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『西遊記〜芭蕉扇』あらすじ

(さいゆうき〜ばしょうせん)



【解説】
 『西遊記』は16世紀の中国、明の時代に成立した小説で、日本でも様々な形で広く親しまれているのは周知のとおりである。講談では連続物として演じられるほか、この『芭蕉扇』の箇所は単独で掛かる場合も多い。長安の都から天竺まで西へと旅をする三蔵法師の一行は、途中異常な暑さに遭遇する。この先には火を噴く「火焔山」という山があるのだが、この山を越えなければ西へと進めない。火を収めるには鉄扇仙人が持っている「芭蕉扇」という扇が必要だという。孫悟空がその芭蕉扇を入手するため鉄扇仙人の元を訪れると…。

【あらすじ】
 長安の都から天竺まで旅をする、三蔵法師、孫悟空、猪八戒(ちょはっかい)、沙悟浄(さごじょう)の一行。出立してから数年の月日が経った。そろそろ秋も深まろうという時季だったが何故だか大変に暑い。前に進むほど暑さが増し、三蔵法師もばててしまっている。一軒の百姓家を見つけてここで休ませてもらう。百姓家の主に聞いたところ、この近くに「火焔山」という山があり八百里四方が燃え続けているという。これではこの先進むことは出来ない。何かいい方法はないかと尋ねると、鉄扇(てっせん)仙人が「芭蕉扇」というものを持っており、扇を一回あおぐと火が収まり、二回あおぐと風が吹き、三回あおぐと雨が降るという。ここから南西に400里ほど離れたところに水雲山の芭蕉洞にその鉄扇仙人は住んでいるという。悟空はひとり筋斗雲に乗り、芭蕉洞までたどり着く。
 戸を叩くと中から小娘が出て来る。中に通されしばらく待つと出て来たのが、40歳くらいのキレイな女である。鉄扇仙人というのは羅刹女(らせつじょ)のことであった。鉄扇仙人の亭主は牛魔王である。牛魔王と悟空はかつては義兄弟の盃を交わすほどの仲だった。しかし鉄扇仙人と牛魔王の倅である紅孩児(こうがいじ)を観世音菩薩の元で更生させたことがある。このことから鉄扇仙人・牛魔王は悟空のことを憎んでいるのである。「おや、お前は息子の仇、悟空ではないか。お前のせいで私は息子に会えなくなったんだよ」、悟空は芭蕉扇を貸して欲しいというが、憎い仇である悟空に貸せるはずはない。斬ってやると言って刀を取り出す。悟空も如意棒を持つ。腕に勝る悟空が羅刹女を追い詰めるが、羅刹女はふところから芭蕉扇を取り出しバサッバサッと2回3回と扇ぐ。大風が起こり悟空は丸一日、飛ばされてしまう。
 次の日の朝ドシーンと落ち、ここはどこだと思ったら仏教世界の中心である須弥山の山腹であった。この山の麓には霊吉菩薩(れいきつぼさつ)の禅院があるので、悟空は訪ねてみる。事情を話すと霊吉菩薩は悟空に定風丹という薬を与える。これがあれば大風にも吹き飛ばされることはないと言う。
 再び、悟空は羅刹女の元を訪れる。扉の前で羅刹女は芭蕉扇を振りかざすが悟空が吹き飛ばされることは無い。羅刹女はピシリと扉を閉じてしまう。しかし悟空は姿を霧に変え、広間に潜んでいた。咽喉が渇いたといって羅刹女はお茶を飲もうとする。悟空は今だと、そのお茶に自らの身体を溶かしこむ。羅刹女の胃の中に入った悟空。お腹のなかから悟空の声が聞こえる。自分の身体のなかに悟空が入り込んだと知り驚いた羅刹女。悟空は腹のなかで暴れまわり、羅刹女は痛がる。やめて貰いたいなら芭蕉扇を貸してください。羅刹女は従わざるを得ない。
