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『大岡政談〜室咲の梅』あらすじ

(おおおかせいだん〜むろざきのうめ)



【解説】
 数ある大岡政談のうちの一つ。芝口に住む道具屋の弥助には、すぐに嘘をつくという癖がある。ある日、刀を買い受けてのその帰り道、ワンワンと吠え立て咬みついて来る犬がいるので持っていた刀で斬り殺す。その足で日陰町の仕事仲間の家に寄る。弥助の服には返り血がベットリ付いており、悪い癖の出た弥助は「侍二人と斬り合いになった」とデタラメの説明する。しかしその日、本当に人殺しがあった…。

【あらすじ】
 「室咲(むろざき)の梅」とは、今でいう温室で育てる梅のことで、季節をごまかし梅の花を咲かせる、そんな意がある。
 江戸・芝口一丁目に住む道具屋の弥助。女房は「おきみ」といい、一人息子は惣吉という。弥助には嘘をつく癖があり、「ホラ吹き弥助」「闇鉄砲の弥助」と呼ばれている。享保8年12月20日のこと、麻布御家人、奥住忠兵衛から刀を買い受ける。その帰り道、愛宕下の青松寺(せいしょうじ)の付近で、「ワンワンワン」と激しく犬が吠え立て、咬みつく。慌てて弥助はこの犬を持っていた刀で斬り付けて殺す。
 あたりはすっかり暗くなってきた。提灯を借りようと、日陰町の道具屋仲間の上総屋三蔵の家を訪ねる。中では三蔵はやはり仲間の源七と茶飲み話をしている。弥助が入って来て、三蔵、源七は驚く。弥助の着物には血がベットリと付いている。弥助の悪い癖が出た。今しがた侍2人と斬り合いになり、返り血を浴びた。実は自分は中国のさる大名に仕えていた剣術指南番で、武士の煩わしさが嫌になり、今は気楽に道具屋稼業をしているのだと語る。提灯を借り、うまく騙してやったと喜びながら家に戻った弥助は女房には本当の事を話して眠りにつく。
 この日、仙台屋敷の塀外で本当に人殺しがあった。南奉行所の役人が取り調べる。亡くなったのは中田伊右衛門という者。女房の「おこう」は死骸に取りすがって泣く。この様子を見ていたのが、上総屋三蔵と源七である。昨日、弥助が語っていたのはこの事ではないかとヒソヒソ話す。その話が役人の耳に入る。弥助の家を取り調べると、血の付いた着物、刀が見つかる。弥助と女房は青松寺の前で吠え立てる犬を斬ったと訴えるが聞き入れられない。弥助は捕まり、奉行所へと引き立てられた。
 年が明けて正月2日、この一件は大岡越前守が取り扱うことになる。奥住忠兵衛は弥助に刀を売ったと証言する。また三蔵、源七も弥助は人を殺すような者ではない、ただ彼は嘘を付く癖があるので、今回もそうでないかと訴える。この後2、3度取り調べがあり、斬り殺された伊右衛門の妻、おこうは尼になって夫の菩提を弔うという。越前守はそれを押し留め、おこうが店を継ぎ繁盛させてはどうかと提案する。おこうは「貞女の鑑」としてご褒美がもらえることになった。後日、後継人の際物師(きわものし)、菊松と一緒に来るよう越前守は申し付ける。
 数日後、おこうと菊松は奉行所を訪れる。白州に座り待っていると、同心が箱を持ってきた。菊松の前に差し出され、開けるとそこには出刃包丁が入っている。越前守が語る。伊右衛門の傷の切り口を調べるとこれは包丁で斬られたもので、刀で斬られたものではない。したがって弥助は下手人ではない。また弥助は犬を斬ったと言っているが、犬の血は時間が経つと黒くなる。弥助の刀と衣類に着いた血は確かに黒い。
 さて、弥助の息子の惣吉は11歳になるが、父がそんなことをするはずが無いと、芝神明宮で水を浴びで願掛けをする。まだ寒い時季である。7日の夜、大雪の日、この日の夜も惣吉は水を浴びるが気絶をしてしまう。これを物乞いの幾次郎が助ける。惣吉は幾次郎に事情を話すと、幾次郎はもらい泣きする。実は幾次郎は、ある男が伊右衛門を斬り殺す場を見ていたが、面倒なことに関わりたくないと黙っていた。惣吉の孝心に感じいった幾次郎は、明日朝一番で奉行所に訴え出ることにする。
 翌朝、幾次郎は奉行所を訪れ、越前守の前で訴える。伊右衛門が斬り殺される場を目撃した幾次郎はムシロを被って寝ているふりをしていた。斬り殺した男の後をそっと付けて家まで行った。それは菊松の家であった。菊松に白状しておしまいなさいと迫る。観念した菊松はすべてを白状する。菊松とおこうとは、伊右衛門の目を盗んで深い仲になっていた。そこで邪魔になった伊右衛門を殺したという。2人は刑場で処刑される。無実が明らかになった弥助を、越前守はこれからは嘘・偽りを申さぬようにと戒める。「騙されて心地の良きは室咲の梅と夜飼(よがい)の鶯の声」。大岡政談のうち「室咲の梅」という一席。




参考口演:田辺凌鶴

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