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『岩見重太郎〜狒々退治』あらすじ

(いわみじゅうたろう〜ひひたいじ)



【解説】
 岩見重太郎は戦国期から江戸前期の伝説的豪傑。武術修行の旅に出て各地をまわり狒々や大蛇などの化け物を退治する。父、兄が殺され、後藤又兵衛、塙(ばん)団右衛門の協力を得て、仇である広瀬軍蔵を討つ(天橋立千人斬)。どういう訳か講談では、この重太郎が、筑前・名島の小早川家に仕えのち豊臣家に仕え大坂夏の陣で討死した薄田兼相(かねすけ)と結び付けられる。この「狒々退治」の部分は前座もよく掛ける部分である。

【あらすじ】
 戦国時代、山陰・山陽11ヶ国の主と言えば、毛利元就。その三男が小早川隆景で筑前名島、50万石を領す。その隆景の臣下、剣術指南番が岩見重左衛門である。重左衛門の次男が重太郎で、幼少のころから武術に優れ、剣術、槍術、弓術、馬術となんでもこなす。
 ある日の事、何を悟ったか突然名島の城下を離れて、諸国漫遊の旅に出る。やって来たのが信州松本の在、吉田村。日も傾きかけて、茶屋の婆さんに宿のある場所を尋ねるが、婆さんは今日は鎮守の祭りで宿は休みだと答える。婆さんがいうには、ここから一里ばかり山に入った国常(くにとこ)明神の一年に一度の祭りでは、必ず、氏子の17歳から18歳の娘を人身御供に差し出さなければならない、神様がここの娘が欲しいと思うと、2〜3日前にその家の屋根に白羽の矢が立つ、そうしたら唐櫃の中に娘を入れて、神前まで担いでいかなければならない、そして国常明神様がこの娘をおあがりになる。これを聞いて重太郎は、神様が人間を食らうなんてありないだろうと笑う。婆さんは、なぜか器量のいい娘ほど選ばれる、もし背けば、その年は大嵐があるとか大水かあるとか、作物はなに一つ穫れないと続ける。今年、白羽の矢が立ったのは、名主の藤左衛門のお嬢さんさんのお糸さんで、今年十七になる大変な美人で、一人娘で大切に育てられたが、今は家じゅうみな泣きはらしていると言う。
 人が困っているとなると助けたくなる重太郎。名主の藤左衛門の家へやって来た。重太郎はお糸さんの身代わりになると言うが、藤左衛門は村の束ねであるので自分勝手なことは出来ないと答える。重太郎は、これは神を偽る妖怪変化の仕業であるからと、藤左衛門を説得し、背が六尺もあり筋骨隆々、親類もこれほどの立派な方ならば大丈夫であろうと言い、ついには藤左衛門も折れる。
 唐櫃の中には、握り飯、一升徳利と共に、重太郎は身代わりに入り、蓋をする。近所の者がこれを担ぐが、中はお糸だと思っている。国常明神の神前に唐櫃は据えられる。真夜中になって、ミシッミシッと唐櫃に近づく音。中で重太郎は息をこらえて、小刀に手を掛ける。「さては妖怪おいでなすったな」。櫃の蓋をメリッと取り除く。すると目は爛々と鏡のごとく、口は紅蓮(ぐれん)の炎を吐くごとく、全身に白金の針を植えたような、身の丈7〜8尺もあろうような異様な狒々(ひひ)の怪物。重太郎は怪物の胸の辺りに小刀をプスッと刺す。不意を食らった怪物は血を流しながら逃げる。すると怪物は、一陣の風に乗って、その姿を消す。真っ暗なので跡は追えない。あれだけ深く差したので余命はあるまい、いづれ明朝、血の跡で行方は分かるだろう。握り飯を食べ、酒を飲み、櫃の中でぐっすりと寝る。
 夜が明け、藤左衛門一家の者、近所の者たちは重太郎のことが気になってしょうがない。国常明神の神前まで来ると、重太郎はクワッーと大鼾をかいている。起きた重太郎は昨夜のことを話し、あれだけ深く差したので3日は余命は無いだろうという。それから血潮を頼りに辿ってみると、岩穴の中から、ブルル、ブルルという呻き声が聞こえる。そこで枯れ枝に火を付けてどんどんと岩穴の中に放り込む。ウェーイと呻き声とともに飛び出してきたのが、見るも恐ろしい怪物である。重太郎は背中から斬り付ける。しかし刀は全く利かない。再び斬り付けると、刀は根元からポキンと折れてしまう。怪物が後ろから襲い掛かってくる。重太郎は怪物を肩に担いで、岩角目掛けて投げつける。また怪物は襲い掛かってくる、重太郎は投げる。こんなことを4〜5度繰り返すうちに、怪物は粉微塵になる。
 怪物を縄で縛り、棒に担いで村へと帰ってくる。大勢の村の者が喜び合う。近郷近在からも怪物を見物に来て、重太郎は、生き神様、大明神などと尊敬される。重太郎の言い付け通り、村の人々は懇ろに葬って、狒々の死骸を明神様の山のふもとに埋葬し、石文を建てる。これがいまでも塩尻市広丘吉田に「岩見の狒々塚」として残っているそうである。
 これから重太郎は武術修行の旅を続けるが、故郷の名島でとんでもない事件が起きる。父の重左衛門が武道の遺恨から藩士の広瀬軍蔵に闇討ちにされる。仇討の旅に出た兄も返り討ちにされてしまう。偶然にこのことを知った重太郎、仇を求めて丹後の宮津までやってきた。後藤又兵衛、塙(ばん)団右衛門の豪傑の協力を得て、3000人という軍勢を3人で打ち破り、本懐を遂げる。重太郎は「薄田兼相(すすきだかねすけ)」と名を変え、又兵衛、団右衛門とともに大坂城に入城する。3人は獅子奮迅の活躍をし、大坂の陣で華々しく討ち死にするのであった。



参考口演:六代目宝井馬琴

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