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『源平盛衰記〜五條の橋』あらすじ

(げんぺいせいすいき〜ごじょうのはし)



【解説】
 「義経と弁慶 五條橋の出会い」などの演題も用いられる。言うまでもなく源義経は源平の合戦で最高の働きをした武将、弁慶は義経に仕える怪力無双の荒法師であるが その2人の五條の橋での出会いは「扇の的」とともに、源平盛衰記で最もよく知られているシーンであろう。講談でもひじょうによく掛かる読み物で、前座さんが短い時間で演じることも多い。

【あらすじ】
 時は平安末期、「平家あらざれば人にあらざり」と言われた時代。法師の姿をしてはいるが武勇優れた弁慶。かねてから平家の悪逆無道を憎んでいる。平清盛の思い上がりは日々甚だしくなるばかりである。弁慶は見るに忍びず、出家の身ではあるがこのままでは万民を救うことは出来ない。平家を滅ぼし世の難儀を救うほどの功徳はない。それにはまず平家武士の腕前を倒し、自分の勇気を世に知らしめることだ。もし源氏の御曹司に出会ったならその方の家来となって、力を合わせて平家を追討しよう。
 こう考えて、昼は京都・大原の別荘に隠れ、夜になると三条通などに出て来ては、平家武士と見ると駈け出だし、「オイ、いましばらく待て、我は鞍馬の天狗なり。汝、その腰に帯たる刀を渡すか、さもなければ命ともとも差し出すや、如何に」、弁慶の声が響き渡る。持っている武器をみれば、柄の長さが四尺、刃の長さが六尺もあろうという大変な大薙刀である。飛び上がるとなるとその高さは一丈にもなるという。こうなると平家の者たちはヘーケ(平気)な顔はしていらない。
 大変な荒法師が出たものだ。この話は京都じゅうにたちまちのうちに広まる。大きな顔をしている平家武士を責めさいなむとは、人々は心密かにこの荒法師を応援する。なんでもあの天狗法師をみた者は3年以内に命はなくなるんだそうだ。しかし天狗法師が現れるようになったのは最近である。どういうことなのだろう。
 日中は賑やかな京の町も夜になると深々寂寞としている。夜になれば平家の者たちから刀を奪い取り、こうして弁慶が集めた刀は千振ばかりになったが、いずれの者も戦わずして腰の物を放り出して逃げるような奴らばかりである。その刀もろくなものはない。弁慶は五條の橋の傍らの天神で祈る。「よき名刀を一振り我に賜らん」。
 8月15日の夜である。大変に月のきれいな晩であった。弁慶は今日も天神に参詣し、境内を立ち出でてひょいっと見上げると、月は煌々と輝き銀盤を浮かべるがごとくである。往来には誰もいない。今までに奪い取った刀は九百九十九。あと一振で千になり満願になる。今度こそは天下の名刀を手に入れたいものだ。
 するとごこからか笛の音が聞こえてくる。その音色は月輝く夜の空の元に澄み渡る。音は次第次第に近づいてくる。薄衣のかつぎを被り、黒塗りの高足駄を履いた異様ないでたちの美少年である。この少年が五條の橋を渡る。これをみた弁慶は、あの姿といいあの笛の吹き様といいただ者ではないと思う。携えている刀も名刀であろう。天神は望みを叶えてくれたか。弁慶は大薙刀をつっかけてツカツカと近寄る。「愚僧こそ鞍馬の天狗なり。汝、腰に帯たるその刀、願わくば我に賜え、もし嫌だ申すのであらば一命とともに申し受けんが返答はいかに」、これを聞いた少年はかつぎを外し、月明りに照らされたその姿をみれば、女子とみまごうばかりの美しさである。
 「汝、何者である。これが欲しいのであれば腕づくでもって取ってみよ」「なにを、勘弁ならん。命ともども頂戴いたさん」、弁慶はエイッと大薙刀を振り下ろす。少年はさっと飛び下がる。弁慶は矢継ぎ早に薙刀を振りまわすが、少年は後ろにさがり前に現れ、宙を舞って橋の欄干の上に飛び上がり、ヒラリヒラリと体をかわす。そのうちに少年はさっと弁慶の袖下をくぐり、弁慶の襟首を掴み、ウエィと引き寄せる。弁慶はたまらない、その場にダッとうち倒れる。少年はヒラリと弁慶の上に跨り、刀を突きたてる。「我が刃(やいば)の錆となれ」。敵わないと思った弁慶。「愚僧は武蔵坊弁慶と申す法師。平家は増長し、民は苦しむばかりである。悪行を繰り返す平家を打ち倒そうと、まずは平家武士の腕前を試すため、夜の京都の街に現れたのである」と語る。これを聞いた少年はニコッと笑う。「我もまた平家を憎むものである。近いうちに旗揚げし平家を討ち滅ぼすつもりである。私は源義朝(よしとも)の八男、牛若丸、九郎義経という者である、命は助けるから平家追討のおりにはその先手を努めてほしい」。この方こそ待ち望んでいた源氏の御曹司であった。こうして義経と弁慶は主従の縁を結び、お馴染みである源平の戦いの話となる。



参考口演:一龍斎貞寿

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