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『一心太助〜楓の皿』あらすじ

(いっしんたすけ〜かえでのさら)



【解説】
 「一心太助一代記〜楓の皿」「大久保彦左衛門と一心太助〜楓の皿」などとも。また同様の話で「一心太助 錦手(にしきで)の皿」という読み物もある。大久保彦左衛門の元で中間奉公しているのは一心太助。この太助が一筋縄ではいかない男で、彦左衛門も目を掛けている。ある時、屋敷で行儀見習いをしているお仲という娘が家宝の「楓の皿」を一枚割ってしまう。この皿を一枚でも割れば手討ちにされる。真っ青になるお仲。そこで太助のとった行動は…。

【解説】
 大久保彦左衛門がたいそう目を掛けていたのが中間奉公をしている太助という男である。この太助は元々彦左衛門の領地である佐野村で百姓をしていたが、ひょんなことから彦左衛門の目に留まり、奉公をするようになった。この太助が一筋縄ではいかない男。城内で様々な騒ぎを引き起こす。破格の出世で足軽に取り立てられ、名を小久保太助と改め、病弱な母親とともに彦左衛門の屋敷で足軽奉公をしている。立派になった太助を見て安心したのか、母親は眠るように息を引き取った。太助は涙にくれる。
 ちょうどその頃、飯田橋の中坂下に酒井孫右衛門という500石を取る殿様がいた。この御用人の鈴木喜兵衛には「お仲」という娘がいる。大久保彦左衛門というのはなかなか出来た人物だと聞いている、彦左衛門の元で奉公させたいと喜兵衛はお仲を行儀見習いに出す。
 ある日、彦左衛門の屋敷に旗本5人衆がやってきて酒宴となる。彦左衛門は自慢にしている「楓の皿」という唐津焼の皿を出す。大久保家の家宝で、もしこの皿を割ればたとえ粗相であってもその者はお手討ちにするという。この日の酒宴の後片付けをしたのが、入ったばかりの行儀見習いのお仲である。絹の布巾に包んでそっと桐の箱に入れる。あと一枚で終わると思い気が少し緩んだのか。皿がちょっと桐の箱の角に当たり、皿の縁がわずかに欠けてしまった。真っ青になったお仲。
 そこへ現れたのが太助である。お仲が事情を話すと、太助も驚いた。お仲は手討ちになるのは仕方がない、先立つ不孝をお許しくださいと父親の喜兵衛にお伝えくださいと太助に頼む。じっと考え込んでいた太助。「たった一枚皿を割ったくらいで手討ちになるなんでおかしな話だ、人の命と皿一枚どっちが大事だってんだ」、続けて太助はいう。「お仲さん、大丈夫だ、その皿をみんなこっちへよこしな」、お仲は言われるままに皿の入った箱を渡す。
 太助は残りの九枚の皿を取り出し、敷石の上にのせ、そばにあった薪割を振り上げ、「俺がきれいに成敗してやる、エイ」と皿めがけて振り下ろす。皿はガチャーンと粉みじんに割れる。大きな音がしたと駆け付けたのは笹尾喜内である。「太助、気でも狂ったか」。「この皿が癪に障るから叩き割ったんだい」。
 喜内は慌てて大久保彦左衛門に報告する。「太助め、目を掛ければいい気になりおって」、彦左衛門はもちろんカンカンである。太助を手討ちにするという。  庭には筵(むしろ)が敷かれ、太助はその上に座り手討ちになるのを待つ。彦左衛門がやってきた。「覚悟いたせ」。「覚悟してますよ、スッパリとやってくださいまし」太助は平然と答える。彦左衛門は一刀を抜く。「遺言があれば申せ」。「殿さまに一言だけ申し上げたい。生者必滅、会者定離なんて言葉がございますが、命あるものは必ず死ぬ、形ある物は必ず壊れる。もとより土で拵えた皿が壊れるのは当たり前のことでございます。殿様だっていつかはお亡くなりになる、これが世の常です。それなのに皿が割れるたびに人の首が飛ぶ、面白くない話ではございませんか。皿の代わりなんてものはいくらでも作れますが、人の首はそうはいきません。一人の首が飛ばされれば残された人々はどう思いますか。おふくろも死んでしまい、私が死んでも殿様を恨む人なんか誰一人いません。その刀でスパッと一気にやってくださいまし」
 話をじっと聞いていた彦左衛門。太助の命を懸けての意見に感じ入る。「いやあ、感心いたした。よく皿を割ってくれた。このたびの手討ち、許してつかわす」。彦左衛門は太助にお前は武家奉公には向かないようだというと、太助も自分はこんな窮屈なところは性に合わないと答える。魚屋をやってみたいと言い、彦左衛門もそれがいいと言う。こうして空き店を見つけ、魚屋稼業を始めるが、すね者である太助のこと、ここでも一悶着を起こす。




参考口演:一龍斎貞寿

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