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『笹野権三郎(笹野名槍伝)〜摩耶山狒々退治』あらすじ

(ささのごんざぶろう・ささのめいそうでん〜まやさんひひたいじ)



【解説】
 「笹野名槍伝(ささのめいそうでん)」という演題もよく使われる。槍の名手、笹野権三郎が主人公になる連続物で、途中からは義父の仇、種田五郎左衛門を追って旅をするという話になる。その前段になるのが「摩耶山狒々退治」「道場破り」などの部分で、前座が短く演じることも多い。この部分では和歌山から旅に出た権三郎が、摩耶山の山中で偶然に槍の名手と遭遇し、「佐分利(さぶり)左内との出会い」という演題が使われることがある。

【あらすじ】
 笹野権三郎義胤(ささのごんさぶろうよしたね)の父親は、笹野権頭正胤(ささのごんのかみまさたね)という武将で、元和元年の大坂夏の陣で壮絶な討ち死にをする。もはやこれまでという時に息子の権三郎を家来の木村権太夫に託し、笹野家の再興を請う。権太夫は大坂城を脱出し各地へ流転し、紀州和歌山で小笠原流の道場を開く。これが紀伊大納言頼宣公のお目に留まり、剣術指南番として召し抱えられる。また権三郎を我が子同様に育てる。権三郎は18歳になり、宝蔵流の管槍(くだやり)の奥義を極め、「槍の権三」と称賛されるようになる。面白くないのが藩の槍のご指南番、種田五郎左衛門で、権三郎を亡き者にしようと企む。これを義父の権太夫が察知し、権三郎に彼の出自を教え、ひとまず武者修行という名目で和歌山を出立させる。
 こうしてやってきたのが摂津国の摩耶山(まやさん)である。景色を楽しんでいると日が傾いて来た。山道を急いで降りるが、途中で日はとっぷりと暮れてしまった。そのうちに真っ暗になる。道を間違え、いまさら戻る訳にもいかない。今日はここで野宿をしようと木の下に腰を下ろす。しばらくすると曠々とした満月が上がる。クマザサがガサガサと音がする。出てきたのは身の丈4尺、顔は人間のようで人間でない、総身は白銀の毛で覆われているという狒々(ひひ)である。キッと権三郎を睨みつける。権三郎は剣を抜き振り回すが、化け物はさっと体をかわす。次に背中を斬り付けようとするが獣の毛で刀が滑って権三郎はよろめく。狒々は権三郎の首筋に咬みつこうとする。権三郎は背中に風呂敷包みをしょっていた。この風呂敷包みが固い。狒々はオタオタする。この隙をみて権三郎は刀を上から下へと振り下げる。ギャッと声をあげ狒々は地上に倒れる。
 するとまたクマザサがガサガサという音がする。薮のうちから出てきたのは鹿の皮を被った老人であった。麓の猟師で次郎作といい、手には火縄銃を持っている。権三郎の見事な腕前に感心する。この狒々は女子供にいたずらをする、畑の農作物を荒らすという厄介者であった。懸賞金がかけられており、次郎作は狒々を捕らえようと山を歩きまわっていたという。
 権三郎は大きな狒々を背負った次郎作とともに断崖の道を降りる。今夜、この次郎作の家に世話になることになった。あばら家であるがなかなか風雅な家である。中には17から18に見える一人の美しい娘、「ゆき」がいる。こんな山の中にこんな美しい娘いるとはおかしい。ここは山賊の隠れ家ではないか。怪しく思った権三郎は家の中を見渡す。娘が次の間の襖をあける。そこには床の間があり、鎧、兜、刀、弓、矢などの物の具一式が据えられている。これは山賊ではない、落ちぶれた士族が山中に住んでいるのだ。あなたは名のある武家でないか、権三郎は次郎作に問う。自分は元は播州三日月城の城主、木下備前守の元で槍の指南をしていた佐分利左内(さぶりさない)であると答える。佐分利左内といえば佐分利流の槍の名人として高名な方だ、権三郎は驚く。
 どうしてそのような名の知れた方がこんな山中で暮らしているのか、権三郎が問うと左内は重い口を開く。三日月城には梶川軍太夫という家老がおり、甥には長谷川新六郎、新八郎という兄弟がいる、この兄弟が長谷川流という槍術を使い、左内が邪魔でしょうがない、そこで殿様にある事ない事左内の讒言をする、罪なき罪をもって左内は浪人をせざるを得なくなり、妻、娘とともにこの山中にやってきた、それからもう7年にもなるという。話をきいて娘のゆきも涙を流す。「それはけしからぬことです、梶原軍太夫、長谷川兄弟が許せません」、権三郎が声高に言う。左内はいまさら仕返しをしてもしょうがないと血気に逸る権三郎をなだめる。
 朝になり、朝食の粥をご馳走になり権三郎は旅立つことになる。村はずれまで左内が案内する。兵庫の町に出て、権三郎は三日月城の城下へ乗り込む。ここで浜田六郎右衛門という侍の屋敷に中間として住み込み働く。こうして長谷川兄弟と戦う機会をうかがうのだが、その話はまたいつの日か。




参考口演:神田菫花

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