『講談るうむ』トップページへ戻る講談あらすじメニューページへ メールはこちら |


『赤穂義士外伝〜清水一角酔いどれ剣法』あらすじ

(あこうぎしがいでん〜しみずいっかくよいどれけんぽう)



【解説】
 「赤穂義士外伝」のなかでも吉良方の話で珍しい読み物である。播州浅野家のご本家、広島藩の松平安芸守は、清水一角という剣術の名手を召し抱えたいと思っている。そこでその腕前を見るために、浅野家の家来のうち優れた剣士と試合をしてもらいたいと言う。浅野家から堀部安兵衛、竹林唯七、矢田五郎右衛門の三人が選ばれた。一角は安兵衛と勝負するが敗れてしまう。安兵衛はそれでも一角を仕官させて欲しいと安芸守に願い、一角は安兵衛の厚意に感謝する。結局一角の仕官は叶わなかった。しばらくして一角は吉良の親類にあたる米沢藩の上杉家に召し抱えられることになった…。

【あらすじ】
 播州・赤穂藩の藩主である浅野内匠頭長矩(あさのたくみのかみながのり)は今、ちょうど江戸にご勤番である。築地・鉄砲洲のお屋敷にお帰りになると、大勢の家来を集めて話す。今日ご本家、広島藩の松平安芸守公の元へ赴いたところ、今度、清水一角という名人の剣士を召し抱えたいという。その食禄は500石である。そこで分家である我が藩から優れた剣士を2〜3人連れてきて貰い、一角と立ち合いをさせてその腕前を試してみたいという。ということで内匠頭は家来一同と相談し、その剣士として堀部安兵衛、竹林唯七(ただしち)、矢田五郎右衛門の三人が選ばれた。
 それから3日ほど経って、ご本家からのお迎えが来る。大勢のお供とともに霞ヶ関のご本家へ向かう。松平安芸守は、良い者を連れて参ったなァと喜ぶ。広い庭園には紅白の幕が張りめぐらされる。大勢の家来が周りを囲んで見学をする。矢田五郎右衛門が第一に出ることになる。清水一角は黒竹刀を持ってツカツカと進む。二人はともに中段に構える。すぐに矢田五郎右衛門は小手を取られて、「参ったァ」と声を上げる。安芸守は「一角は名人だな」と言って喜ぶ。矢田五郎右衛門は悄然として戻ってくる。「貴公の無念を晴らしてやるぞ」、次に堀部安兵衛が前に出て、中段に構える。清水一角は正眼の構えである。両者まったく隙が無い。両者、お互いの腕に感服する。そのうちに太陽の光線が一角の目にギラギラギラと入る。一角は後ろへジリジリと下がる。安兵衛は前に前に出る。これを見ていた竹林唯七は「そこだァ」、大声で叫ぶ。一角は思わず呼吸が乱れる。そこへ安兵衛が「エイヤァ」と打ち込む。これが肩に当たる。剣術の試合で肩を打つとなんて型はない。安兵衛は竹刀を下げて「失礼の段、お詫び申し上げます」と言う。浅野内匠頭は安芸守に「家来どもの粗忽、申しわけございません」と詫びる。「今日の試合は心に留めおくであろう」、安芸守は奥へと下がる。
 清水一角は芝宇田川町の道場に戻る。堀部安兵衛は、安芸守に一角を召し抱えるように何度も頼む。安兵衛が道場を訪ねると、一角は「安兵衛殿のご厚意は生涯忘れません」と言う。結局、一角が松平安芸守に仕官することはなかった。
 元禄14年3月14日、江戸城殿中松の廊下において、浅野内匠頭は吉良上野介に刃傷に及ぶ。上野介はわずかな傷を負っただけであったが、内匠頭は即日切腹、お家断絶となる。八方に散った赤穂浪士の噂で世間は持ちきりになる。
 そんなある日、芝宇田川町の一角の道場を訪ねたのは、米沢藩、上杉弾正大弼(だんじょうだいひつ)殿に仕えている一角の妹の雪乃であった。「兄さま、ご出世の時が参りました」。上杉家で清水一角を500石で召し抱えたいという。一角にとっても不足はない。それから3日目、道場は一番弟子に譲ることにして、大勢の門弟と別れを告げる。上杉家に参り、上杉弾正大弼にお目通りする。主従固めの盃を交わし、お家の剣術御指南番に加わる。
 これから半年たった。千坂、長尾の両家老が一角に、親類にあたる本所松坂町の吉良上野介の屋敷で勤めてもらいたいと言う。赤穂浪士たちは上野介様を恨み、主君の仇討ちをしようとしている。そこで力が借りたいといい、一角は承知をした。しかし赤穂浪士が吉良様を恨むのは当然だ、忠義の浪士たちを邪魔だてすることになる、こんなことならご奉公するのではなかったとがっかりする。
 吉良の屋敷で清水一角は丁重な扱いを受ける。ここへ来てから一角は元から酒は好きだったが、浴びるように飲むようになる。ある日訪ねて来たのは妹の雪乃である。兄に酒を控えるようにとのご家老様からの言い付けを伝える。一角は大丈夫だという。
 元禄15年12月14日夜、一角は非番でこの夜も酒をしこたま飲んでグッスリ寝ている。真夜中、ドンドンドンドンと山鹿流の陣太鼓の音がする。一角はすぐに支度をして、庭の中央に出る。赤穂浪士の側は潮田又之丞らで3人一組である。チャリンチャリンとやりあう。一角の腕前に3人はジリッジリッと下がる。そこへ駆けつけたのが、堀部安兵衛である。月明かりに照らされて顔がよく見える。「おお、堀部氏ではないか。以前のご厚意は生涯忘れはしないが、今宵は敵と敵」。「それはこちらも同じ事」。お互いチャリンチャリン、一角にわずかに隙があった。「エイッ」、安兵衛の一刀に一角は血煙立てて倒れる。一角ほどの腕前があるのになぜ敗れたのか、さては覚悟をしていたのだなと思う安兵衛だった。




参考口演:田辺一鶴

講談るうむ(http://koudanfan.web.fc2.com/index.html
inserted by FC2 system