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『幡随院長兵衛〜桜川五郎蔵と長兵衛の出会い』あらすじ

(ばんずいいんちょうべえ〜さくらがわごろぞうとちょうべえのであい)



【解説】
 連続物「幡随院長兵衛」のうちの一席だが、「桜川五郎蔵と幡随院長兵衛」「長兵衛・桜川の出会い」などの演題で単独で掛かることが多い。幡随院長兵衛(1622〜1650)は江戸時代の侠客。本名は塚本伊太郎で、唐津藩の武士の息子であった。武士の身分を捨てて、大名に働き手を周旋する人入れ元締めとなる。腕っぷしが強くて面倒見がよく、義理に厚い「男のなかの男」として讃えられる。旗本奴の水野十郎左衛門と対立し、水野の屋敷で殺害されたとされる。講談では連続物として読まれるほか、歌舞伎でも「極付幡随長兵衛」などで有名。

【あらすじ】
 ここは東海道の川崎宿のはずれ、日の出屋という一膳飯屋である。ちょうどお昼時、ひとりの浴衣を着た相撲取りが店にはいる。また下っ端のふんどし担ぎらしい。店の主人の音右衛門は元は役者でちょっと変わった人物である。気を利かせた主人は相撲取りに、二人前のご飯に大盛の煮しめ、汁を差し出す。相撲取りが美味しそうに食べるのを、主人は帳場から嬉しそうに眺める。相撲取りは半分だけ食べ、銭が足りず半分しか払えないという。「いいかなみんな食べてしまいな」。相撲取りは有難く全部を頂戴する。
 尋ねると駿府で興行があったが、江戸に残してきた母親が突然大病になり、親方から許しをもらって戻る途中だとう。相撲取りの名は桜川五郎蔵。感心した主人は紙に包んた1分の金を渡す。さらに主人は奥の方で休んでいる大元締めの伊勢屋清兵衛、元締めの幡随院長兵衛を紹介する。幡随院長兵衛長兵衛と言えば日本一の親分と言われる男である。二人は江の島へ参詣に向かう途中であった。小遣いだといって長兵衛は5両、清兵衛は1両の金を桜川に与える。「親御さんを大事にしていい相撲取りになっておくれ」。桜川は涙を流して喜ぶ。桜川は笠を被っていない。長兵衛は自分の笠を桜川に貸す。
 病気の母親が待っているからと、桜川は日の出屋を急いで出る。しばらく伊勢屋清兵衛と長兵衛は酒を飲んでいたが、大変なことを思い出した。この先の鈴ヶ森では追剥がでるという話である。6両1分もの大金を持っている桜川の狙われるかもしれない。親孝行な桜川に怪我をさせてはならない。江の島だったらいつでも行ける。長兵衛は伊勢屋清兵衛を残し、ひとり鈴ヶ森へ向かう。
 鈴ヶ森まで来ると追剥が三人、焚火をしている。「また相撲取りが来たぞ、さっきのより大きいぞ」。貫禄のある長兵衛を追剥たちは関取だと見間違える。「待ちな、待ちな、ここで一服していかないか」追剥たちが声を掛ける。長兵衛は腰掛け、スパリスパリ煙草を吸う。ひょいと見ると自分が桜川に貸した笠、桜川の着ていた浴衣がある。「先ほど弟子がここを通らなかったかね」と長兵衛は尋ねる。追剥は得意げに語る。少し前に通りがかりの相撲取りに目を付けたが、ふんどし担ぎでは金を持っていそうにない。一人は見逃そうというが、今一人は「商売というものはみみっちくやらなければならない」と言う。その相撲取りを脅すと、「この手前の川崎で情け深い人たちから6両1分の金を恵んでもらった」とあっさり話し、「江戸に病気の母がいるので半分だけにしてくれ」と乞う。「馬鹿野郎、残らず置いておけ」と脅して全部の金を巻き上げ、さらに着ている物も全部脱げと言い付ける。「ここは地獄の一丁目と言って、二丁目のねえ所でェ」、追剥は凄む。
 「それだったらわしも全部脱いでいこう」、長兵衛は言う。「気前のいい奴だ、全部脱げ」、追剥は喜ぶ。「じゃあこれは脇差だ」と長兵衛は差し出す。「随分と豪勢な脇差を持ってやがるなァ」追剥は感心する。「これはどうしたんだ」「ご贔屓の旦那に拵えて貰いました」長兵衛は答える。「これは帯でござんす」、「本筑前のいい帯だなァ」追剥はまたも感心し、長兵衛はまたもご贔屓に貰ったものだと言う。「今度は着物でござんす」、「縮緬のいい着物だなァ」追剥はまたまた感心し、長兵衛はご贔屓から頂いたものだとまたまた答える。次に長兵衛は「財布に金が70〜80両ございます」これも追剥に手渡す。「これもご贔屓から受け取ったもので…」。裸になった長兵衛、これがいい身体である。関取なのに傷ひとつない。もち肌でスベスベしている。「この身体もご贔屓から…」。
 ふんどし一丁になった長兵衛は煙草を吸わせてもらいたいと、焚火に近づく。一本丈夫そうな丸太を見つけると、これを手に取る。3人をあっという間にやっつけグルグル巻きにする。長兵衛の身体に傷は付けなかったので、命だけは助けてやることにした。「情けのある人がいたら助けてもらえ」、奪われた着物、財布、脇差を取り戻し、江戸へ戻る。入谷田圃の桜川の家に唐犬(とうけん)権兵衛を使いに出すと、桜川は殊の外喜ぶ。長兵衛をはじめとした身内一同が桜川を贔屓にする。桜川もメキメキと実力を付け、十両の筆頭まで出世する。




参考口演:宝井琴梅

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