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『三味線一代(三味線やくざ)』あらすじ

(しゃみせんいちだい・しゃみせんやくざ)



【解説】
 神田翠月がよく演じた。当代きっての名優、中村富十郎が江戸の中村座で「京鹿子娘道成寺」を演じ、一方相方の杵屋弥市は三味線弾きとして日本一の腕である。この弥市が小揚人足の親分、七兵衛の妾の「おさん」とよい仲になるが、親分にそれが知られ、江戸にはいられなくなる。大坂へ向かう途中、箱根で…。

【あらすじ】
 明和から安永にかけての頃、今から230年ほど前、大坂で一代の名優と謳われる中村富十郎が、久方ぶりに江戸の中村座で十八番の「京鹿子娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)を踊ることになった。その相方を務めるのが杵屋弥市(きねややいち)で、21歳のなる若い三味線弾きである。富十郎からも日本一といわれているほどの名手である。弥市にはバクチ打ちの道楽があった。このころ浅草界隈を根城にしている小揚人足の親分で、七兵衛という人がいた。弥市も暇なときはこの七兵衛親分の元でバクチをしていた。七兵衛の妾で「おさん」という女がいる。元は吉原で芸者をしており、そのころから弥市とは馴染みであった。やけぼりっくりに火が付いて、弥市とこのおさんがまた付き合うようになる。駒形の料理屋で2人はしばしば逢引きする。
 今夜も九つの鐘が鳴る頃、辺りはシーンと静まりかえる。おさんは2人の仲が親分にしれたらどうすると、弥市と相談する。弥市は親分に斬られようと殺されようと構わないという。「いい度胸だ」、廊下で大きな声がする。襖をあけて入ってきたのは七兵衛親分であった。「2人一緒に斬ってやる」。「なぜ、このようなつまらない真似をした」。弥市は、おさんが吉原にいたころから言い交した仲であることを説明する。「スッパリやっておくんなさい」。弥市の覚悟に七兵衛は感心した。七兵衛は2人を許すことにした。その代わりに江戸を出て二度と戻ならいようにと言う。しかし弥市がいないと富十郎が困る。中村座での千秋楽まで、弥市の江戸滞在が許されることになった。
 弥市とおさんは江戸をあとにして、大坂へ向かうことになった。箱根の宿で雨のため3日間閉じ込められる。退屈した弥市はバクチに手を出してしまう。しかし相手がイカサマ師で、路用の金子はすべて取られてしまう。しかたなしに2人はあばら家を借りて、おさんは「こよし」という名で芸者になって懸命に働く。お金が出来たら1日も早く2人で大坂へ行こう。
 こうしているうちに3年の歳月が流れた。夏、おさんは病に臥し、秋には身動きが出来ない身体となる。ある日、弥市は中村富十郎を見かけたことをおさんに話す。また富十郎に同道していた藤助という者の話から、3年ぶりで江戸でまた「京鹿子娘道成寺」を演じることを知る。弥市がいない中村座で道成寺は踊りたくない、富十郎はこう嘆いていたと聞く。弥市は江戸へ行きたい心の内を話す。おさんもまた行きたい、弥市が中村座で弾く三味線を聞きながら死にたいという。
 よし、行こう。箱根を出て、おさんを駕籠に乗せ、富十郎を追って江戸へと向かう。初日も近くなり江戸に着き、中村座まで出向く。富十郎はたいそう喜ぶ。3年経っても、弥市の腕はまったく落ちていない。
 そしていよいよ初日、おさんは桟敷で見物している。ここで「幕を開けちゃあならない」、5〜6人の者が駆け寄ってくる。七兵衛親分の身内である。富十郎は、七兵衛と話を付けていなかったのだ。七兵衛は約束通り、弥市の命を奪うという。弥市は、おさんが病気でもう長くない命であることを話す。一度だけ演じさせて下さい。そうしたらも私は殺されても構いません。七兵衛は一度だけの舞台を許す。これで最後と思うと、まるで弥市の魂が三味線に乗り移ったかのようだった。
 幕が降りて、弥市はこれで未練はないと富十郎にいう。そこで現れたのが七兵衛、幕が降りるのと同時におさんは息を引き取ったという。「弥市を助けて下さい」、そういいながら死んだという。これに免じて弥市の命を助けるという。七兵衛はいまでもおさんに惚れている、なので弥市が憎くて憎くてたまらなかったと心の内を話す。弥市はまだぬくもりのあるおさんの手を握りながら、もう女房は他に持たない、三味線をおさんのように生涯大事にすると誓いながら、涙を流すのであった。




参考口演:神田翠月

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