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『霧積楼小うた』あらすじ

(むせきろうこうた)



【解説】
 『霧積楼小うた』は中山あい子の著作『昭和娼婦伝』の中の一編で神田すみれがたまに演じる。昭和の初めの話。「小うた」は旅まわりの役者の娘である。ある時に上州・安中で座頭である父親が病気になり、一座は窮乏してしまう。小うたは安中の近くの坂本という宿で遊女になり、借金を払うための金を稼ぐ。そこに現れたのは「杉田」という親切な男であった。杉田は、小うたが夫の実家に預けている子供と会うために千葉の松戸まで行こうという…。

【あらすじ】
 「小うた」は元は旅回りの役者の娘である。旅をしながら芝居をし、楽しく暮らしていた。昭和6年のこと、上州・安中での興行があったがそこで座頭の父親が急病になり亡くなってしまう。さらに一座のうちの何人かがお金を持って持ち逃げしてしまう。小うたには夫の扇二郎と2歳になる男の子がいる。子供を抱えては芝居を打つことも出来ずに困ってしまう。座元への小屋代、その他雑多な費用で300円という金がどうしても必要になる。そこで小うたは坂本の霧積楼(むせきろう)という遊女屋に身を落としたのである。子供は夫の実家に預けて、借金を返すための金を稼ぐ。
 霧積楼では花千代という姉さんが実の姉のようにかわいがってくれた。小うたが遊女屋に身を沈めて2年目の2月の寒い日。東京から繭(まゆ)の買い付けに来たという杉田という男と知り合うようになる。少し苦み走ったいい男である。杉田は5日ほど居続けをする。ある日、小うたと杉田は松井田まで映画を見に行くことになる。松井田の駅まで着いて、2人は映画館には行かず寿司屋に入り、杉田はこれから東京へ行かないかという話をしだす。杉田は小うたを身請けしたいというのだが、小うたは自分には夫と子供がいると言う。子供は夫の母親の住んでいる松戸にいるとの話である。それならばこれから会いに行ったどうだ、汽車に乗っていけば今日のうちに帰れる、と杉田は言う。
 2人は汽車に乗って松戸の駅まで向かう。もう夕暮れが近くなっていた。ガラッと扉を開けると、かわいい子供が土間で遊んでいる。「ばあちゃん、誰か知らない人が来たよ」、小うたには一目でそれが我が子の春雄だと分かるが、子供の方はもう実の母親の顔を忘れてしまっているのであろう。「春雄ちゃん」と声を掛けるが、子供はビックリして奥の方へ引っ込んでしまう。代って出て来たのが小太りの婆さんである。春雄は煽二朗の兄夫婦の子として育てられていた。「これで何か買ってあげて下さい」、小うたは杉田から貰った5円の金を差し出す。
 小うたは杉田に子供に会えたことの礼を言う。まだ時間があるからと、2人は浅草へ向かい食事を取ることにする。浅草の料理屋へ入った2人。途中で杉田は座を立ってなかなか戻ってこない。しばらく待っていると「お車がお待ちです」と声が掛かる。杉田は向こうで待っているという。小うたが連れていかれたのは一軒の店であったよ。「おや、本当にきれいな人だね」「あの、杉田さんは」「ああ、今しがた帰ったよ」「ここはどこですか」「お前さん、ここなら今までよりもだいぶ稼げるよ」「お願いです、杉田さんを呼んでください」「杉田さんには1000円もの金を払ったんだからねェ。あの杉田ってのは女衒(ぜげん)なんだよ」、ここは吉原であった。はじめて杉田に騙されたと分かった小うた。坂本を出るときに、花千代姉さんを誘うべきだったと思ったがもう遅い。
 それから7日経って、小うたは「歌之介」という名で店に出るようになる。情け容赦のない吉原でだんだん自分がすさんでいくのが分かる。それから半月後、坂本の花千代に小うたから手紙が届く。花千代には梅吉という元ヤクザの夫婦約束をした男がいる。花千代は、小うたが病気になって病院へ入院した結果よくなったと聞かされていた。酷い目にあっていると知って可哀そうに思う花千代。
 花千代の頼みで梅吉は吉原まで様子を探りにいく。梅吉は「歌之介」の兄だといって店を訪ねる。すると4月8日の日に亡くなっていると知らされる。亡くなる前の日に、月のものがある日であったのに無理やり店に出されたという。するとお父さんから頼まれたという子供がお金を取りに来た。小うたはその子を「春雄、春雄」っと叫び抱きしめる。これを見た女将さんが怒って、若い衆が2階の仕置き場に連れていき、飲まず食わずの仕打ち、その翌日、梁に腰ひもを掛けて首を吊って死んでしまったという。
 この話を聞いた梅吉は山谷の親分に頼み込み、杉田と寿司屋の2階で会うことになった。杉田はあれから酷い目に遭ったといって小うたにまるで情けを掛けようとしない。勘弁ならない、梅吉は持っていた匕首で杉田を斬りつける。杉田は倒れる。梅吉はこれから前橋の刑務所に7年間服役をする。刑務所を出所すると、花千代は年が明けていて、小料理屋で住み込んで働いていた。梅吉27歳、花千代32歳、2人は夫婦になり、時折小うたのことについて思い出話を語らうのであった。




参考口演:神田すみれ

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