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『一心太助 魚河岸の喧嘩』あらすじ

(いっしんたすけ うおがしのけんか)



【解説】
 一心太助は、「天下のご意見番」とも称される旗本の大久保彦左衛門の元で中間奉公をしている。屋敷の中で出会ったのがお仲という腰元で、2人は夫婦になり神田三河町で魚屋を開くことになる。初めて日本橋の魚河岸に出向いた太助だが、そこで思わぬ騒動になる…。「一心太助」は映画などでも有名になるが、架空の人物とするのが定説である。

【あらすじ】
 家康、秀忠、家光と徳川家三代にわたって仕えた大忠臣といわれ、神田駿河台に屋敷を構えるのが大久保彦左衛門。彦左衛門の元で中間奉公をしていたのが太助という男である。彦左衛門に腰元奉公をしていたお仲と人目を忍ぶ仲になる。屋敷の中での不義はご法度だが、彦左衛門の粋な計らいにより2人は神田三河町に世帯をもつことになる。
 太助が始めたのが魚屋である。今でも昔でも魚屋というのは威勢のいい商売である。初めてこれから日本橋の魚河岸に買い出しにいくことになる。狭い所に何千人と集まり、芋を洗うようにごった返している。魚河岸というのは気が荒くまた口も荒いという連中が集まっている。太助は真新しい飯台を担いで歩くが、なにしろ来るのは初めてなので、あっちへひょろひょろ、こっちへひょろひょろという有様である。
 問屋の若い者が声を掛ける。「なにか買わないか」「そこにある鯛を貰おうか」「おう、目がいいな、大負けに負けて一分でどうだ」「ううん、どうかな」「これは内海で捕れた魚だ、ピンピン生きているんだ」「嘘をつけ、死んだ魚だ、どうにもならない魚だ」「おいおいこん畜生、縁起の悪いことを言うな。“げため”でどうだ」「“げだめ”とはなんだ」「河岸の符牒で三貫のことを“げため”というんだ」「“げため”は高いな。“つきよ”にしくれ」「“つきよ”とはなんだ」「“月夜に釜を抜く”というからタダだ」。気の短い男だから生暖かい水を太助にザッと掛ける。「なにをしやがるんだ」。太助も気の短い男である。これから2人は取っ組み合いの喧嘩になる。
 向こうの男には加勢がたくさんいる。太助は袋叩きになり、血だらけになって大地にひっくり返る。「さあ、殺しやがれ。神田駿河台の大久保彦左衛門ってのが俺の親分だ。さあ殺せ」。大久保彦左衛門といえば、「天下のご意見番」と言われ、将軍様にもご意見をするという名代の頑固爺さんだ。その「天下のご意見番」になんで棒手振りの子分がいるのだ。こいつは気が違っているんだ。これから大勢でひっくり返っている太助を担いで、日本橋の上から水の中に放り込もうとする。太助は右手でもって橋の欄干にしがみつく。左手は喧嘩相手の胸倉を掴んでいる。「さあ、殺しやがれ。駿河台に人をやってくれ。さあ殺せ」。
 ちょうどそこへ差し掛かったのが、築地小田原町に屋敷のあった旗本、加賀爪(かがづめ)甚十郎。馬に乗って登城をした帰りである。黒山のひとだかりで何事かと思って見てみると、かねてから見知っている大久保彦左衛門の中間、太助が水中に投げ込まれようとしている。家臣の鈴木藤内が「どけどけ」と人だかりを避け、太助を助ける。「いやあ、これは加賀爪の旦那有り難うございます、やいやい河岸の連中、見やがれ、あの馬に乗っている方は俺の主人の兄弟分だ」。太助が叫ぶと河岸の連中は驚いた。こいつは大久保彦左衛門の家来に間違いない。関わり合いになれば大変なことになると一同逃げてしまう。
 喧嘩相手だけはどうしようもない。鈴木藤内が太助とその相手を室町二丁目の自身番へ連れていく。連絡を受けた彦左衛門は槍を持ち馬に乗って自身番に向かう。彦左衛門と太助が対面する。喧嘩両成敗ということで相手の縄を解かせる。彦左衛門は魚河岸の旦那衆を呼びつける。太助の世話を願い、若い者一同に一杯飲ませてくれと10両の金を与える。こうして事はすべて無事に収まる。これがひとつのきっかけになって太助は魚河岸で名を売る。もとより義に富む男であり、彦左衛門の後ろ盾もあって、「太助兄ィ」と呼ばれるようになる。左腕に彫ったのが「一心如鏡(いっしいかがみのごとし)」、右腕に彫ったのが「命」。「一心太助」として江戸の町に名がとどろくようになる。




参考口演:六代目小金井芦州

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