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『寛永宮本武蔵伝〜闇討ち』あらすじ

(かんえいみやもとむさしでん〜やみうち)



【解説】
 舅(しゅうと)の石川巌流の仇、佐々木岸柳を討ち破った宮本武蔵は江戸中の大評判になる。神田橋の武蔵の道場には入門希望者が殺到する。特に作州津山の藩主、森大内記(もりだいないき)は武蔵のことを大いに気に入り、月に2〜3回彼を呼んで、家来の剣術の指南をさせる。夜遅く、酒に酔って酩酊した武蔵が津山藩の屋敷から帰る途中、行人坂で一人の侍と出会う。「お前は佐々木岸柳ではないか」。実は「佐々木岸柳」というのは肥後・熊本にいる彼の師匠の名で、この者の本当の名は沢田木左衛門という。さらに沢田の弟子二人が現れた。闇討ちである。武蔵は一人で三人を相手にしなければならない…。

【解説】
 寛永年間の話。3代将軍の徳川家光は大変に武芸を好まれた方であった。そこで武士から町人まで武術の道場に通うのが大はやりである。なかでも評判が高いのは小石川白山御殿下に道場を構える石川巌流(がんりゅう)。また同じ小石川の向冨坂(むこうとみさか)には佐々木岸柳(がんりゅう)が大きな道場を構えている。ある時、佐々木岸柳は石川巌流に試合を申し込むが、大病を患っている石川はこれを断らざるを得ない。佐々木岸柳は門弟を使い、石川巌流は腰抜け男だとあちこちで吹聴させる。石川巌流は悔しがり切腹して命を絶った。娘婿の宮本武蔵は舅(しゅうと)の無念を晴らすために仇討ちを誓う。
 しばらくして、佐々木岸柳の道場に宮田武助という侍が訪れ、門弟にして欲しいという。門弟になる前に先生の腕前を拝見したいと言い、佐々木岸柳は自身の弟子と共に剣術の型を見せる。次に宮田武助は先生と直々に立ち合いたいと言う。佐々木岸柳は承けるが、宮田武助の構えを見てびっくりする。左右の手で二本の木剣を使うのだ。宮田武助という名は偽りで、拙者は石川巌流の娘婿の宮本武蔵だと名乗る。武蔵は二本の木剣で佐々木岸柳を打ち倒す。佐々木岸柳は2人の門弟と供に江戸を逐電する。実はこの佐々木岸柳は偽物で本当の名は沢田木左衛門(もくざえもん)と言う。本物の佐々木岸柳は肥後・熊本におり、江戸で石川巌流という剣術家が評判になっているとの話を聞きつけ、自身の一番弟子の沢田木左衛門を佐々木岸柳と名を偽らせて江戸へ送り込んだのであった。
 舅(しゅうと)の仇を討ったということで宮本武蔵は江戸じゅうで評判になる。神田橋の武蔵の道場には入門希望者が殺到する。また方々の大名からも声が掛かり、出稽古に赴くようになる。特に作州津山の藩主、森大内記(もりだいないき)は武蔵のことを大いに気に入り、月に2〜3回彼を呼んで、家来の剣術の指南をさせる。
 この日も武蔵は津山藩の屋敷を訪れて稽古を付けるが、長引いてすっかり辺りは暗くなってしまった。津山藩の家来の不破半左衛門、名古屋山三郎(さんざぶろう)らと共に、名月を見ながら一献傾ける。よもやま話で盛り上がって酒も進み、武蔵はすっかり酩酊してしまった。屋敷へ泊っていったらどうかと勧められるが、明日の稽古があるからと武蔵は神田橋の道場まで帰ることにする。
 武蔵は供の半平を連れて夜道を歩く。すっかり酔ってしまった武蔵は右に寄ったり左に寄ったりと千鳥足になってしまっている。行人坂まで来ると、坂の上の方からくる侍もまた千鳥足である。両者ぶつかりそうになるが、そこはさすがは宮本武蔵、ぶつかる直前にサッと身体をかわす。また向こうから千鳥足の侍が来る。また身体をサッとかわす。今度は横の植え込みから何者かが突然飛び出してくる。ぶつかりそうになるが、武蔵は身体を翻して避ける。相手はクルッと後ろを向いた。何者だ、名を名乗れ。頭巾(ずきん)を取った顔を見ると、先般試合をした相手である。「お主は佐々木岸柳ではないか」、「佐々木岸柳とは実は師匠の名。拙者の本当の名は沢田木左衛門だ」、沢田の弟子の押田、青山も現れた。闇討ちである。どこからでも掛かってこい。武蔵の供の半平は転がるようにして逃げて行ってしまった。武蔵は一人で三人を相手にしなければならない。まず押田、青山の二人が同時に斬りかかってくる。エイ、エイ。武蔵は押田の肩先、青山の横腹を次々に斬る。今度は沢田木左衛門が相手だ。武蔵は月を背にする。月はこうこうと輝き沢田を照らす。こうなると武蔵の方が有利で沢田はしまったと思う。武蔵は剣を一振りすると、沢田の右手人差し指が落ち、ダクダクと血が流れる。こうなると鮫皮の柄がつるつる滑る。沢田の刀は植え込みの中に飛んでいってしまった。
 沢田は坂の下へと逃げていく。そこには辻番の小屋があったが、番人のおじいさんは血相を変えて駆け込もうとする沢田の姿を見て、急いで中に入り心張り棒で戸を閉めてしまう。沢田は小屋の中へ逃げ込もうとするが戸は開かない。見ると足元におじいさんが忘れていったのだのであろう、もじり(罪人を捕らえるための武器)が落ちている。沢田はこれを抱える。追ってきた武蔵が辻番の小屋を右に曲がろうとする。沢田はもじりを武蔵の足元に突き出す。武蔵は前のめりになって転んだ。沢田は馬乗りになって武蔵を抑え込む。やった、武蔵を負かせたぞ。しかし右の手が空いていた武蔵は小刀に手を掛け沢田を思いきり斬る。沢田は息絶えた。「おやじ、出てまいれ」、辻番のおじいさんが出て来た。「拙者は宮本武蔵である。狼藉者(ろうぜきもの)を斬って捨てた。ここは森大内記公の領地であるので、家来に自分の名を言えば分かる」、こう告げてこの場を後にする。
 遅れて半平が、不破半左衛門、名古屋山三郎らを引き連れて現場へ駆け付けた。すると三人が斬られて絶命している。神田橋の道場に使いをやるが武蔵は戻っていなかった。
 佐々木岸柳だと思って負かした相手は、実は偽物だったと知った武蔵。そのまま品川の宿へ向かう。ここから本物の佐々木岸柳を倒すため肥後・熊本へと旅立つのであった。




参考口演:神田紅純

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