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『小西屋政談(騒動)〜テレメンテン』あらすじ

(こにしやせいだん・そうどう〜てれめんてん)



【解説】
 「小西屋騒動」「小西屋裁き」とも。日本橋の薬種問屋、小西屋の若旦那の長三郎は大変な堅物で両親が心配している。親の勧めで長三郎は小僧を連れて飛鳥山へ花見に出かける。途中、音羽の裏長屋で「きぬ」という美しい娘に出会う。すっかり夢中になった長三郎。番頭らの取り計らいにより、二人は無事婚礼を挙げる運びになる。そんな折、一人の男が小西屋に「テレメンテン」という薬を買い求めにくる。男の話から番頭は「きぬ」について意外な事を知るのだが、さらにこれには裏がある…。
 一龍斎貞水の音源では薬の名は「テレメンテン」となっているが、他の演者では「テレメンテーナ」としている場合もある。テレビの時代劇「大岡越前」でも、この読み物をベースにした回が放送されている。病気に対して差別的なところがあるので、現在では演じにくいかもしれない。

【あらすじ】
 江戸時代・享保年間の話。日本橋本町二丁目、薬種問屋の小西屋長左衛門。薬種問屋というと薬の材料を扱う商売で、一人息子が長三郎である。年が21で大変な美男子である。この若旦那が大変な堅物で、この頃は論語の読本に凝っている。あまり倅が勉強ばかりしているので、両親は心配しなにやら相談する。
 3月のこと、長左衛門は一番番頭の善兵衛に、息子を向島の花見に連れ出してその後は川を渡って吉原の茶屋でドンチャン騒いでほしいという。番頭は誘おうとするが、長三郎はとんでもないと言って断る。番頭が「これは親の言い付けだ」といって説得すると、これも親孝行だと仕方なく承知する。
 長三郎は小僧の梅吉を連れて小西屋を出る。今の時間でいうと午前10時頃。長三郎は、向島に行くには橋を渡らなければならないのでそれは危ないから嫌だ、上野は宮様のお庭内で下駄ばきで踏み入れるのは申し訳ない、品川の御殿山は海ッぺりなのでいつ津波が来るか分からない、と語る。それならどこに行くのですかと梅吉が尋ねると、長三郎は雑踏するところは嫌だ、飛鳥山へ行こうという。梅吉はそれなら本郷通りから巣鴨へ、鶏声ヶ窪から王子へ向かいましょうと言うと、長三郎はその道筋だと練馬という場所で大根を積んだ馬が頻繁に通るので危ないと言葉を返す。小石川御門を出てドンドン橋から改代町(かいたいまち)へ、水道橋、音羽、滝野川を通っていこうと長三郎は言う。これでは大変な遠回りである。
 こうして音羽六丁目まで来た。長三郎は厠(かわや)へ行きたくなった。荒物屋の脇の路地を通ると長屋があり、その隣の空き地に厠がある。長三郎は用を足ししばらくすると出て来た。梅吉が釣瓶井戸から手洗いの水を汲もうとすると、目の前の家の浪人体の男が「その井戸は深いので危ないから」と言って、汲んである水を使いなさいという。「きぬ、あの方に水を掛けておやりなさい」「はい」、出てきたのは年の頃は17〜18、身なりは粗末だが、器量は飛びきりいい。柄杓を持って長三郎の前まで来て「水をお掛けします」と言う。ブルブルと来た長三郎。
 挨拶もそこそこに路地を出ると、飛鳥山とは反対の自宅の方に歩いていく。家に帰った長三郎は布団を被ってなんにも言わないで寝たっきりになる。両親は心配し梅吉に尋ねると「あれは恋煩いです」と答え、事情を話す。番頭が長三郎の部屋に入ると、花見に行き途中にであった娘への恋心を切々と訴える。「あの娘を嫁にしてください」。番頭は両親と相談する。
 番頭は梅吉の案内で音羽へ赴く。先方は久留米の浪人、以前は200石を頂いていた大藤茂左衛門という。清廉潔白な人物であったが同輩からの讒言で罪なくして浪人する。娘はきぬで年は17。まだ決まった縁はない。これからとんとん拍子に話は進んで結納が済み、吉日を選んで婚礼を挙げる運びになる。
 しばらく経って、医者らしからぬ男が小西屋を訪ね、番頭の善兵衛が応対する。男は紙を見せて「この7種の薬を揃えてもらいたい」と言い「失礼だがこれはなんの薬かな」と尋ねる。「これはテレメンテンという『癇疾(かんしつ)』に効く薬です」と番頭は答える。「癇疾」は突然精神が高ぶり、怒り出したりひっくり返ったりする病気である。男は話す。音羽に住む久留米の浪人宅の娘が、日本橋の大店の若旦那と縁づくことになった。ところがこの娘にはその「癇疾」という病気がある。婚礼の席で症状が出たら大変である。そこで一時的にこの薬で抑えて祝言をあげさせようと考えている、こう語る。
 聞いて番頭は驚いた。その娘は若旦那が嫁に迎えようとしている「きぬ」に間違いない。そういう嫁は貰えない。番頭は先方へ出向き破談を申し入れる。茂左衛門にも「きぬ」にもなぜ破談になったのか分からない。
 茂左衛門はきぬに酒を買いに行かせる。長屋の路地を入ると医者の山田玄意の家がある。長屋の家主の滝蔵が大声で話すのが聞こえる。滝蔵はしばしば自分にいやらしいことをする。ひょっとしたら滝蔵の仕組んだことか、おきぬは庭の中に入って聞き耳を立てると、「なんとかあの縁談をぶち壊したいと思ったがこう上手くいくとは思わなかったよ。これでおきぬは俺の物になるぜ」。これを聞いたおきぬは気づいた。さては滝蔵が山田玄意に頼んでやったことか。
 家に戻って父親に相談しようとするが、酒を飲んで酩酊して寝ている。そこで母の形見に懐剣を取り出して家を出、天水桶の蔭に隠れる。山田玄意の家を出た滝蔵が天水桶の前を通りかかる。おきぬがスッっと姿を現す。隠し持っていた懐剣で滝蔵の脇腹を刺す。滝蔵はワッっと叫ぶと長屋の連中が気が付いた。「大変だ、おきぬさんが大家を刺し殺した」。
 おきぬは南町奉行・大岡越前守の役宅に駆け込む。越前守は山田玄意、大藤茂左衛門、きぬ、小西屋長左衛門親子、番頭、一同を呼びつけて取り調べる。まったく病気でないものを病気と偽って破談にした。これはきぬが家主を殺そうと思ったのももっともだが、人を殺せばただで許すわけにはいかない。小西屋、親類、音羽界隈のものがきぬの命乞いをする。結局きぬは三宅島へ遠島になる。山田玄意は江戸お構いになり追放される。まもなく越前守のお情けできぬは三宅島から戻ってくる。きぬは親類の養女ということにして、改めて小西屋に嫁入りさせる。夫婦の中は睦まじく、三人の子をもうけ、小西屋はますます繁盛したという。




参考口演:一龍斎貞水

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