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『天人お駒』あらすじ

(てんにんおこま)



【解説】
 両国の医者の妻、お駒。年齢は30歳くらいの若くて美しい女性。虫も殺さぬような優しい顔をしていて「天人お駒」と呼ばれているが、実はとんでもない悪女であった…。

【解説】
 江戸・両国の回向院の裏手に佐藤春岱(しゅんたい)というお医者様がいた。年は60歳を越えているが、名医との評判が高く、患者もたくさん詰めかけ裕福な生活をしていた。奥さんは「お駒」といい、歳はずっと若くて30歳くらいで美しく艶っぽい人であった。その他、お市という50歳ほどの女中と、薬籠持ちの権八と合わせて4人で暮らしている。近所の女将さん連中は、お駒は元は芸者なのだろうと噂し合うが、口の固いお市は何も語らない。薬籠持ちの権八は37〜38歳の苦み走ったいい男。これがお駒といつの間にかいい仲になる。
 ある日、お駒は権八とどこか引っ越して一緒に世帯を持とう、春岱は殺してしまえと唆す。権八は大恩のある先生にそんなことは出来ないと断るが、お駒には逆らえない。お前は相当の悪党だろうとお駒は権八の過去を見破る。そこまで言われては仕方ない、権八は自分の正体を明かす。武州・熊谷無宿の権次という渡世人で、人を一人殺めて江戸へ出て、それからも盗みに強請と犯罪を重ね捕まること幾たびか、どうやらシャバへでて今こうしていると言う。お駒も自分で手を下したりはしないが、手練手管で男を騙し、何人もあの世送りにしていると言う。虫も殺さぬような優しい顔をして「天人お駒」と呼ばれているが、実はとんでもない悪女である。
 翌日、春岱は浅草・花川戸の料理屋で医者仲間の寄合があり、これに参加する。寄合のあとは酒宴になり、夕刻にお開きとなる。迎えに来るはずの権八が来ない。一人で川べりを歩いていると、後ろから権八が駆けつけて来る。提灯を忘れたと言い、権八が先導する。「ここに大きな穴が開いていますよ」、春岱の気を引き付けておいて、匕首を取り出し権八が刺す。そのまま春岱はこと切れてしまう。死骸は川の中へドブンと落とす。何かがプカプカと浮かぶ。坊主頭の春岱の顔である。権八が歩きかけると誰かがグイッと足を掴む。ヒョイッと見ると、恨めしそうな坊主頭の春岱である。「ワッ、助けてくれ」、夢中で駈け出す。
 お駒の元に駆け込んで、すべてを報告する。なんとも気持ち悪い。こんな時は酒でも飲もう。権八は匕首を忘れて来たことに気づく。権助は寝ようとすると、上から春岱が乗りかかって首を絞めようとし、慌てて起きる。何だい意外と意気地のない男だねェ、呆れるお駒。続いてお駒が寝ようとする。「先生、勘弁してくれ」権八は叫び、お駒も眠れない。殺しを唆したのはお駒の方である。化けて出るなら、お駒の方へだ。今度、権八の元に春岱が出たならば、自分の方へ差し向けてくれ、お駒はこう言う。
 夜が明けて、お市には急患が出て2〜3日、旦那のお帰りは無いとごまかす。この間に、この家をこっそり処分する手はずであった。しかし、夜になるとまたまた権八がうなされる。「勘弁してくれ、お駒から頼まれたんだ」。この屋敷には春岱の怨念が残っているのだ。明日にでも引っ越そうと2人は相談する。やがてスヤスヤ寝込んだ権八。こんなちょいちょいうなされるような意気地なしでは困ったものだ、これではこっちの身も危なくなるかもしれないとお駒は考える。こうなれば春岱と2人で、私の所へ化けてお出で。鏡台から剃刀をそっと取り出して、スーッ、権八の首を切ると果ててしまった。
 この死骸をどうやって始末しよう。すると廊下から、ミシッミシッという音。「誰かいるのかい」。そこにいたのはお市であった。「ちょっと片付け物があるから廊下にいてくれ」「その片付け物というのは権八の死骸でありましょう」「なんだって」。お市は話す。とうの昔からお駒と権八のことは気付いていた。そしてお市が目の前に差し出したのは、権八が落としていった匕首である。お市は権八が春岱を刺す様子をすっかり見ていた。権八の足を掴んだのはお市であった。するとビックリした権八は匕首を落として逃げて行ってしまった。
 そこまで知っているとなると、お市もただの鼠ではない「茨のお市」という悪党であった。足を洗って女中奉公をしていたが、またこうして悪事に関わることになってしまった。お市はお駒に100両の金を要求する。その代わり権八の死骸の始末を引き受けるという。
 その夜、権八の死骸をつづらに入れて、お市が運ぶ。こんな夜中に婆さんがつづらを担いでいるのはおかしいと定廻り同心に怪しまれ、御用となる。一方、お駒は両国を逐電するのであった。




参考口演:神田翠月

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