『講談るうむ』トップページへ戻る講談あらすじメニューページへ メールはこちら |


『八百蔵吉五郎〈天明白浪伝〉』あらすじ

(やおぞうきちごろう)



【解説】
 連続の白浪物『天明白浪伝』のうちの一席で、この部分のみが独立して掛かることも多い。
 両国広小路の水茶屋に勤めるお花と店に時々やってくる呉服屋の若旦那が、いつしか深い仲になる。二人はお花の父親の好兵衛も認める仲で、若旦那は横山町にあるお花に家にしばしば通ってくる。ある日、若旦那はその顔を長屋の糊屋の婆ァに見られる。彼は呉服屋の若旦那などではなく、お尋ね者の八百蔵吉五郎という盗人であった…。

【あらすじ】
 両国広小路の水茶屋では紅・白粉の濃い女が、派手な着物で祝儀欲しさに客を引いている。なかで三吉野のお花はこういう稼業にしてはおしとやかで、今年18歳である。
 ある年の夏の暑い日、昼下がりに客足が途絶えたところで、チャチャチャと雪駄の音をさせて、歳のころ25,26の色の白い役者のようないい男が茶屋に入ってくる。「明日も反物の仕入れの相談がありますから寄らせていただきますよ」。こう言い残して、座布団のところに2朱の祝儀を置き、男は去っていく。
 翌日は日が暮れようかという時分にまたこの男は訪ねて来る。お花は茶にヨウカンを出し、二人は四半時語らう。「毎日とはいきませんが、また寄らせていただきますよ」、こう言って男は去っていく。いい若旦那だね、と一緒に働くお咲はうらやましがる。
 それから何度か通ってくるうちに、若旦那とお花はすっかり打ち解ける。ある日、若旦那は木挽町の芝居にお花とお咲を誘う。翌日、三人は芝居見物をし、芝居茶屋へと引き揚げる。楽しく語らうちに普段は飲まないお花も酒が進む。お咲は一足先に座を立った。こうして若旦那とお花は深い仲になる。
 若旦那は部屋住みの身だからと、お花の父親・由兵衛も承知の上で、横山町の裏店へ若旦那は通ってくる。月々の十分な手当てがあるので畳が替わる、障子が新しくなると家が小ぎれいになっていく。お花の着ているものもキラキラ輝く光物が多くなる。こうなると長屋の連中が黙っていない。井戸端でいろいろに噂をしあう。そこへやってきた若旦那。長屋の者たちと顔が合うと逃げるようにパッとお花の家に入っていく。「あれは、今評判の八百蔵吉五郎という盗人だよ」、糊売りのお杉婆ァが言う。この婆ァはお上の手先を務めている女だった。洗濯物を取り込むと、外へと駆け出していく。
 この様子をお花の父親・由兵衛は雪隠の中で聞いていた。家へ戻ると、お花は先ほど訪ねて来た若旦那が「もうお前とは会えなくなった」と言って裏から出て行ってしまったと泣きながら言う。彼のことを本町の袋物問屋の若旦那だと聞かされていたお花。実は彼はお尋ね者の八百蔵吉五郎という盗人である、彼のことはもう諦めろと由兵衛は告げる。お花はもう一度だけでも若旦那に会いたいと涙ながらに言う。
 すると縁の下からガタッ、ガタッという音がする。床板を上げて現れたのは八百蔵吉五郎であった。お花に別れを告げに来たのだ。心底お花に惚れていたが、お杉婆ァに顔を見られたからにはもう江戸にはいられない、こう言う。由兵衛は、お前がいなければお花は死んでしまう、一緒に娘を連れてってくれ、盗人はやめて堅気になっておくれ、こう吉五郎に乞う。遠くのほうから「御用、御用」という声が聞こえてくるなか、八百蔵吉五郎とお花は、二人で家を出ていくのであった。




参考口演:一龍斎貞心

講談るうむ(http://koudanfan.web.fc2.com/index.html
inserted by FC2 system