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『天明白浪伝〜稲葉小僧』あらすじ

(てんめいしらなみでん〜いなばこぞう)



【解説】
 天明年間(西暦1781〜1789年)は天明の大飢饉、浅間山の噴火、田沼の悪政と世が混乱した時代。そこで人々は、つつましく暮らすよりも、太く短く生きようという人生を選ぶ。そんな時代、この連続読み物では10人の盗賊が登場する。
 稲葉小僧はそのうちの一人で、大名屋敷を専門に狙う盗人で江戸の市中でも評判になっている。ある夜、丸の内の鍋島藩の屋敷に忍び込むが、奥方に姿を見られ逃走、足を槍で突かれ怪我をしてしまう…。

【あらすじ】
 天明時代の江戸の話。現在の丸の内界隈には大名屋敷がたくさんあった。その中で肥前・佐賀の藩主である鍋島丹後守がいる。正月のこと、真夜中、その奥御殿をそっと歩く一人の曲者がいる。女中たちはカルタ取りに興じていたが、九つ(午前0時)を過ぎると皆、スヤスヤ寝入ってしまう。曲者は奥方のお綾様のご寝所の前で足を止める。そっと戸を開け部屋に入り、手文庫へと歩みを進めるとと、屏風の向こうから「ハァ―」とため息を付く声が聞こえる。屏風の中を覗いた曲者は「いい女だな」と思う。突然、奥方の目がパッチリ開く。「曲者ッ」と叫ぶと、枕もとにあった文鎮を投げつける。曲者はヒラリと体をかわしてこれを避ける。「しまった」、曲者は廊下を走る。女中たちも目を覚まし、薙刀を持って庭先に出る。また夜番の侍も駆けつける。曲者は塀を乗り越えようとする。一人の侍が突いた槍が曲者の右の足に刺さる。「ウーン」、うめき声をあげながら、塀の向こうへと落ちる。一同の者が表に出るが、曲者の姿はすでに無く、点々と血が滴り落ちた跡が残っている。
 翌朝、鍋島藩の家臣がこの旨を若年寄に報告する。奥方のお綾様は曲者の顔を見ている。そこから人相書きが出来上がる。歳の頃は25〜26。色は白く鼻筋が通った険のある男。さっそく手配し、足に傷を負っていることから医者や薬屋などもしらみつぶしに調べる。しかし一向に手掛かりをつかめない。こういう賊は、仕事に失敗したあとは憂さ晴らしで、遊郭へ遊びに行くに違いない。そこで吉原などにも手配する。
 吉原の中町には火焔玉屋(かえんたまや)という店があった。ある日、一人の男が店にあがり、喜瀬川花魁と共に酒を飲む。夜が更けて、喜瀬川は男に着替えたらどうかと言い、箪笥(たんす)から長襦袢を取り出す。男に着せようとすると、喜瀬川の顔色が変わり、慌てて梯子段を降りて店の主人に告げる。手配書の男によく似ている。しかも右足に怪我をしているようだ。主人は店の者を走らせ、同心に連絡する。聞くとこの盗賊は大名屋敷ばかりを狙う「稲葉小僧」だという。
 大勢の捕り手が店を囲む。喜瀬川に聞くと稲葉小僧は匕首(あいくち)を持っていて布団の下に隠しているという。喜瀬川が部屋に戻ると、稲葉小僧は寝ている。そっと布団の下の匕首を取り出して駆けだす。この音で稲葉小僧は目が覚めた。「このアマ、待てェ」。喜瀬川が梯子段を降りる。稲葉小僧も駆けおりる。ここで、「稲葉小僧、御用だ、御用だ」と捕り手が取り囲む。屋根にヒラリと登った稲葉小僧。しかし屋根にも捕り手が控えていた。稲葉小僧は屋根から屋根へと伝って逃げる。吉原はひっくり返るような大騒ぎである。
 吉原の近く、花川戸の積善堂という易者の家。主人は太田佐善治という50くらいの男である。夜になり布団を敷こうとすると、ミシ、ミシと屋根から男が降りてきて、匕首を見せる。この太田佐善治、表向きは易者であるが、実は稀代の盗人、神道徳次郎である。「名前を聞かせていただこう」。「最近世間ではあっちのことを稲葉小僧と呼んでいます」。「おお、大名屋敷ばかりに忍び入っていると噂の稲葉小僧か、実は陰から喜んでいた」。稲葉小僧は女に現を抜かして捕らわれそうになったことを話す。徳次郎は駕籠の蓋を開けろという。稲葉小僧が開けると、木綿の着物や半河童、脚絆、胴巻き、道中差に草鞋と旅に必要なもの一式が入っている。これは百姓のなりだが、この方が逃走しやすいだろうと言う。稲葉小僧はこれを着こみ旅人の姿になる。徳次郎は胴巻に30両の金を入れてあるというが、それが無い。実は稲葉小僧が先日盗み出したのだ。盗人が盗人の家に盗みに入るなんてことがあるか? 稲葉小僧は手文庫の中から30両の金を貰う。甲州街道・八王子宿には風見の長兵衛という男がいる、この男に頼るがいいと徳次郎は告げる。
 旅人姿、百姓姿の稲葉小僧は内藤新宿までやってきた。御用聞きが5〜6人焚き火を囲んでいる。「頬かむりを取れ」、稲葉小僧は素顔を見せる。御用聞きは吉原に逃げ込んだ盗人を捕り手が取り逃がした話をする。自分たちなら一目顔を見て分かる、そんなドジな真似はしないと言って、人相書きを見せる。稲葉小僧は、「その人相書きと自分とは似てませんか」と言う。御用聞きは「確かに似てはいるが、身なりが違うな」と言葉を返す。稲葉小僧は、自分の来ている合羽は裏がツルツルしていて、掴まれてもすぐに逃げ出すことが出来ると自慢する。「犯人は百姓姿に化けてここを通るに違いない、お役人様、お気を付けください」。しゃあしゃあと稲葉小僧は去っていく。
 やって来たのが八王子宿の長兵衛の家で、しばらくここに厄介になる。この先、神道徳次郎と稲葉小僧、二人の大盗人により江戸はひっくる返るような騒ぎになる。




参考口演:神田阿久鯉

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