをしてはなりません。お返しください」と言う。河内山は取ってないというが、番頭は返してくださいと繰り返す。「この卵のことか」、河内山は袂からゆで卵を取り出し、ピシッと土間に叩き付ける。「俺は下谷練塀小路の御数寄屋坊主、河内山宗俊だ」だと凄む。宗俊は近江屋から100両の金を脅し取る。

【(24)大黒屋強請】
 大口楼の三千歳の件で、河内山宗俊と義兄弟の縁を切られた御家人の片岡直次郎、通称「直侍」。金に困って同じ御家人の池辺金之助を騙って押し込み強盗を働く。この金之助を家に呼び寄せて首を絞めて殺す。この死骸を上野広小路の両替商、大黒屋の軒下に縄を掛けてぶら下げる。店前で首括りがあったと分かっては大変なことになる。直侍は焦る大黒屋を騙し、この死骸を近くの豆腐屋へとそっと移す。役人が検死をするが、これは自ら首を括ったのではなく、殺されたものだと分かる。それからしばらくして直侍は大黒屋を訪ね、金を強請り、その額は500両にもなる。大黒屋吉兵衛は下谷の吉蔵親分に相談する。その首を括られた男は直侍が殺したのに違いない。2人は直侍に縄を掛ける計略を企てる。しかしそれから直侍は現れない。

【(25)直次郎召し捕り】
 駕籠屋の清兵衛は昌平橋から吉原まで客を乗せる。日本堤で侍に呼び止められる。侍は客を刀で斬り、胴巻きを強奪する。本郷の大根畑の組屋敷に侍は戻っていく。清兵衛はこの侍の跡をそっと付ける。清兵衛は会所に訴え出て、こうして捕まったのは直侍である。八丁堀定周りの小出道之助が取り調べる。証拠が出そろっているのでもうしょうがない。直侍はすべてを白状する。御家人の片岡直次郎というとんでもない悪党が捕まった、江戸の人々は溜飲を下げる。

【(26)宗俊の住職強請】
 宗俊はかつての弟分、片岡直次郎が捕まったと耳にするが、まだ自分は大丈夫だと思っている。ある日、仲間の坊主3人と品川へ行き、料理屋へ入ると、18〜19歳の愛嬌のあるいい女を見かける。聞くと清元延峰といい、報徳寺という寺の住持が旦那であるという。宗俊は延峰の家を訪ね、寺の者だが住持が粥に当たって重篤だといい、彼女を寺へ連れ出す。報徳寺まで来て座敷で酒を飲みご馳走をたべていた住持に、宗俊は「お前はこちらの方が好物だろう」と叫び、延峰を目前に見せる。宗俊は、自分は寺方を調べる隠し役だと名乗り、住持は驚いて100両を差し出す。宗俊は延峰を連れて、鎌倉、江の島を一月ばかり遊び歩く。

【(27)河内山宗俊、暗闇の丑松の最期】
 娘がお美代の方といって11代将軍の御寵愛を受け、栄華を誇っていたお数寄屋坊主の河内山宗俊。しかしお美代の方の養父となっていた中野碩翁(せきおう)が失脚し、宗俊の威勢も衰える。いよいよ片岡直次郎がお仕置にあがるだろうという噂を聞く。また御尋ね者である暗闇の丑松を匿っている。丑松は姑(しゅうとめ)を殺している。いくら事情があると言え親を殺しては磔は免れない。宗俊も観念して、若年寄の佐和左近将監の屋敷に出頭して、これまでの悪事をすべて白状し、切腹となる。暗闇の丑松は町奉行所へ自訴してお仕置になる。「天保六花撰」のうち、宗俊は切腹、片岡直次郎、暗闇の丑松、金子市之丞の3人はお仕置、森田屋清蔵は再び海賊の首領となるが船が沈没して亡くなり、三千歳だけは明治の世まで生きたという。




参考口演:六代目神田伯龍

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