 口から出るとかみ砕かれてしまう。鼻から出た悟空は、芭蕉扇を持ちだし、筋斗雲に乗ってさっそく火焔山の前まで来てみる。芭蕉扇をバサッと扇ぐが、火は消えずますます炎は燃え盛る。2回目扇ぐと炎は千丈の高さまでに上がる。話が違うではないか。悟空が土地の神に尋ねると、この芭蕉扇は偽物だと言う。さらに本物は羅刹女の身体のなかにあると言うが、亭主の牛魔王の許しがないと取り出せないとのことである。また牛魔王は外に女を作って、羅刹女とは別居しており、南に600里ほど離れた魔王洞にいると言う。
 筋斗雲に乗った悟空は、羅刹女の使いだといって牛魔王に会おうとする。怪しいと思った牛魔王は鉄の棒を持って表に出て来る。悟空は芭蕉扇を貸して欲しいと頼むが、仇である悟空に貸すわけはない。牛魔王は鉄の棒を振り上げる。悟空は慌てて後ろへ下がり、如意棒で鉄の棒を受け止める。2人は打ち合いになったが、しばらくしてここを訪ねて来た者がいる。身体はアユ、手足は人間そういう魚の化物のような者である。「王様がお待ちですよ」、「おおそうか」。こう言うと牛魔王は碧水金睛獣(へきすいきんせいじゅう)という乗り物に乗って出かけていってしまう。悟空も後を追うと大きな洞窟にたどり着く。
 なかに入ると大きな魔物が集まって酒盛りをしている真っ最中である。悟空は牛魔王に変装し、碧水金睛獣に乗り、やって来たのは羅刹女のいる芭蕉洞である。「あら、久しぶりですね」といって羅刹女は中に招き入れ、酒・肴でもてなす酒を飲む。羅刹女の酒を飲みかなり酔う。牛魔王に変装した悟空は「久しぶりに芭蕉扇を見たい」と言う。羅刹女が渡したのは小さな扇であった。「おや、芭蕉扇はこんな小さなものだったか」と尋ねると、「おや、そんなことまで忘れちまったのかい」と言いながら、芭蕉扇を元の大きさに戻す呪文「スーチューハーチーホ」を教える。ツルリと顔を撫でると、元の悟空の顔に戻る。「あ、お前!」、羅刹女は驚くがもう遅い。悟空は芭蕉扇を持って羅刹女の住家から飛び出る。悟空は呪文を唱えると、芭蕉扇は一丈もの大きさになる。しかし元の大きさに戻す呪文を教わっていなかった。しかたなくそのままの大きさで持ち運ぶ。
 碧水金睛獣が無いことに気付いた本物の牛魔王は、羅刹女の元を訪れる。羅刹女は芭蕉扇が悟空に奪われたことを訴える。今度こそ悟空を打ちのめしてやる。牛魔王は鉄の棒を持って芭蕉洞を出る。
 悟空は3.5メートルのある芭蕉扇を持ち運ぶのに苦労している。すると猪八戒が現れ、持ってくれるという。悟空が芭蕉扇を渡すと「騙されたな」と言う。猪八戒に化けた牛魔王であった。すると本物の猪八戒が土地の神を連れて現れた。悟空、猪八戒と牛魔王は打ち合うが、なかなか勝負はつかない。牛魔王が暴れまわっているのと情報が天界にも知れ渡り、天界からも兵を出兵することになる。兵に取り囲まれ牛魔王は絶体絶命である。そこへ現れたのが羅刹女である。羅刹女は涙を流しながら、「私が悪かった。初めから芭蕉扇を貸してあげていればよかった。うちの人を許してください」と言う。こうして羅刹女は芭蕉扇を悟空に渡す。
 悟空は火焔山前に立つ。1回扇ぐと火は収まり、2回扇ぐと風が吹き、3回扇ぐと雨が降る。さらに49回扇ぐと、火焔山は二度と火をあげることはないと言う。芭蕉扇は羅刹女に返し、三蔵法師、悟空ら一行は西への旅を続けるのであった。




参考口演:神田菫花

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