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講談連続物『雲霧五人男(雲霧仁左衛門)』あらすじ

(くもきりごにんおとこ・くもきりにざえもん)




《主な登場人物》

●雲霧仁左衛門 甲州身延七面山を拠点とする盗賊の頭領。神出鬼没、雲か霧のように忍術を使って隠れることからこの名がある。畳の上で往生したいと足を洗って盗賊仲間を解散し、吉原の遊郭の主人になる。
●木鼠吉五郎 木鼠(リス)のようにすばしっこいのでこの名がある。元は長州藩の藩士の倅で、侍らしく性格が堅く仁左衛門の右腕的存在であった。盗賊仲間と別れ、日本橋で呉服屋の主人となる。
●因果小僧六之助 背中に石塔・塔婆に女の生首というおどろおどろしい彫物があのでこの名がある。七面山で仁左衛門と別れる時に大金を貰うが、遊興ですべてつかってしまう。仁左衛門と再会し、遊郭の主人になったが、またバクチに手を出すようになり恩人の仁左衛門を強請るようになる。
●洲走り熊五郎 深川の猟師の倅。病気の父親の面倒をみるために、泥棒になる。木鼠吉五郎の世話で奉公をするが、酒癖が悪く長続きしない。そのうちに按摩をしている因果小僧六之助と再会し…。
●山猫の三次 越後国高田出身。盗賊仲間と別れ、故郷に戻りバクチ打ちの親分になる。茶屋の女を手籠めにしようとするが、邪魔が入って思いを遂げられず。この遺恨から人を殺め、唐丸駕籠で江戸に送られることになる。
●おさらば伝次 雲霧五人男のうちの一人だが、伯龍の録音では最後の召し捕り、磔の場面以外には登場しない。


【荊沢村】
 甲州荊沢(ばらざわ)村の豪農、市川文蔵は質両替商も営む大金持ちである。女房はお花という。駿府にいるお花の母親が病気で危険な状態だとの手紙を受け取り、すぐにお花と番頭の宇兵衛は駕籠で出立する。途中、万沢の関所に差し掛かるが、通行手形を持っていない。仕方なく一行は裏街道を進む。5人ばかりの乞食と出会い、お花は3枚の小判を差し出す。駿府に着いたが間もなくお花の母親は亡くなる。一行は荊沢村へ戻り、宇兵衛は関所の裏街道での出来事を主人の文蔵に話す。
 それから2ヶ月ほど経ち、二十数名の手先を率き連れて荊沢村の名主宅を訪れたのが、江戸南町奉行である大岡越前守の公用人、石子伴作と中田伊左衛門の2名である。市川文蔵宅を取り調べるといい、その夜は文蔵、奉公人らはみな名主の家に留め置く。夜が明けて、昼近くになっても名主宅に役人は来ない。文蔵宅を調べると、金蔵から15,000両ばかりが無くなっている。さては一味は偽役人で、正体は盗賊であったか。話は江戸の大岡越前守に伝わり、文蔵を江戸まで呼びつける。文蔵はすべてを告白する。
 本物の石子伴作と中田伊左衛門は身延山参拝の商人という風体で駕籠に乗り、万沢の関所の手前から裏街道に入る。すると関所役人らしき男がいるが、偽物だと見破りねじ伏せる。この男は名はミミズクの権次で、雲霧仁左衛門の子分であった。権次の話から雲霧の主だった手下は、木鼠吉五郎、洲走り熊五郎、おさらば伝次、山猫三次、因果小僧六之助の五人であることが分かる。

【洲走り熊五郎の出自】
 熊五郎は深川熊井町の出身である。父親は熊右衛門という網打ちであったが、実はイカサマバクチが本業である。熊五郎が8歳の時のこと。熊右衛門は品川へ行った帰り、永代橋までの船に乗る。船内ではバクチが始まり熊右衛門は100両ほどの金を儲ける。陸へ上がって、お店者と見える男が店の金80両を擦ってしまった、50両でも30両でも貸して欲しいという。熊右衛門はしつこく言い寄るこの男をはねのける。男は恨み言を残して永代橋から大川へ飛び込んでしまう。数日経って熊右衛門は倅の熊五郎を連れて船を出す。網を入れると、先日飛び込んだ男が引っかかる。身重の女房は井戸で転んで腹を打って死んでしまう。熊右衛門は湯屋の帰りに中気を起こして半身不随になる。大川へ飛び込んだあの男の祟りか。父親の面倒をするため、熊五郎はしじみ売りをするが、一文、二文の儲けにしかならない商売が嫌になり、後には盗人になる。

