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『太閤記〜日吉丸誕生』あらすじ

(たいこうき〜ひよしまるたんじょう)



【解説】
 講談の『太閤記』は、上方はもちろん東京でも良く掛かる連続物の読み物である。全部で360席あるとも言われ、その昔は秀吉が出生してから亡くなるまで一年を通して一席ずつ読む講釈師がいたとも伝えられる。この話はその発端部分で、誕生してから蜂須賀小六に仕え、今川家に奉公するまでのエピソードをまとめたもの。

【あらすじ】
 尾張国愛知郡中村、今のJR名古屋駅付近に弥右衛門と「なか」という百姓夫婦がいた。天文4年、なかは妊娠したが子供がなかなか生まれない。天文5年1月1日、今の時間で朝4時、元気な男の子が産まれた。母子ともに健康である。これは大変な子供が生まれた。今年の干支は申(さる)年だが、この子は猿そっくりだ。旦那寺の和尚にこの子を見せると次のように語る。目の中にふたつ点があるが、これはかの源義経と同じものである。成長した暁には三公(さんこう)の位に達するかもしれないが、悪く育てると天下をとどろかす大悪人になるかもしれない。この子は日吉丸と名付けられた。
 すくすく成長して日吉丸は6歳になった。大変にヤンチャで手が付けられないので、寺に預けることにした。しかしこの寺でもワンパクは治らず、寺の本堂でドタンバタンと暴れる。どうにもならないと、1年も経たないうち日吉丸は家へと返される。それから他の家に奉公に出すが3月もしないうちに戻ってくる。また奉公に出すがまた戻ってくる。どこへ行っても「出てけ」と言われる。こんなことが36度続いたという。
 13歳の時、日吉丸はイッパシの侍になりたいと、旅支度をし、プイッと家を出る。岡崎まで来たが、休むところが見つからない。やむなく矢作橋の中ほどで横になる。そのうちに日吉丸は寝入ってしまった。侍5〜6人が橋を渡る。そのうちの一人の足が、日吉丸の頭にコツリと当たる。日吉丸は侍の足を掴んだ。筋骨たくましい侍で、近所に住む蜂須賀小六という者であった。日吉丸は小六に対して謝れという。小六が問うと、日吉丸は年齢は13だといい、侍になりたいと話す。「それならば俺の家来になれ」と小六は言い、日吉丸は彼に厄介になることになる。小六は野武士で金のある屋敷に押し入っては盗みを働いている。
 ある日、小六とその一味は財産家の屋敷に侵入するため、玄関の戸を木づちで叩き壊そうとする。そんなことをすれば大きな音がして、屋敷の者が集まってくる。日吉丸は柿の木に登り、枝を伝ってスルスルと屋敷内に侵入し、内から門の扉を開けた。小六と手下は屋敷に入り、金銀財宝を奪って逃げる。日吉丸だけが逃げ遅れてしまった。屋敷の警固の者たちが暗闇のなか追う。日吉丸は手ごろな大きさの石を井戸の中にドブンと投げ入れる。「奴は井戸の中に飛び込んだぞ」ワイワイ人が集まってくる。その騒ぎに乗じて日吉丸は逃げてしまった。それを聞いて小六は感心する。
 またある日のこと。小六は青江下坂(あおえしもさか)の銘刀を所持している。これを三日以内に自分から盗め、もし盗めたらお前にこの刀をあげようようと言う。小六は昼は刀を腰に提げ、夜は刀掛けに置いている。一日目はなにもない。二日目もなにもない。三日目は朝から雨が降り、夜にはザーザー降りになる。すると、雨が傘に当たる音がする。外で自分の様子を伺っているのだろう、小六は思う。いつまで経ってもこの音が止まない。2日間寝ていない小六はウトウトとしまい、やがて目が覚めた。朝になると銘刀・青江下坂がない。外ではいまだ雨が傘に当たる音がする。部屋から覗くと、そこには傘だけが置いてあって、日吉丸の姿はない。してやられた、日吉丸こそ真の泥棒だ、小六は感心する。
 ある時、気まぐれで日吉丸は小六の元をプイッと離れる。あちこち放浪した末、今川家へと辿り着く。ここには、松下嘉兵衛という軍師がおり、彼に奉公することになる。日吉丸は18歳になり、元服して「木下藤吉郎」と名を改める。持ち前の知恵と機転とで、この後どんどん出世していくという話になる。




参考口演:神田山緑

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