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『天明白浪伝〜金棒お鉄』あらすじ

(てんめいしらなみでん〜かなぼうおてつ)



【解説】
 「天明白浪伝」は泥棒、悪人を主人公にしたオムニバスのような連続物。この「金棒お鉄」は生活苦の親子からも借金を取り立てようとする因業な婆さんを長屋の連中と大家が協力して懲らしめるという、笑いの多い話である。二代目神田山陽が演じ、三代目神田松鯉、さらに弟子の阿久鯉、鯉栄、伯山らに伝えられている。伯山の口演はCDとして発売されている。

【あらすじ】
 浅草の黒船町に一挺の駕籠が止まる。駕籠のなかから出てきたのは六十恰好、品川の女郎屋「わかずり屋」の婆さん、「金棒お鉄」である。顔は四角、真っ黒で目に険がある。向こうからやってくるのは三十歳くらいのご婦人で、12〜13の可愛い娘の手を引いている。女性は「お浜」といい、この婆さんから金を借りていた。婆さんは借金返済の催促に来たのだ。お浜は自分の貧しい家へと婆さんを招き入れる。お浜の夫、勘兵衛は長い事病気で寝たきりであった。「お医者から新しいお薬を頂いてきました」。5両借りた金は利息を加えて今は15両になっている。勘兵衛は働くことが出来ないからと返済の猶予を願うが、わかずり屋の婆さんは許さない。2〜3年経ったら店に出すといって、無理やり娘を引き連れようとする。止めようとするお浜の胸を婆さんは蹴飛ばす。病身の勘兵衛は何も出来ない。
 えらい騒ぎに長屋の連中たちが出てきた。なんとか勘兵衛とお浜、それに娘のお花を助けたいが、自分らも金を借りている身である。なんとか穏やかに済ます方法はないか。小間物屋の十兵衛はふだん女・子供を相手にしているので優しい人である。十兵衛に間に入ってもらえば婆さんに帰ってもらうよううまく説得できるかもしれない。十兵衛は勘兵衛の家を訪ねる。勘兵衛さんの身体が良くなるまで待っていただけないかと婆さんに請い、長屋の者で責任をもって15両を返すと約束するという。しかし婆さんは「15両、今すぐ耳を揃えて返せ、小間物屋なんてガラクタ売っているんだろう」と悪態をつく。怒った十兵衛は、提灯ババア、唐傘ババア、おしぼりババア、くそったれババア、梅干しババアと謗る。こちらも怒った婆さん、「私は悪党仲間でも知らぬ者はいない、わかずり屋の金棒お鉄というんだよ」、十兵衛はこの野郎といって婆さんを殴りだす。婆さんも殴り返す。これではどうしようもない。
 長屋の連中は大家の平兵衛のところに相談をしにいく。いったん火が着いてしまったのでもうこのままでは収まらない。このままどんどん燃やしてしまえ。長屋の連中で芝居をすればいい。うまくいけば婆さんは5両くらいの詫びの金を置いて逃げていくであろうと平兵衛はなにやら策を告げる。
 手筈通り、手水に行かせるといって勘兵衛、お浜、お花の三人を家から連れ出す。その間に長屋の者は大掃除をする、長い間病人が寝ていたから陰気臭いといって畳や障子を表に出す。掃除が済むと、大家の物置に古くなった畳、障子があるのでそれを敷き、はめる。長屋の者が帰ると、今度は小間物屋の十兵衛が「喧嘩の仕直しに来た」とやって来る。ドッタンバッタン婆さんと喧嘩を始める。「あたしは江戸お構いの金棒お鉄だぞ」。そこへ戻ってきた長屋の連中が参戦し、婆さんを小突き回す。ドサクサに紛れて障子の紙を破り骨を折り、畳をボロボロにする。「人殺し、助けて、ヒー」、婆さんが何か叫ぼうとすると外に聞こえないように口に水を掛ける。
 もうよかろうと乗り込んできたのが大家の平兵衛である。喧嘩は両成敗だ、双方で責任を持てと言う。障子も畳も滅茶苦茶である。算盤をだして損害は42両と計算する。2両はまけて、長屋の者と折半し婆さんにも20両を払ってくれと告げる。「なにを元々古物じゃないか」、怒った婆さんは奉行所に訴えるという。平兵衛は語る。婆さんは自分のことを「江戸お構い」と言った、江戸に入ることは許されないのに、堂々と駕籠に乗ってやって来た、しかもかわいい娘さんを女郎にするという、お上に知られれば島流しになるであろう、20両出せば丸く収まるぞ。「畜生、みんなで謀りやがって」。結局婆さんは貸している15両を差っ引いて5両を置いていく。「もうこんな所に二度とくるか」、這う這うの体で逃げていくのであった。




参考口演:三代目神田松鯉

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