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『左甚五郎と狩野探幽(左甚五郎〜掛川騒動)』あらすじ

(ひだりじんごろうとかのうたんゆう・ひだりじんごろう〜かけがわそうどう)



【解説】
 「甚五郎と探幽」「探幽と甚五郎」などの演題もあり、主に上方で演じられる。浪曲でも「掛川の宿」などの演題で掛かる。落語の「抜け雀」にもよく似た話である。
 掛川宿の本陣、遠州屋に名工の左甚五郎、名絵師の狩野探幽が泊まり合わせる。互いに素性は知らない。離れの座敷に明日、尾張の殿様が泊まると知って、二人はいたずらをしたくなる…。

【解説】
 言わずと知れた名工、左甚五郎は汚い身なりでノミ一丁、ツチ一丁を懐にして東海道をブラリブラリと歩いていく。やって来たのは遠州・掛川宿。宿場の真ん中あたりに客引きをしていない立派な宿がある。ここは遠州屋という本陣であった。「本日より三日間、他のお客様お泊りお断り」と立札がある。偏屈者の甚五郎は、ならば無理にでも泊まってやろうと思う。宿の者は「明日から尾張の殿様がお泊りになるのでお引き取り下さい」と言う。それでも甚五郎は泊まるというが、宿の者はやはり断る。それならば今夜ここで首を吊ろうか。仕方なしに甚五郎を便所の横の行燈部屋に泊めることにする。甚五郎は2分の金を女中に与え、酒を飲んだり芋を食ったりする。窓から覗くと立派な離れ座敷がある。ここが尾張の殿様がお泊まりになる部屋で中には立派な南天の床柱がある。尾張の殿様にはしばらく会っていない。甚五郎は何か、いたずらをしたくなる。
 今度は一人の汚い身なりの老人が玄関先に立つ。「ごめん下さいまし」。やはり「お断り」という立札を見て泊まりたくなったという。宿の者は拒むが老人は引き下がらない。「ならば今晩ここで首を吊ろうか」。結局、老人は甚五郎と同じ部屋に泊まることになった。両者面識はないが互いに目を合わせ、これはただ者ではないなとピーンと来る。この老人は当時日本一の絵師と謳われた狩野探幽であった。女中に2分の金を与え、酒とツマミを買って来てくれと頼む。窓から覗くと離れの座敷がある。ここが尾張の殿様のお泊りになる部屋であるか。中には立派な金屏風がある。考えると尾張の殿様にはしばらく会っていない。ちょっといたずらしたいと思う。
 夜になり、宿の中は寝静まる。左甚五郎も酒に酔って寝ている。探幽は行燈片手に部屋を出る。台所のすり鉢に水と消し炭を入れて墨液を作る。離れ座敷へと入ると雲平筆(うんぺいふで)にたっぷりと墨を含ませ、金屏風に一気に絵を描き始める。夢中になってすり鉢を蹴飛ばしてしまい、新しい畳に墨液がパッーと飛び散る。探幽は慌てて着ている浴衣を脱いで拭き取ろうとするが、余計に汚れが広がる。そうしているうちに、この浴衣がいい筆になるかもしれないと気づく。再び金屏風に向かい、浴衣を使って見事な山水を描く。褌一丁で部屋に戻って、カッーと寝入る。
 代わって目が覚めたのが左甚五郎。見ると隣で褌一丁で老人が寝ている。身体のあちこちに墨が付いている。甚五郎が離れの座敷に行ってみると、畳が墨で汚れている。金屏風には見事な山水。そうかあの老人は絵描きだったのか。それなら俺もやってやろう。南天の床柱をコツコツ彫り、見事な大黒天を造りあげる。
 夜明け前、二人は目が覚める。「これはどう考えても怒られることをした」。宿の主人は烈火のごとく怒り、二人は裏庭の松の木に吊り下げされた。畳はなんとか替えることが出来たが、金屏風と床柱はもうどうにもならない。遠州屋の主人は切腹、お家断絶の覚悟である。
 「下にィ、下にィ」、尾張の殿様一行が到着した。遠州屋の主人は恐る恐る離れの座敷に案内する。意外にも殿様は「褒めつかわす」と言う。金屏風は狩野探幽の作、床柱は左甚五郎の作であるというのだ。それと分かった主人は慌てて探幽と甚五郎を松の木から降ろす。二人は互いに正体を明かし、ともに尾張の殿様との再会を喜び合ったという。




参考口演:旭堂南龍(当時は南青)

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