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『寛永宮本武蔵伝〜山田真龍軒』あらすじ

(かんえいみやもとむさしでん〜やまだしんりゅうけん)



【解説】
 神田派の連続の読み物である「寛永宮本武蔵伝」のうちの一話。寄席などで15分ほどで短く演じられることも多い。播州の舞子ヶ浜で、武蔵の荷物が虚無僧の笠に当たって争いになる。虚無僧の尺八からは先に分銅の付いた鎖がガラガラガラと飛び出す。尺八の先には刃のようなものが付いている。彼こそは山田真龍軒という鎖鎌(くさりがま)の名人であった。

【あらすじ】
 播州の舞子ヶ浜は大変に美しいところである。ここにやってきた宮本武蔵は茶屋に入り、波や砂の美しさに見とれながら渋茶を飲んでいる。代金を払い茶屋を出るため振り分けの荷物を肩に掛けようとしていると、この荷物が一人の虚無僧の天蓋(てんがい:深編笠)に当たる。武蔵は「どうぞご勘弁を」と丁寧に詫びをするが、虚無僧は怒鳴って許さない。「無礼な奴、勝負をいたせ」と叫ぶ。なおも武蔵は「ご勘弁」をと言うが、虚無僧は聞き入れない。虚無僧は両手を地べたに着いて自分の姓名を名乗れという。自分が悪いのであるから仕方ない、武蔵は両手を着けて謝るが、それでも虚無僧は許さない。
 「さほど申すなら致し方ない、勝負をいたそう」、武蔵は声をあげる。虚無僧は天蓋を捨て、尺八を右手に持って外に飛び出す。表を通りかかった者たちは「喧嘩だ、喧嘩だ」、たちまち黒山の人だかりとなる。虚無僧が相手なので武蔵は真剣は使わない。袋の中から2本の木剣を取り出し、1本を前に、1本を頭の上に構える。一方、虚無僧は尺八を構える。その顔つきの恐ろしいこと。「貴様は二刀を使うのか、さては宮本武蔵だな」、武蔵は驚いた。「武蔵とあらば相手に不足はない」。武蔵も油断なくじっと構える。
 エイヤ、気合とともに虚無僧はヒラリと身を返す。同時に尺八で叩き付けようとするが、とたんに武蔵は左剣で尺八を受ける。すると尺八から「ガラガラガラガラガラ」と音がして何かが飛び出す。虚無僧は先に分銅の付いた鎖(くさり)を右手に持ってクルクル廻し、武蔵の様子を窺っている。尺八の先には刃のようなものが付いて、まるで鎌(かま)のような形をしている。武蔵は気づいた。名の知られた武芸者のなかで「毒虫」とあだ名される、山田真龍軒という鎖鎌の名人がいると聞いている。さてはこの男が真龍軒だな。武蔵は油断なく身構える。鎖鎌というのは大変に卑怯な道具である。当たり所が悪ければ即死である。真龍軒は分銅の付いた鎖鎌を振り回す。分銅が飛んできた。これに絡まれては大変だ。武蔵は体をかわす。今度は鎌で襲い掛かってくる。武蔵はこれを避ける。鎌を避ければ分銅が、分銅をかわせば鎌が、分銅と鎌とが交互に武蔵に襲い掛かってくる。武蔵はサッサッサッと身体をかわすが、その目まぐるしいこと、忙しいこと。
 いつまでも責められているわけではない。そこはさすがは武蔵である。ブーンと飛んできた分銅を左剣で受ける。鎖が付いているので、カラカラカラと剣に絡まった。「しめた」、真龍軒は気味の悪い笑みを浮かべる。真龍軒は両手でその鎖を手繰り寄せる。グイッと引くと、武蔵は「ここぞ」と剣を離す。慌てた真龍軒は後ろへとよろめく。そこへ武蔵は右剣を真龍軒に投げつける。真龍軒は尺八でその剣を払う。その時、真龍軒の前から武蔵の姿が消える。これは武蔵が関口弥太郎から伝授された「天狗昇飛び斬りの術」である。武蔵は傍らの松の木の上へと飛び昇った。左の腕で松の枝を掴み、右の腕を懐に入れ、取り出した手裏剣を、真龍軒目掛けてピューと投げる。真龍軒がよろけたところで、武蔵は松の木から飛び降り、真龍軒の胸板を蹴る。さすがの真龍軒も「ウワッー」と一声挙げて倒れる。「侍が勝ったぞ」「まるで天狗のようだ」、歓声を受けながら武蔵は次の地へと旅立つのであった。




参考口演:神田紅純

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