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『豊竹呂昇』あらすじ

(とよたけろしょう)


【解説】
 豊竹呂昇(1874〜1930)は明治から大正期にかけて活躍した女流義太夫師で、その頂点にいた人物。名古屋の出身で、同地の寄席に出るがこの頃から美声と美貌で人気があった。1892年、18歳の時に大阪に移り豊竹呂太夫の弟子になる。やがて女義太夫の第一人者となり、東京の名人会にも出演し、多くの贔屓を集めたという。

【あらすじ】
 明治の中頃の話。名古屋の大須観音境内裏に七福亭という寄席があった。掛かっているのは女流義太夫で、竹本小土佐(たけもとことさ)が大層な評判である。その前方を務めていたのが、駆け出しの竹本仲路(なかじ)である。仲路が高座を終え、楽屋で諸先輩方の芸を聴いていると、客席から「スリだ」「巾着切りだ」の声が上がる。そこへ飛び込んできた一人の男。仲路の肩をポンと叩き、楽屋の隅にあったつづらの中に隠れ、息を潜める。巡査が楽屋へ入って来たが「ここにはいない、裏へ廻れ」とやがて去っていった。客席も落ち着きを取り戻した。
 3ヶ月経ち、仲路の家に呉服屋の大津屋の番頭が訪れる。若旦那との仲が人に知られるようになってしまい、店の旦那も奥様もたいそう立腹している。千円の金を渡すので、これっきり若旦那とは別れて欲しいと持ち出す。すでに二人の間には昨年産まれた国松という子どもがいる。そんな金は受け取れないと、仲路は大津屋の前に行き若旦那と会おうとするが、門前払いとなる。悔しい。女芸人だからと馬鹿にされたのか。
 夜、仲路は熱田の海岸へ行く。「南無阿弥陀仏」。ドブン。身を投げようと海の中に入る。そこへ後ろから抱き留める男がいる。そこへ雲の切れ間から月明かりが漏れる。「仲路さん、よしなさい」。見ると3ヶ月前に寄席の楽屋で助けた泥棒である。この泥棒は電信小僧の万吉という。万吉は仲路に、あなたには義太夫という大きな夢があるとコンコンと説得する。仲路は家に帰り、母親に一部始終を話す。若旦那のことは忘れて義太夫に命を懸ける。本場の大阪へ行きたい。仲路は子供を母親に預け、大阪へと旅立った。
 大阪では豊竹呂太夫の弟子になる。3年経って真打に昇進し、呂昇と名を変え大層な評判になる。名古屋から母親と息子を引き取ることも出来た。
 ある時、料亭で忘年会を開く。東屋で呂昇は風に当たっていると、恩人である万吉が現われた。名古屋でまずいことがあって大阪に渡って来たと言う。取り締まりが厳しく、これから高跳びするがその前にどうしても呂昇に会いたかった。呂昇は万吉が今後安楽に暮らせるようにしたいと手立てを考えるが、万吉はこれを断って表へ出ていく。「御用だ、御用だ」。万吉は巡査に取り囲まれ捕らえられる。呂昇は「どうか話させてください」と巡査に取り合うが、万吉は「話をすることなぞ何もない」と言い、巡査と共に去っていく。
 その後も呂昇は一心に修行に励む。東京にも乗り込むが、ここでも大層な人気である。その帰り、故郷・名古屋で錦を飾る。呂昇は大正13年引退するまで、女流義太夫師として活躍した。




参考口演:一龍斎貞友

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