【洲走りと雲霧の出会い】
 盗人になった熊五郎はたまに家に戻っては金を置いていく。父親の世話は近所の者がする。熊五郎は19歳になった。大きな仕事をしてしばらく江戸には戻れないと夜中に熊井町の長屋を訪れ、30両を置いて父親と別れる。長屋を出ると待ち伏せしていた捕り手に捕まりそうになり、鐘ヶ淵まで逃げる。夜明けも近い頃、一軒の庵室で西念という坊主に頼み込み休ませてもらう。話からこの西念が大川へ飛び込んだ男の父親だと分かる。父母に祟ったのはこいつの倅か。翌日の夜、西念を括り殺して30両ほどの金を奪い、庵室に火を付けて逃げる。小塚原まで来て奪った金を落としたことに気づく。一人の飛脚体の男が通りかかる。金を運んでいるようである。熊五郎はこの男に襲い掛かるが、逆にねじ伏せられてしまう。「俺もお前と同じ稼業だ」、男の正体は雲霧仁左衛門という盗賊であった。仁左衛門と熊五郎は親分子分の盃を交わすのであった。

【木鼠吉五郎と洲走りの熊五郎】
 甲州巨摩郡(こまごおり)七面山を隠れ家とする盗賊の頭、雲霧仁左衛門はそろそろ足を洗おうと思っている。手下の中の主だった5人、雲霧五人男には1000両ずつの金が分け与えられ、手下は散り散りに別れる。
 五人男の中の一人、「木鼠の吉五郎」は吉兵衛と名を変え、日本橋で甲州屋という呉服屋を開き、店は繁盛する。5年ほど経ったある日、かつての弟分、洲走りの熊五郎と出会う。七面山で別れた後、上方へ向かった熊五郎だが、受け取った1000両は酒、女、バクチですっかり使ってしまったと言う。吉五郎は自分の甥御だと奉公人に言い、甲州屋で熊五郎を働かす。しかし熊五郎の酒癖の悪さは治らない。このままでは、自分たちの過去がばれる知れない。吉五郎は熊五郎を洲崎の弁天へ連れ出し斬り殺そうとするが、かつての仲間をどうしても斬ることは出来ない。結局、熊五郎を本郷の質両替商、近江屋に飯炊き奉公をさせることになる。

【三囲(みめぐり)の殺し】
 本郷の質両替商、近江屋で飯炊き奉公をすることになった佐吉こと洲走の熊五郎。まじめに働いており誰もその正体には気付いていない。主人の喜右衛門は55歳、女房のお菊は24歳。お菊は番頭の幸助とわりない仲である。熊五郎はこれに気づき度々2人から金を強請り取る。ある時、店に入ってきた按摩を見て熊五郎は驚いた。かつての盗賊仲間のひとり、因果小僧六之助である。2人は人目の付かないところで互いの近況を語り合う。六之助は按摩をしてはいるが目は見える。療治に入った先で金目の物の目星を付けては、夜になると盗み入っているという。チビチビ金を儲けていても面白くない。お菊と番頭から一気に大金をせしめようと相談し合う。熊五郎は2人に密通が主人にバレていると言い、店の金を持ちだして駆け落ちしたらどうかとそそのかす。
 ある日の真夜中、帳場から300百両を盗み出した幸助とお菊は店を抜け出し、駕籠に乗る。向島の三囲稲荷の付近で刀を持った六之助が襲い掛かる。川風で六之助の被っていた手拭いがハラリとはだける。「お前は按摩の玄了!」。顔を見られては生かしてはおけないと、六之助はお菊と気絶していた幸助を斬り殺し300両の金を奪って逃げる。
 役人の御調べで2人の身元はすぐに分かり、近江屋に知らせが入る。殺す手筈ではなかったのにと熊五郎は驚く。事が露見すれば自分の身も危ない。六之助の家を訪ねて奪った金を山分けをし、そのまま2人は江戸を離れる。

【山猫の三次】
 雲霧五人男の一人、山猫の三次は甲州七面山で親分の仁左衛門や仲間と別れ、故郷の越後国高田在玉井村へと戻る。両親は死んでいるが、叔父が健在でここに厄介になる。高田一の親分「しにしだいの権三郎」の子分とバクチ場で争いになるが、度胸の良さを権三郎に見込まれ、跡目を継ぐことになる。
 二代目となった権三郎は茶屋のたまを見染める。たまはひなびた田舎には珍しいいい女で三年ほど前に夫を失っており、幼い子が1人いる。一緒になってくれと口説く権三郎を、「夫の位牌に泥を塗ることはできません」と頬を引っ叩き断る。一旦は引っ込んだ権三郎だが、腹の虫が収まらない。子分を使って山王の森の中にたまをおびき出し、思いを遂げようとするが、悲鳴を聞いて駆け付けた番太の藤三郎が棒で叩いてたまを助ける。これを遺恨に思った権三郎は、ある夜、松の木の根元で酔っぱらって寝ていた藤三郎を、褌を繋げて作った紐で木に吊し上げ、2人の子分と共に惨殺する。藤三郎の死骸は池に捨てられ、まもなく発見される。褌の判が証拠となり権三郎とその子分が下手人であると分かり、3人は捕らえられる。代官の前でのお取り調べで、権三郎は自分の正体が曇霧五人男の一人、山猫の三次であることを明かし、唐丸籠で江戸へ送られることになる。

