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『狩野探幽 遠見の山(大津屋の屏風絵)』あらすじ

(かのうたんゆう とおみのやま・おおつやのびょうぶえ)



【解説】
 「狩野探幽」(1602〜1674)は江戸時代初期の狩野派の絵師で京都出身。狩野派中興の祖永徳の孫。天才肌で幼少の頃からその才能を発揮、13歳の時に描いた絵が二代将軍秀忠の絶賛される。江戸に下り1617年には幕府の御用絵師となる。二条城、名古屋城、大徳寺などの障壁画を手がける。
 この読み物は「狩野探幽 大津屋の屏風絵」、「探幽の屏風」、また上方では「狩野探幽 旅寝の落書き」という演題も使われる。前座が短く演じことも多い。

【あらすじ】
 徳川の時世に狩野探幽という天才絵師がいた。慶長7年山城の国、今の京都の生まれで祖父や父親も有名な絵師であった。11歳の時に徳川家康に謁見し、15歳で幕府お抱えの絵師になる。戦国時代は豪壮な絵が求められていたが、徳川の世になり天下泰平になると、探幽は新しい時代の画風を探求する。
 探幽がまだ藤兵衛という名前だったころのこと。東海道を気ままに一人で旅をするが、手持ちの金もだんだんと少なくなる。やがて差し掛かったのが、東海道・大津の宿である。女中が旅籠の前で客引きをしており、大津屋与左衛門という立派な宿に入る。女中がみると小汚いない坊主である。宿の主である与兵衛も露骨に嫌がる。なんとか追い返そうと、この先にもっと安い宿があると告げるが、藤兵衛は身なりは汚いが金ならたんまりあると言って、一日の宿代100文、さらに茶代として100文を渡す。金が無いと思っていた客から200文も貰い、飛んだ失礼をいたしましたと与兵衛は大喜びである。
 藤兵衛がみると、旅籠は普請したばかりのようである。一番と二番は次の間がある特別な部屋だという。一番の部屋には衝立が立て掛けてあるが、与兵衛は自慢の金屏風だといい、藤兵衛にこれをみせる。これは立派な金屏風だと藤兵衛は感心する。今までいろいろと絵を描いてきたが、まだ金屏風には描いたことはない。描いてみたいと思い、与兵衛に相談するが、もうすでに鳳山先生に描いてもらうことに決めてある、今日か明日にもここに来てもらって描いてもらう手筈だという。藤兵衛はそんな誰とも分からぬ馬の骨に描かせてはならぬ、自分ならタダで描いてあげると言うが、与兵衛はこの金屏風を造るのに30両も掛かった、すでに鳳山先生にお願いしてあるからと言って譲らない。
 藤兵衛は部屋に入り酒を飲む。隣の部屋には金屏風があり傍らには墨が用意してある。なんとしても金屏風に絵を描いてみたい。皆が寝静まっている間に描いて、夜が明ける前にトンズラしてしまえ。筆にたっぷりと墨を含み、一気に山水画を描き上げる。「我ながら見事に描けたものだ」と思っていると、筆から墨が金屏風の上にポトリと落ちる。しまった、なにか拭くものはないか、自分の服の袂に水を含ませてこれで拭き取ろうする。墨を散らしてみると、これはまるで幾重にも重なった遠見の山のようである。「おお、我ながらよく描けた」、夜明け前に藤兵衛は出立してしまう。
 朝になって与兵衛は金屏風に掛かれた絵に気付き、「あの乞食坊主め」と悔しがる。まもなく鳳山先生がやってくる。先生が昨日来てくれればと、与兵衛は鳳山先生を責める。どんな絵かと鳳山先生が見てみると、これが見事な山水画である。特に幾重にも連なる山が素晴らしい。この山は何を使って描いたのか不思議である。筆や刷毛ではこのようには描けない。見事な遠見の山である。鳳山先生は35両でこの絵を買うというが、与兵衛はとんでもない、これは我が家の家宝にいたしますと言う。
 この絵の噂があっという間に広がり、誰が描いたか分からないけれど、天下の名人が描いた遠見の山の絵があると続々と客が詰めかける。東海道を上り下りする大名諸侯もこれを見たいといい、与兵衛はあっちこっちと駆け回る。金屏風の絵を見せれば褒美が貰え、大津屋は大儲けである。
 一方、大津を出立した藤兵衛は相変わらずフラフラ東海道を旅しながら、山城国へと到着する。その後も絵の修行に励み、その腕前が天下に知られるようになる。公家殿上人にまで評判になり、名を狩野探幽守信と改める。36歳になり、弟子たちを引き連れて再び大津の宿を訪れる。弟子たちの話ではこの宿には誰が描いたかは分からないが、天下の名人が描いた山水画があるという。もちろん探幽は自分が描いたものだと分かっているが、わざと知らぬふりをして大津屋に向かう。与兵衛は旅籠の前で、香具師(やし)のように金屏風の絵を宣伝している。「大津屋さん、ひさしぶりだな」「どなたでございますか」「あの時の乞食坊主でございますよ」、言われて与左衛門は深々と頭を下げ、あの絵のおかげで大繁盛していると礼を言う。探幽はあの絵はまだ完成していないという。探幽は筆を取って、「狩野探幽守信」と落款を入れる。こうしてこの後も探幽は狩野派を代表する絵師として活躍するのである。



参考口演:一龍斎貞奈

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