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『曲馬団の女』あらすじ

(きょくばだんのおんな)




【解説】
 十二代目田辺南鶴の作。戦時から終戦後の混乱する東京を舞台にした新作で、蘭という曲馬団(サーカス)出身の詐欺師の女が主人公になる。最後には登場人物全員がハッピーになり、聴き手も幸せな気分になれる読物である。女流の方が演じることも多い。
 うらぶれた二十四、五歳の女が小島町の鹿島壮吉という宅を訪ねると、年老いた母親が応対に出る。女は戦死した壮吉と夫婦約束をしていた者で名前は『蘭』だという。そんな女性がいるとは知らなかった壮吉の母親。家にあげ、すっかり女の言うことを信じ込んでしまう。実はこの女こそ、新聞の記事で戦死した者を探しては、その家を巡って盗みを働く、香典泥棒であった…。

【あらすじ】
 上野駅の構内の待合室で、片隅に腰掛け新聞を読んでいる二十四、五のうらぶれた女がいた。新聞を懐に入れ、待合室を出て駅前から都電で移動する。来たのは小島町。町を表札を見ながら歩いていた。とある家を見つけ声を掛けると六十余りの夫人が顔を出す。女は「こちらは鹿島壮吉さんのお宅でしょうか、私は山崎蘭という者で壮吉さんと出征前に夫婦約束をした者です」という。今朝、新聞で壮吉の戦死を知り、位牌でも遺影でも拝ませてくださいと目にいっぱいの涙をためて言う。すっかり信じてしまった壮吉の母親。お蘭を奥の部屋へと案内する。正面には仏壇があり、遺影が飾られ花が飾られ、香典がうず高く積まれている。母親は見ず知らずのお蘭という女に少し留守番をしていてくださいと頼み、部屋を出ていく。ちょろいものだと、香典をわしづかみにして逃げようとするお蘭。彼女は香典泥棒だった。もちろん壮吉の婚約者だという話も全くの嘘である。その場を去ろうとしたものの、あんないい人をだまして逃げるのは気が引けると、お蘭の一筋の良心が彼女の悪事を押しとどめた。逆に香典を置いて立ち去ろうとすると、母親が帰ってきた。帰ろうとするお蘭を母親は引き止める。母親は話し相手が欲しかった。それならばとお蘭は母親の傍にいたいと願い出る。
 こうして母親とお蘭の二人の暮らしは始まった。お蘭は母親に孝行を尽くし、母親もまたお蘭をかわいがる。
 しかしどんな家庭でも悩みの種というものはあるもので、壮太郎というやくざな弟がおり、時折家を訪ねては母親に金をせびっていた。この日も五百円という金を無心する。そんな金はないと母親は拒絶するが、兄貴の香典があるはずだろうとなおもせがむ。母親はお蘭の許しがなければ金は動かせないと言う。ならばと壮太郎はお蘭と談判する。お蘭は断るが、すると壮太郎は彼女の過去の話を持ち出した。お蘭が曲馬団にいたこと、窃盗で収監されていたことなど、これまでの身上を知っていたのだ。お蘭が栃木の刑務所にいた当時の同房の女が壮太郎の女房になっていると言う。素性を母親にばらされたくなかったら五百円を寄こすよう壮太郎は迫る。お蘭は、私が曲馬団にいた頃はムチ一つで猛獣を操っていた、お前なんか眠らすのは容易いことだと、裾をめくり白い膝頭をみせ凄む。逆に壮太郎は驚きオタオタしてしまう。お蘭は悪い友達とは縁を切ってくださいと五百円を壮太郎に与えると、逃げるように出て行ってしまった。
 東京大空襲にも小島町は奇跡的に焼け残った。やがて戦争は終わり日本に平和が戻った。
 お蘭が買い物に行っている間に、三十前後のボロボロの軍服を着た青年が家を訪ねて来た。母親はびっくりした。死んだはずの壮吉が立っていた。戦死したというのは誤報でこれまで捕虜になっていたのだが、ようやくこうして戻れたと言う。母親はお蘭のことを話すが、壮吉には何のことだか分からない。しかしその女性が母親のために良く尽くしてくれている事を知る。二階で待っていると、間もなくお蘭が帰ってきた。壮吉とお蘭は対面する。お蘭はこれまでの事を打ち明けて詫び、この家を離れると言う。すると壮吉は自分の女房になってくれと請う。始めは戸惑ったお蘭も、過去の事は問わないという壮吉の言葉に心を奪われた。二人は抱き合い、お蘭はワッと泣き出した。
 その晩は二人で三々九度の盃を交わす。弟の壮太郎も真人間になって戻って来て、長く家族は幸せに暮らした。




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