【大宮宿 唐丸籠破り】

 中山道、深谷と本庄の間の高松の宿。洲走りの熊五郎は古着屋に姿を変え、雨の中歩いている。小松屋という飯屋に入ると、50歳ばかりの婆さんとお常という25〜26歳のいい女がいる。お常は連れ合いに死なれ今は細々とこう飯屋を営んでいるという。手の早い熊五郎はお常と良い仲になる。入り婿になって堅気になろう。2人は夫婦になり、2年ほどだつと、小松屋は旅籠半分料理屋半分の大きな店になる。
 ある時、越後国から来た唐丸籠が一丁、小松屋で休息する。籠の中を見て熊五郎は驚いた。かつての盗賊仲間、山猫の三次である。なんとか助けてやりたい。
 今夜は大宮宿へ泊るというので熊五郎は追う。原田屋という宿屋に一行はいると聞きつけ、無理矢理にこの宿に泊まる。竹製の落火(らっか)、今でいう時限爆弾のようなものを3箇所仕掛けておいて、これが次々に爆発する。熊五郎は、役人たちを斬り払い、三次を連れて宿を逃げ出す。秩父まで来た熊五郎と三次。熊五郎は上州辺りに身を隠すつもりだと言い、山猫の三次は上方へと逃れると言って2人別れる。

【因果小僧六之助殺し】
 吉原の桔梗屋という女郎屋。二階の座敷には雲霧五人男の一人、因果小僧六之助が客としている。今では、松前という花魁にぞっこんである。ある日、六之助は桔梗屋の主である五郎兵衛の顔を見て驚いた。彼こそは6年前に別れたかつての盗賊の頭、雲霧仁左衛門であった。六之助は仁左衛門から廓の主になるよう勧められ、仁左衛門が金を出し、新桔梗屋の主人になる。はじめのうちは、真面目に働き店も繁盛したが、廓仲間に誘われたのがきっかけで再びバクチにのめり込み、多額の借金を抱える。過去の話を持ち出し、仁左衛門から半ば強請で金を繰り返し借りる。そんなある日、仁左衛門、六之助2人で川崎大師へ詣でる事になった。2人歩いて川崎へと向かう。夜、鈴ヶ森を通りかかると、六之助の腹を斬り付け殺害し。顔の皮を剥ぐ。

【木鼠吉五郎】
 鈴ヶ森を離れた雲霧仁左衛門だが、殺した因果小僧六之助の背中に珍しい彫り物があったことに気づく。これでは顔の皮を剥いでも身元が分かってしまうではないか。何かと頼りにしており、今は日本橋の呉服商の主人である木鼠吉五郎の元を訪ねる。吉五郎は仁左衛門の片袖に血が付いていることに気付き、仁左衛門はすべてを告白する。仁左衛門が帰って、吉右衛門は奉公人を集め、自分が盗賊であると打ち明け、皆に20両づつを与え店を畳む。
 吉五郎は元は長州藩の藩士の倅だった。堅物であったが17歳の時に品川の女郎に夢中になり勘当。女郎にも相手にされなくなり高輪で入水して死のうというときに、鬼瓦の木蔵という泥棒の頭に声を掛けられる。誘いにのって吉五郎も泥棒になるが、義賊になりたいと盗んだ金を貧しい者たちに分け与える。これに不満な木蔵と諍いになり、木蔵を過ちから殺してしまう。逃亡中に小夜の中山で出会ったのが、盗賊の頭、雲霧仁左衛門で彼の手下になる。

【大団円】
 鈴ヶ森で雲霧仁左衛門が因果小僧六之助を殺害する様子を、2人の乞食が地蔵の陰から見ていた。六之助は殺害されるとき「桔梗屋の五郎兵衛が」と叫んでいた。乞食は役人に届け、六之助の死骸の彫り物から手配している雲霧五人男の一人だと分かる。
 桔梗屋に戻った雲霧仁左衛門は、奉公人や女郎を集め、自分が世間を騒がせている盗賊の頭領だと打ち明け、今夜限りで店を畳むと言って皆に金を渡す。桔梗屋では客に扮して捕り手が潜んでいた。捕り手が仁左衛門を追い詰めると屋根に逃げる。大捕物になるが、仁左衛門は屋根から落ち、捕らえられる。仁左衛門が捕まったことを聞きつけた木鼠吉五郎、洲走り熊五郎、山猫三次、おさらば伝次も次々と南奉行所に自訴する。こうして5人は鈴ヶ森の刑場の露と消えたのであった。





参考口演:六代目神田伯龍

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