『講談るうむ』トップページへ戻る講談あらすじメニューページへ メールはこちら |


『寛永宮本武蔵伝〜道場破り』あらすじ

(かんえいみやもとむさしでん〜どうじょうやぶり)



【解説】
 『寛永宮本武蔵伝』の発端部分にあたる。石川巌流(がんりゅう)は一刀流剣術の道場を小石川白山御殿下に構え、その評判は肥後の熊本の道場主、佐々木岸柳(がんりゅう)の元にまで達している。これを疎ましく思った岸柳は沢田木左エ門という偽物を江戸に送り込み、道場を開かせる。この偽の岸柳の道場もまた繁盛する。ある時、偽の岸柳は石川巌流に試合を申し込むが、彼は病気で身体が動かない。偽岸柳は石川巌流を「腰抜け」だと吹聴し、彼を切腹へと追い込む。石川巌流の娘婿、宮本武蔵は仇討ちのため、佐々木岸柳への道場へと乗り込むのであった…。

【あらすじ】
 三代将軍徳川家光は大変に武芸を好む方であった。日本中の武術の名人・上手を集めて「寛永御前試合」を催したなんという講談もある。影響を受けてか、この時代は上(かみ)から下(しも)まで武芸に熱心な人が多かった。江戸の町中には武芸の道場がたくさんできる。
 その中でも最も評判が高いのが、小石川白山御殿下に一刀流(いっとうりゅう)剣術の道場を構える、石川軍刀斎巌流(いしかわぐんとうさいがんりゅう)である。一方、同じ小石川の向冨坂(むこうとみさか)にも大きな道場があり、主は佐々木剣刀斎源岸柳(ささきけんとうさいみなもとのがんりゅう)という。実は沢田木左エ門(もくざえもん)という岸柳の弟子がで師匠になりすましている。表の看板には「五人詰十人詰真剣他流勝手なるべきものなり」としたためてある。大勢の門弟を集め繁盛している。
 ある時、佐々木岸柳は石川巌流に試合を申し込む。しかし石川巌流は大病を患い試合を断らざるをえなかった。自分には敵わないからと言って病気と偽っているのだな。佐々木岸柳は門弟を使って、江戸中に石川巌流は腰抜けだと吹聴させる。この噂を聞き付け、石川巌流は歯を食いしばって悔しがる。
 宮本武蔵は久しぶりに石川巌流の元を訪ねる。武蔵は石川巌流の娘婿である。「武蔵でございます」と声を掛けても返事がない。戸を開けると、石川巌流は先祖代々の位牌を並べ、うつ伏している。切腹したのであった。武蔵が身体を触るとすでに冷たい。武蔵に遺した書置きには、佐々木岸柳との試合を断り、卑怯者と罵られた悔しさがしたためられていた。武蔵は舅(しゅうと)の石川巌流のために立派な葬式をあげる。
 それからしばらく経って、佐々木岸柳の道場を一人の立派な武士が訪れる。小笠原右近将監(うこんしょうげん)の家来で「宮田武助」だと名乗る。取次によって奥の間へ通されると、まもなく赤ら顔のドッシリした男、佐々木岸柳が姿を現す。宮田武助は一刀流の教えを受けたと話すと、佐々木岸柳は自分の門弟に加わりなさいと言う。門弟の名を書き連ねた帳面の一番最後に、宮田武助は自分の名を書き加えようとしたが、しばらく考える。先生の腕前を拝見してから、門下に加わりたいと言う。佐々木岸柳は宮田武助を道場に連れていく。師範代の押田佐吉、青山文平を呼びつけ、両名相手に剣術の型を見せると言う。型を見せるだけなので実際に打ち合いはしない。エイヤ、エイヤと気合いを入れながら木剣を振り回す。その腕は見事で、居並んで見物している門弟たちも見とれている。宮田武助は、先生の腕前を見せてもらえて光栄だと語る。そこで、直々に稽古を付けて頂けないかと請い、佐々木岸柳も承ける。
 宮田武助と佐々木岸柳は道場の中央で左右に分かれる。佐々木岸柳はびっくりした。宮田武助は右に一本、左に一本、二本の木剣を持っているのだ。「自己流はいかん、一本捨てなさい」と告げるが、宮田武助は「まだ門弟帳に署名していないので弟子ではない」と言ってこれを断る。それではこれは他流試合ではないか、佐々木岸柳が叫ぶと、宮田武助という名は偽りで石川巌流の娘婿の宮本武蔵であるぞと名乗る。
 2人の試合が始まる。武蔵が右剣を振り下ろすと佐々木岸柳は木剣でこれを振り払う。次に武蔵が左剣を振り下ろすと佐々木岸柳はまた木剣で振り払う。右剣、左剣、右剣、左剣、まるで一人で二人を相手にしているようである。こうしているうちに佐々木岸柳は道場の奥に追い詰められる。イチかバチか佐々木岸柳は打ち込むが、武蔵は二本の剣を十字にし、佐々木岸柳の木剣を挟む。佐々木岸柳は出ることも引くことも出来ない。ヨロヨロとよろけたところで、武蔵は肩を打ち勝負は着いた。佐々木岸柳は「参った」という声も出せない。
 この様子を見た佐々木岸柳の門弟たちは、こんな強いお方がいるとは思わなかった、宮本武蔵先生の弟子になりますと口々に言う。門弟たちは道場の表の看板を外し、2つに割って燃やしてしまった。武蔵は舅の石川巌流の仇を取ったということで江戸じゅうの評判になる。佐々木岸柳は道場を畳み、押田、青山両名とともに江戸を逐電してしまった。
 実はこの佐々木岸柳は偽物であった。後に武蔵はこのことを知り、本物の佐々木岸柳を探しに肥後・熊本へと旅立つのであった。




参考口演:神田紅純

講談るうむ(http://koudanfan.web.fc2.com/index.html
inserted by FC2 system