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『曽我物語〜一万と箱王(兄弟召し捕り〜由比ヶ浜の敷皮)』あらすじ

(そがものがたり〜いちまんとはこおう・きょうだいめしとり〜ゆいがはまのしきがわ)



【解説】
 「曽我物語」は曽我十郎祐成(すけなり:幼名は一万)と曽我五郎時致(ときむね:幼名は箱王)が、父親の河津三郎祐康(すけやす)を殺害した工藤祐経(すけつね)を仇討ちするまで、様々な苦難を重ねるという話。「赤穂義士伝」「伊賀の水月」とともに「日本三大仇討」とされる。
 源頼朝は、伊東祐親(すけちか)の娘と結ばれ子供を産むが、平家側に協力する祐親はこれに激怒、子を川の中に沈める。この件を頼朝はずっと恨んでいる。工藤祐経は頼朝をそそのかして、祐親の孫である一万と箱王の兄弟を捕らえさせる。2人は斬首されることになる…。

【あらすじ】
 伊東祐親(すけちか)は河津祐康(かわづすけやす)の父親である。工藤祐経(すけつね)とは親族同士であるが所領の件で争っている。安元2年10月14日、伊豆・奥野での狩りの帰りに、柏が峠で、河津祐康は、工藤祐経の命を受けた近江小藤太(おうみのことうだ)、八幡三郎(やわたのさぶろう)の矢に掛かり殺害される。この時、河津祐康の息子、一万は5歳、箱王は3歳であった。妻の満江(まんこう)は、舅である伊東祐親の計らいで、幼い子供2人を連れて相模国・曽我中村の里へと赴き、曽我祐信(すけのぶ)と再婚する。
 4年の月日が経った。9月13日、一点の曇りもない月の夜。兄の一万は9歳、弟の箱王は7歳である。空を見ると雁が西の方へと飛んでいる。5羽の鳥は親子であろう。鳥でさえ父親がいるのに、自分たちには誠の父がいない。2人は仇の工藤祐経をいつか討とうと誓いあう。次の日から兄弟は、手製の弓矢や木刀で仇討ごっこをする。
 頼朝は、一万・箱王兄弟の祖父である伊東祐親の娘と結ばれ男の子を産む。これを知った伊東祐親は激怒する。この頃はまだ平家が全盛の世であり、祐親も平家側の武将だった。伊東祐親の命で産まれたばかりの子、千鶴丸は川へ投げ込まれる。頼朝は我が子を殺されたことをこの先ずっと恨みに思っていた。
 これから情勢は大きく変わる。源頼朝は北条時政(ときまさ)の世話を受け、娘の政子と結婚する。北条時政は頼朝を支援し、治承4年8月に頼朝は石橋山の合戦で兵を挙げる。この時は破れたが安房に脱出して盛り返し、鎌倉に入ると次々と坂東の武者たちが馳せ参じる。頼朝は強大な権力を持つようになり、平家側に加担していた伊東祐親は自害。兄弟の父の仇、工藤祐経は源氏の御家人になり、今では重用されている。兄弟の養父である曽我祐信も頼朝に忠誠を誓っている。兄弟の母親は、父の仇を討ちたいという2人の気持ちも分かるが、曽我の家も守らなければならない。仇討の真似事なんという人の目に付くことは止めなさいと兄弟を諭す。
 それから2年、平家一門は都落ちをする。源頼朝は重臣たちを集め、酒を酌み交わしている。参席していた工藤祐経は頼朝に進言をする。自害をした伊東祐親には一万と箱王という孫がいる、まだ幼いがそのうちには頼朝公の敵となるであろう、今のうちに消してしまった方がよい。梶原景季(かげすえ)は頼朝の命で曽我祐信の屋敷に出向き、一万と箱王を召し捕る。母も義父も嘆く。景季は嫌な役を引き受けてしまったと思う。
 夜が明け、梶原景季は兄弟の命乞いをするが、頼朝はどうしても我が子を殺された恨みを晴らすという。兄弟は由比ガ浜で打ち首にされることになった。検死の役は梶原景季とその父の景時である。太刀取りの役は堀弥太郎。鎌倉じゅうでこの話題は持ちきりである。兄弟のために念仏でも唱えてあげよう。由比ガ浜は黒山の人だかりである。敷皮の上に座った兄弟に曽我祐信は近寄り何か言い残すことはないかと尋ねる。兄弟は母親に立派に首を斬られましたとお告げ下さいと言う。堀弥太郎は太刀を抜き、兄弟の後ろにまわる。ところが兄を先に斬るべきか、弟を先に斬るべきが迷う。ここで曽我祐信は自分が兄弟の首を斬ると言い、堀弥太郎から太刀を受け取る。一万の後ろにまわって太刀を振り上げる。しかし斬ることは出来ない。堀弥太郎に兄弟より先に自分の首を斬って欲しいといって、泣き叫ぶ。曽我祐信の涙に堪りかねた検死役の梶原景時は「某(それがし)が君に助命のお下知を頂きにまいる」、こう言って馬に乗り頼朝の館(やかた)の方へと急ぐ。
 景時は兄弟の助命を乞うが、頼朝は許さない。和田義盛(よしもり)、宇都宮三郎、千葉常胤(つねたね)ら重臣も頼朝の袖にすがって乞う。頼朝が奥へ入ろうとしたときに現れたのが、畠山重忠(はたけやましげただ)である。敵を恐れぬ勇者でありながら情けに厚い。「いかに伊東祐親が憎いといえども既にこの世にはいません。兄弟の義父である曽我祐信が謀反を起こすわけでもない。それなのに幼い兄弟の命を取るようでは、将軍の器が疑われるかもしれません。兄弟はこの重忠にお預けください。もし受け入れてくださらなければ自害いたします」。重忠は今にも腹を切りかねない気迫である。頼朝も折れて、兄弟の命は助けることになった。
 さすがは上様と皆はホッとし大喜びであるが、ただひとり悔しがったのが工藤祐経である。直ちに畠山の家臣の半沢六郎が由比ガ浜へ馬を走らせ、知らせを伝える。「ご助命のご沙汰がありましたぞォ」。曽我祐信も取り囲んでいた群衆も喜ぶ。これから11年後、富士の裾野の巻き狩で、兄弟は父親の仇、工藤祐経の首を挙げ、仇討本懐を遂げるという話になる。




参考口演:宝井琴桜

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