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『蕗の仇討』あらすじ

(ふきのあだうち)



【解説】
 『妲己(だっき)のお百』は、古代中国の王の后の「妲妃」にも匹敵する稀代の悪女、お百についての連続物の読み物だが、その中のスピンオフ的な話。出羽国・秋田藩の藩主、佐竹義峯は当藩に大人が3〜4人も入れるような巨大な蕗(ふき)のが自生していると自慢する。これを聞いた広島藩の藩主、松平安芸守は「左様な偽りを申して」と笑う。そこで佐竹家の小姓の名川采女は、安芸守を凹まそうと一計を案じる…。

【あらすじ】
 出羽国秋田、当時は久保田、藩主は佐竹右京太夫義峯(よしみね)公がおいでになったころの話。この方は少々怒りっぽい方であった。延享元年の春のこと。殿中ではいろいろな藩の特産品についていろいろと語り合っている。藤堂和泉守は佐竹公に対して、「ハタハタという魚がおり、その頭には御当家の紋所をいただいているという話だが、まことでござるか」と聞く。佐竹公はまことであり「佐竹魚」と呼ばれていると語る。佐竹公はこのハタハタよりも「秋田蕗(ふき)」を皆に見せたいという。この秋田蕗は大人が3〜4人ほど雨宿りが出来るほどの大きさだと語る。皆が感心するが、傍らで聞いていたのが芸州広島の御太守の松平安芸守、佐竹家とは親戚筋である。この安芸守が「さような偽りを申すと笑われますぞ」と言う。佐竹公は「偽りなど申していない」と言葉を返し、2人は言い争いになる。佐竹公の刀に手が掛かり一触即発というところで、将軍が御成になり、なんとかその場は収まる。
 憤然やる方ない佐竹公は屋敷に戻って家老を呼び出す。目を血走らせて「安芸守を刃傷する」というから家老もビックリ仰天である。突然、襖の向こうから「あはは」大きな笑い声がする。襖が開くとそこにいたのは、名川采女(ながわうねめ)という小姓である。激怒した佐竹公の前で名川采女は申す。明日、殿中で安芸守を刃傷したところで、殿の仰せが偽りか真かを知らせることは出来ない。諸侯方に秋田蕗の実物を見せ、その大きさを分からせる方が大事だと語る。佐竹公も納得した。
 こうして領内では大きな秋田蕗探しが始まった。一方、佐竹公から諸大名の元に、「近日、国入りにつき、屋敷に招待して一献差し上げたい」という書状が届く。今でいう送別会みたいなものである。
 当日になり、ご馳走が振る舞われる。「七五三の御膳」と呼ばれる物である。宴たけなわで大変に盛り上がっているその時に、接待役の名川采女が「これからお出しするのは当家領内から取り寄せました格別なる一品でござりまする」と言う。丸太を切ったようなものが銘々に出されるが、これが何であるのか誰にも分からない。まことに柔らかく食べてみるとほんのり苦みがあり大変に美味しい。松平安芸守にもこれが何だか分からない。
 「これでございます」、名川采女が合図をすると庭側の障子が開く。庭に並んでいるのは、まことに大きな蕗である。「これが秋田蕗でございます」。そのあまりの大きさに諸侯方は皆関心をする。名川采女は安芸守の前で告げる。「これでも殿中で主人の申しましたことを偽りと申しますか」。安芸守は殿中で佐竹公が申したことが真であったと認め、自分の首を斬って主人の恨みを晴らせと名川采女に命ずる。広間の中の諸侯方は「そういうことであったか」と顔面蒼白である。そこで佐竹公が名川采女の元につかつかと歩み寄る。「安芸守への無礼を許さん、手討ちにいたす」と、刀を抜く。名川采女も首を差し出す。佐竹公は刀を大上段に振りかぶる。この時、佐竹公を止めたのは他ならぬ安芸守である。「ここは私に免じてこの者をお許し願えないか、佐竹殿は良き家来を持ってうらやましい」、諸侯方も「お手討ちには及ばず」と声を掛け、この場はうまく収まる。この功により、名川采女は1000石のご加増になる。
 実はこれからこの名川采女が妲妃のお百という稀代の悪女と謀って、佐竹の家に騒動を起こすという話になるのだが、それは別の機会に。




参考口演:田辺一邑

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