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『鈴の音』あらすじ

(すずのね)



【解説】
 一龍斎貞水が夏になると掛けていた怪談で、今では貞友などに引き継がれている。北岡伊織という侍には、律という美しい妻がいる。この妻が病気で亡くなる際、「後添えは決して貰わないでください。遺骸は庭の梅の木の元に埋めてください。棺には小さな鈴を入れておいてください」と言い残す。しかし妻が亡くなって間もなく、まだ若い伊織は後添えを貰うことになった。伊織のいない晩、新妻が部屋でひとり寝ていると、「チリン、チリン」と鈴の音が近寄ってくる…。

【あらすじ】
 ある西国の大名に仕えていた北岡伊織には律(りつ)という妻がおり、美人だと評判である。夏になりこの律がどっと病の床に臥せる。手厚く看護をするが日に日に容態は悪くなるばかりである。伊織は必死になって励ますが、律は絶え絶えの声で語る。もう明日の朝まではもたないであろう。死ぬのは怖くないが気掛かりなことがある。それは夫の伊織が後添えをもらうことだ。それを考えると死ぬに死ねない。これを聞いた伊織は決して後添えはもらわないと固く約束する。それではこの北岡の家が途絶えてしまいますと律は言うが、伊織は養子を取るので心配はいらないと言葉を返す。律は自分の遺骸は2人で植えた庭の梅の木の元に埋めてくださいと言う。それにもう一つ、小さな『鈴』を棺にいれてほしいと頼む。伊織はうなずき、律は安心したのか寝入るように息を引き取った。
 遺言どおり、遺骸は庭の梅の木の傍らに埋められ、立派な石塔が建てられた。約束通り小さな鈴も棺のなかに収められた。これから伊織は親戚や知人から「お前はまだ若い。跡継ぎがいないのだから後添えを貰え」と厳しく詰め寄られる。しかたなしに伊織は結(ゆい)という17歳の女性を新しい妻に迎える。先妻との約束を破ってしまった。
 婚礼から7日経って、伊織は夜詰めの役で城に泊まりこむことになる。新妻ははじめて一人で夜を過ごすことになる。床に就いたもののなにやら空気が妙に重苦しい。夜は次第に更け、草木も眠るという丑の刻。シンと静まり返った闇の中に、「チリン」という鈴の音がして近づいてくる。こんな夜更けに誰が鈴を鳴らしているのか。鈴の音は部屋の前でピタっと泊まる。すると隣の伊織の書斎に人の気配がする。「誰かいるの?」、行灯の灯りをつけ隣の書斎に入ると、誰もいない。やはり気のせいなのか。寝間に戻ると行灯の光がゆらゆら揺らめいている。後ろから生温かい風が吹き込んでくる。閉めたはずの襖(ふすま)がまた開く。真っ白なつま先が見え、また耳元で「チリン」と鈴の音が鳴る。ビクリとする。傍らには経帷子(きょうかたびら)を身に付けた女が、新妻を見下ろす。「出ていけ、お前はここにいてはならない。ここの女主は私だ。誰にも話さず出ていけ」。新妻はそのまま気を失った。朝になって気づく。
 伊織に話せないまま次の夜になった。今夜も伊織はいない。新妻は眠れない。夜が更けるとまた「チリン、チリン」鈴の音が近づいてくる。また経帷子の女が現れる。新妻の枕元にかがみ込み、「出ていけ、出ていけ、あの人に少しでも話したらお前を八つ裂きにする」
 翌朝、伊織が城から戻ると、新妻はなにも言わず離縁してくれ、里へ返してくれという。伊織は自分が付いているから何も心配はいらないと言うと、新妻は夜の出来事を打ち明ける。「そんなはずはない、悪い夢をみていたんだ。今夜は出来るだけ早く、世の明けないうちに帰るから」。
 その夜は、寝間では屈強な家来が二人、碁を打ちながら寝ずの番をすることになった。夜が更け草木も眠る丑三つ時、「チリン、チリン」鈴の音が鳴るが、疲れ切った新妻は寝入ってしまっている。見えない手で新妻の喉元を締め付ける。「ウッ」、新妻は番の家来にすがり着くが、彼らはピクリとも動かない。
 伊織が家へ戻ると、家来二人は碁を打ちかけた姿で眠りこけている。新妻の元に進むと、血だまりのなかに首の引きちぎられた新妻が横たわっている。「誰がこんなことをした」。伊織は刀を抜いて血の跡を辿っていく。その跡は庭の隅の梅の木の元まで続いている。経帷子を着た女が、血のしたたり落ちる新妻の首を手に持って、鈴をチリン、チリンと鳴らしながら伊織をジッと見つめている。「律、何をする!」。するとどこからか飛んできたのが夥しい数の鳥が襲ってくる。骨、髪、経帷子とが地に散らばる。鈴も落ちて「チリン」と鳴る。しかし左手は爪を立ててなおも新妻の顔をかきむしり、苛み続けているのであった。




参考口演:一龍斎貞友

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