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『関の弥太っぺ』あらすじ

(せきのやたっぺ)



【解説】
 「関の弥太っぺ」は、1930(昭和5)年に長谷川伸に発表した小説で、何度も映画化、テレビドラマ化されている。講談では過去には服部伸、現在では宝井琴梅が演じる。原作に比べ、講談では登場人物や筋が整理され、話がかなり簡略化されている。

【あらすじ】
 甲州街道、上野原の升屋という宿屋の2階に泊まっていたのは、常陸の国・関本の生まれの弥太郎、通称「関の弥太っぺ」で、年のころは22〜23歳。朝早く女中が働く音に気付いて目を覚ます。夕べ寝る前に布団の下に入れた65両入りの胴巻きが無い。女中に聞くと、7〜8歳の娘を連れた商人風の男がすでに江戸の方に向かって発っているという。そいつが盗んだに違いない。
 急いで宿を出て追いかけると吉野の宿の手前の松林で、その男を見つけた。男は胴巻きを盗んだ覚えはないという。弥太郎が男を斬りつけるとドッと倒れる。観念した男は胴巻きを差し出した。一緒にいた子供はどうしたのかと弥太郎が聞くと、この先の吉野の宿に手紙を届けさせたと言う。弥太郎は上野原の宿に戻って養生してもらえと言い、10両の金を渡す。男は身の上を話し出す。自分は和吉という者だが、今から8年前、吉野宿の沢井屋という宿屋の若い娘、お常を引っ張り出して夫婦になり、泉州・牛崎で所帯を持つ。その年に生まれたのが「お小夜」という子である。去年ふとした病が元で妻のお常はこの世を去った。自分はいつお縄に掛かるとも知れない稼業である。お小夜が不憫で、親子の縁を切って妻の生家である吉野の沢井屋で育ててもらおうとこの甲州路を下っていたという。男はお小夜の身を沢井屋に預けて欲しいと弥太郎に頼む。男はここまでいって、よろよろっと立ち上がって桂川の急流へと身を投げる。間もなくやって来たのが、和吉の娘のお小夜である。尋ねると沢井屋へ届けるはずの手紙を落してしまって戻って来たという。大事な証拠である手紙を無くしたとは困ったことだ。
 弥太郎はお小夜を連れて、吉野宿の沢井屋までやってきた。宿の主の銀太郎とその母親に、お小夜は8年前に姿を消したこの宿の娘の子であることを話し、両親とも亡くなったのでここでお小夜を育てて欲しいという。弥太郎は、子供の十年分の食い扶持として三十両、それに将来の婚礼の費用として20両を出し、宿を出ていく。この子の顔は娘のお常によく似ている。着替えさせると、着物の襟から母親の書き置きが出てきた。確かにこの子はお常の子に違いない。これから沢井屋では、お小夜を大切に育てる。
 これから月日は経ち、お小夜は18歳になった。その頃、弥太郎は下総の笹川繁蔵の家で厄介になっていた。ここで出会ったのが武州埼玉・箱田の信介という男である。この男とは野州・宇都宮の賭場で遊んでいたときにちょっとしたことから喧嘩になったことがある。チャリンチャリンとやり合っていると、宮下慶五郎の親分が間に入って仲直りをする。これが5年前のことである。笹川繁蔵親分の元でこの2人がバッタリ出会った。「いつかお前とはやり合わなければならないと思っていた」と決闘の約束をするが、この間に繁蔵親分の代貸(だいがし)である勢力(せいりき)富五郎が入り、また2人は仲直りする。
 その晩、多古の才兵衛という諸国を旅して歩いているオヤジが加わり、3人で車座になって酒を飲む。才兵衛はこんな話をする。甲州街道の吉野宿に泊まると、銀太郎という主がいる。その宿には17〜18歳になる綺麗な娘がおり、主がいうには9年前に迷子になっていたのを助けて連れてきてくれた方がある。その方は名前も言わず50両という大金を預けてどこかへ行ってしまった。この娘は今でもその時の親切な小父さんにに会いたい、あの小父さんに会わなければお嫁には行かないと言っている。あなた様は方々旅をなさっているようなので、その方を見かけたら吉野宿の沢井屋まで来てくれるよう呼び掛けてくれないかとこう言われたという。弥太郎は会いたいとも思ったが、やはり会わない方がいいだろうと思う。
 しかし、弥太郎は甲州へと行かなければならなくなった。というのは、笹川繁蔵の兄弟分、甲州の三崎の辰五郎という者が喧嘩で腕を貸してくれというのだ。翌日、笹川を発った弥太郎は江戸、八王子と通って小仏峠の茶屋に入る。茶屋の爺さんから吉野宿・沢井屋のお小夜が、今大変な事になっていると知らされる、十日ばかり前、7年前に迷子になったお小夜を沢井屋まで連れて来たという男が現れた。最初のうちは宿の者も恩人だということでもてなしたが、しばらくしてこの男が宿の婿になるという。なんだか昔あった時の優しい男とは違う。お小夜は断ったが、すると男は刀を抜いて大暴れするという。
 話を聞いて弥太郎は峠を降りて、慌てて沢井屋までやってきた。暴れているという男は信介であった。信介なおもお小夜を女房にすると言って迫る。そこへ弥太郎が駆け付けた。信介が斬り込んできたのをヒラリと避ける。弥太郎は一太刀で信介を斬る。信介の死骸は桂川の急流に流されていく。お小夜には弥太郎こそ7年前の恩人だと分かった。「今晩だけでもお泊りください」と引きとめるが、弥太郎は「達者でいろよ、あばよ」といって、吉野宿を去る。こうして弥太郎はひとり甲州・三崎の辰五郎の元へと向かうのであった。




参考口演:宝井琴梅

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