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『レ・ミゼラブル〜銀の燭台』あらすじ

(れ・みぜらぶる〜ぎんのしょくだい)



【解説】
 『レ・ミゼラブル』は1862年にフランスの作家、ヴィクトル・ユーゴーが執筆した小説。主人公のジャン・バルジャンは貧しさのあまり1片のパンを盗んだが、この罪で19年もの間刑務所にに服役する。すっかり心の荒んでいた彼だが、ミリエル大司教の気高い魂に触れ、すっかり改心する。マドレーヌという名で暮して事業で成功し、ついには市長にまで昇り詰める。この「銀の燭台」は日本でも道徳の教科書にも採用されるなど、広く知られたエピソードである。

【あらすじ】
 1815年10月のこと、フランスの片田舎、ディーニュの町に一人の旅の男がトボトボと歩いてやってくる。歳は五十前後、着ている服はボロボロである。どこの宿屋へ行っても断られ泊まるところがない。教会の前の広場に石のベンチがあり、その上に横になる。するとその教会から一人と老婆が現れ、「こんなところで寝ていては身体を壊しますよ」と話しかけてくる。男は金が無い事を打ち明けると、老婆はあの青い屋根の家へいったらどうかと言う。
 男は青い屋根の教会へとやってきて、扉を叩き、中に入る。部屋には大きなテーブルがあり、そこには70歳くらいの老人が座っている。老人の後ろには60歳くらいの女性が2人おり、一人は召し使い、もう一人は老人の妹であった。部屋に入り、男は一方的に喋りまくる。「俺の名はジャン・バルジャンだ。ついこないだまでツーロンの監獄に入っていた前科者だ。今日は13里も歩いて疲れ果てた。ここに泊めてくれ」。老人はここは宿屋ではなく教会だが、どうぞゆっくりここで休んでください、これから一緒に食事を取りましょうと言う。ジャン・バルジャンは喜ぶ。夕食はなんとも質素であった。これなら馬方の方がましではないか。食事が終わって、ジャン・バルジャンは銀の燭台を借りて部屋へと入る。
 このジャン・バルジャンはパリの東方、ブリ―の町で百姓の子として生まれる。25歳の時に姉の亭主が亡くなって、7人の子供の面倒をジャン・バルジャンがみるようになる。しかし働いても働いても暮らしは上向かない。冬のある日、仕事もなく金もない。子供たちは腹が減ってしょうがないという。そこでジャン・バルジャンはパンを泥棒するが、捕まってしまう。パンを1つ盗んだだけで5年の刑を受けツーロンの監獄に入れられる。何度か脱獄を試みるが、そのたびに刑を増され、合計で19年間も監獄に閉じ込められる。その間に人間不信になり、すっかり心も荒んでしまった。
 部屋に入って、グッーと寝込むが、夜中に目が覚めて眠れなくなってしまった。ふと思いついたのは先ほどの銀の燭台である。邪(よこしま)な考えが思い浮かんだ。老人を殺してしまおうかと思ったが、月明りに照らされた老人の穏やかなを顔を見て思いとどまった。そうだ、銀の皿だ。食器棚から銀の皿を取り出し、それを布袋に入れて塀を乗り越え教会から抜け出す。街角に差し掛かると、「待て」と3人の憲兵に呼び止められる。袋の中を改められ、銀の皿が見つかる。「これはどうしたんだ」「貰ってまいりました」「お前みたいな男にこんな高価な物をくれる訳がないだろう」、憲兵に両腕を掴まれて先ほどの教会に引きずり込まれる。老人はいう。「先ほど銀の皿を差し上げたが、この銀の燭台をお忘れになった。この燭台も持って行ってください」。銀の皿は盗まれたものではなかったと言う。憲兵はジャン・バルジャンを解き放つ。憲兵に聞くとこの老人はミリエル大司教であると言う。大司教というと軍の大将よりも偉い方である。
 憲兵が立ち去ってミリエル大司教は語る。「私は銀の皿と燭台であなたの魂を買います。これからは真っ直ぐな道を歩いてください。神様を信じて下さい」。話を聞いてジャン・バルジャンは荷物を投げ出し教会を飛び出す。駆けて駆けて駆けまくり、夜明け近くに畑の中の草むらの上に腰を下ろして空を眺める。そのまま大の字に寝転がる。
 しばらくすると鼻歌が聞こえる。見ると12〜13歳の子供が銀貨を手に取りながらこちらに近寄ってくる。その銀貨が落ちてジャン・バルジャンの足元に転がってくる。銀貨を足で踏みつける。「おじさん、その足をどけてよ」「うるさいよ、向こうへ行け」、子供は泣きながら向こうへ去る。ジャン・バルジャンの頭の中には昨夜の大司教の言葉が駆け巡り、絶叫する。「坊や、坊や」追いかけるが子どもの姿は見えない。途中までいくと馬車に乗った神父らしい人がいるので尋ねてみる。「子供を見ませんでしたか、この金を子供に返してあげたいんです」「私は知りません」「ここに金があります。これを貧しい人に分けてあげてください」。馬車は立ち去ってしまった。
 ジャン・バルジャンはディーニュの町に戻る。ミリエル大司教の教会の前で両手を付き頭を下げる。後から後から涙が流れてくる。すっかり改心したジャン・バルジャンは町を去る。世の中には神様がいると信じるようになったジャン・バルジャンであった。




参考口演:宝井琴梅

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