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『一突き半助』あらすじ

(ひとつきはんすけ)



【解説】
『柳生十兵衛旅日記』より。日本各地を旅する十兵衛。名古屋で「半助」という召使に出会う。主人の恥辱を晴らすため、剣術を習いたいというが、その期限はわずか10日間である。そこで、十兵衛が思いついた秘策とは…。

【あらすじ】
 『柳生十兵衛旅日記』より。柳生家は武芸でもって徳川家から1万石を頂戴していた。中興の祖は織田信長に仕えていた柳生但馬守宗厳(むねよし)、その子が新陰流を編み出した柳生宗矩(むねのり)である。その宗矩には3人の子があって、長男が十兵衛三厳(みつよし)、次男が刑部少輔友矩(ぎょうぶしょうゆうとものり)、三男が又十郎、のちの飛騨守宗冬(むねふゆ)である。
 長男の十兵衛は幼い頃から武芸が好きで、七〜八歳の時には家来を相手に稽古をしていた。この十兵衛は十三歳の時に行方知れずになり、三年後に戻って来たときには父親の但馬守も目を見張るほどの腕前になっていた。さらに修行を積み、二十一歳の時には、父親との三本勝負で1本勝ち、二十二歳の時には同じく三本勝負で2本勝つほどであった。そんなある日の夜のこと、十兵衛は憚(はばか)りへ向かうため、雨戸を一枚開けると、「ピュッ」と飛礫(つぶて)が飛んで来て、十兵衛の右目に当たる。植え込みから出てきたのは父親の宗矩であった。「許せ、その方の腕を試すために父がしたことじゃ」。これが元で十兵衛は碧眼(へきがん)になる。
 この頃は、三代家光が治めていたご時世。太平の世が始まろうとしていたが、まだまだ反旗を挙げようという動きはあった。そこで家光から十兵衛に内々にご沙汰があった。諸大名の動静・武力を調べて来るようにと命ぜられる。これから十兵衛は9年7ヶ月の旅に出る。これが『柳生十兵衛旅日記』である。十兵衛が道中弟子にしたのが、奥州津軽越中守の家来で、中山進三郎である。
 2人は尾張名古屋に入り、徳川大納言義直(よしなお)の家来に剣術の指南をする。この日、十兵衛は酒を飲んで、仮屋敷の玄関先で寝ている。そこへやってきたのは、下僕のような恰好をした男で、今度剣術の試合をするので、十日間で十兵衛に稽古を付けて欲しいというのだ。あまりに身勝手な求めで進三郎は相手にしないが、面白いと思った十兵衛は会って話を聞くことにする。
 この男は尾州様のご家来、御勝手御賄いの寺尾与左衛門の召使いで「半助」という。旦那の寺尾様は剣術のよく出来る方で、次の御指南番として期待されている。一方、ご城下のお堀端に榊原五郎左衛門という剣術使いがいて、道場は大層繁盛している。寺尾様が通り掛かった折、五郎左衛門が自分の道場に引っ張りこんで、しこたま酒を飲ませて、一本お手合わせを願いたいという。二人は勝負をするが寺尾様の木剣はポキリと折れ、眉間から血をタラタラ流して屋敷に帰ってきた。寺尾様の木剣には細工がしてあったに違いない。酒に酔っていたのでそれに気づかなかった。寺尾様は泣いて悔しがる。そこで仇討のために剣術を教えて頂きたいと半助はいう。榊原五郎左衛門の道場は今、普請をしており十日後には道場開きとなる。そこでは飛び入りで試合が出来るというのだ。十兵衛はそれならばと、明日の朝来いという。
 翌朝、早く半助はやってくる。十兵衛は昨夜来客があってまだ寝ているという。十兵衛はやっと起きたが、まだ酒が抜けないのでまた明日来てくれという。  その翌日、また朝早く半助はやってくる。今度はお城より急な呼び出しがあったということで、この日も稽古は出来ないという。
 3日目は半助はまだ暗いうちからやってきた。十兵衛の考えはこうだった。もとより半月や一月の稽古でものになるわけがない。わざと2日、無駄足をさせて当人の気をじらしておいて、それでも来るのなら十分に教えてやろうという考えだった。3日目の朝は十兵衛は早くから起きて待っている。「今日は、稽古をして進ぜる」。そんなにすぐに剣術が見に着くはずがない。命を捨てる覚悟があるなら「突き」が一番だという。イヤー、イヤー、何度も十兵衛に突いてぶつかる。これが毎日、毎日続く。教える側が名人で、教わる側も命懸けだから、半助の剣にたちまち魂が入ってくる。
 いよいよ、榊原五郎左衛門の道場開きで、たいへんな賑わいである。その玄関先で半助が「頼もう、どうか先生にお手合わせを願いたい」という。半助は道場に入る。まずは、2人の門弟を相手にする。さすがは十兵衛が仕込んで腕。あっという間に咽喉を一突きする。いよいよ五郎左衛門が相手だ。半助は木刀を胸の前に突き出す。五郎左衛門、どうせただの下郎だと高を括っている。五郎左衛門には少しの隙もない。次第に半助は追いつめられる。心配した柳生十兵衛は武者窓からこの様子を見ていた。五郎左衛門が半助めがけて斬り付けようとしたとき、十兵衛は武者窓の外から「イヤ」一言叫んだ。これこそ真の気合である。五郎左衛門は形勢が崩れる。半助は「ダー」と木剣を突く。これをまともに食らった五郎左衛門はぶっ倒れる。「主の仇を討ち取った」、半助は意気揚々である。
 これに十兵衛も満足し、尾張名古屋を後にして、次の地へと旅立つのであった。




参考口演:宝井琴調

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