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『寛永宮本武蔵伝〜竹ノ内加賀之介』あらすじ

(かんえいみやもとむさしでん〜たけのうちかがのすけ)



【解説】
 舅(しゅうと)の石川巌流の仇である佐々木岸柳を討つため、肥後の熊本へ向かい西へ西へと旅する宮本武蔵。三河国・岡崎には竹ノ内加賀之介という柔術の名人がいると聞いて立ち合いたちと思うが、道場を訪ねても見つからない。旅籠に泊まると、一人の按摩が通りかかる。この按摩がなんとも喧嘩っ早い奴だという…。

【あらすじ】
 箱根の山中で柔術の名人、関口弥太郎と出会った宮本武蔵は「天狗昇飛び斬りの術」を習い、上方へと出立する。三州岡崎では旅籠屋の鍋屋佐助宅に泊まる。当地には竹ノ内武者之介という柔術使いの名人がおり、その倅の加賀之介という者がまだ若いが大変に強いということを聞いている。武蔵は竹ノ内の道場を訪れるがすでに引き払ってしまい、どこへ越したのかも分からないという。
 立ち合うのは諦めてこの先へ進もうと思った武蔵だが、翌日旅立とうとするとザーと雨が降る。もう一晩泊まろうかと思ったところで雨はやみ晴れる。夕食まではまだ間があるので、旅籠の玄関前の縁台に座り町行く人たちの様子を眺める。夕方が近づくと旅人たちが次々と旅籠屋に入り面白いものである。
 時間が過ぎて往来する人の姿もほとんど途絶えた頃、「長崎一流の揉み療治ィ、万能久大の膏薬ゥ」と按摩、こちらで言うところの「導引(どういん)」が大きな声を出して通りかかる。目がギョロッとして色が黒く肩幅が広い、堂々とした按摩である。武蔵は声を掛けようとするが、宿の主「あの導引は呼ばないでください」と言う。なんでも喧嘩っ早い奴で迷惑していると話す。この前も旅姿のお武家さんに言い掛かりをつけ、胸倉をつかみ合う喧嘩になった。導引はお武家を庭まで投げてしまった。お武家は肩がはずれてブラブラになるが、導引がその肩を持って「喝」を入れるとまた元のように動くようになる。導引は治療代として千疋(ひき)を要求する。お武家は金を払って這う這うの体で逃げて行ってしまった。
 宿の主がここまで話すと、一度通り過ぎたはずの導引がまたこちらへ引き返してきた。喧嘩の相手にならなければよかろう、武蔵は導引を呼び止め、二階にあがる。肩から揉んでもらうが気持ちがいい。導引は「お前は陪臣(ばいしん)だろう」と言う。どうしてかと武蔵が尋ねると、「直参(じきさん)はキリッとした顔をしている。陪臣は大名の家来で毎日安穏としているので顔に締まりがない」と導引は語る。さっそく喧嘩を仕掛けてきたが、武蔵は知らん顔をしている。続いて、導引は「武芸十八般の中の“水練”は出来るのか」と問う。武蔵は「水練は得意でない」と答える。導引は「ハッハッハッ、だらしのない奴だ」と大笑いする。武蔵はそれでも相手にしない。
 揉まれているうちに武蔵は居眠りをしてしまう。導引はいきなり拳で脾臓を思いっきり押さえつける。息が止まりそうになった武蔵は目を開け「何をする」と叫ぶ。腰を入れ下腹を引き身体をのけぞらせ、受け身の体勢を取る。導引は手に力を入れる。「これはどうだ」「効かん」「これはどうだ」「効かん」「これはどうだ」「貴様の按摩は少しも効かん」。導引は「これが効かないとなると、お前は柔術の心得が少しはあるな」、「“少し”とは無礼な」「拙者は柔術の名人だ」「世間から言われて始めて名人と名乗れるものだ」。
 喧嘩をしないつもりも武蔵だったが、こうなるともう引けない。宿屋の主は「すぐに謝ってください」と乞うが、武蔵が戸・障子・唐紙が壊れたら弁償すると告げると、「それなら存分におやんなさい」と言う。現金な人である。
 武蔵と導引は左右に分かれる。武蔵は導引の胸倉をつかむ。「どうだどうだ」、導引は「まだまだ」と堪える。武蔵は導引の胸元を持って、エイッと投げる。投げ飛ばされた導引は唐紙の手前でネコみたいに身体を丸めヒョイッと立つ。今度は導引が武蔵の胸倉をつかみ「どうだどうだ」と攻める。武蔵は「まだまだ」と堪える。導引は武蔵の腰に手を掛け投げ飛ばす。投げ飛ばされた武蔵は柱の手前でクルッとまわってヒョイッと立つ。次は両者組み合って激しい足のさばき合いである。2人は倒れ、武蔵は上に導引は下になる。武蔵は導引の首を締める。「どうだどうだ」「まだまだ」。導引は足掛かりを探す。すると柱に足の親指が引っかかった。足にエイッと力を入れると、今度は導引が上に武蔵が下になる。導引は武蔵の首を締める。「どうだどうだ」「まだまだ」。部屋の中央なので武蔵は足に掛かる物が見つけられない。そこで畳の縁(へり)に足を掛ける。ベリベリと畳の縁が剥がれる。宿屋の主は驚く。畳を交換してくれるとは約束してくれなかった。
 両者立ち上がり、ゼイゼイと息をする。武蔵が「お前は名人だな」というと「お前こそ名人だ」と導引もいう。「この勝負は引き分けだな」「いや、ワシの勝ちだ」。導引は武蔵の首の後ろに膏薬を2枚貼ったと言う。これが真剣なら武蔵の首を掻き斬っていたと言うのだ。武蔵は「拙者は膏薬など持っていない」と言葉を返すと、今度は両者が膏薬を持って立ち合う。これでも勝負は付かなかった。2人は名乗り合い、導引は実は竹ノ内加賀之介であることが分かる。按摩に姿を変え、喧嘩相手を探して腕を磨いているという。  わだかまりが解けた2人は互いに武芸の奥義を交換する。そして武蔵は上方へと旅立つのであった。




参考口演:神田紅純

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