『講談るうむ』トップページへ戻る講談あらすじメニューページへ メールはこちら |


『お富与三郎〜発端から木更津まで』あらすじ

(おとみよさぶろう〜ほったんからきさらづまで)



【解説】
 歌舞伎では『与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)』として、さらに歌謡曲でもあまりに有名な「お富与三郎」の話。日本橋横山町の鼈甲問屋、伊豆屋の放蕩息子、与三郎は惚れ惚れするようないい男である。悪友の茂吉と吉原で遊ぶが、その帰りの茂吉は舟から転落して行方不明になる。船頭の仙太郎はこの件で与三郎を強請るが、浪人者の関良介はこの仙太郎を斬り殺す。ほとぼりが冷めるまでと、与三郎は木更津の叔父の家に預けられる。祭りの夜に赤馬源左衛門の愛妾、お富と出会う。このお富が絶世の美女で、いつしか与三郎と深い仲になるが、それに源左衛門が気づく…。

【あらすじ】
 日本橋横山町の鼈甲(べっこう)問屋、伊豆屋の一人息子である与三郎は、歳は22で惚れ惚れするようないい男である。両親に甘やかされて育てられ、成長してからは放蕩息子となる。吉原、品川、洲崎と遊郭を渡り歩いている。与三郎の悪友に下田屋の茂吉という者がおり、歳は24。この男も家は裕福で毎日遊び歩いている。
 宝暦2年3月4日、桜の花が見ごろで隅田川で花見をし、2人はそのまま吉原に向かう。いつもとは違う、中万字屋(なかまんじや)という店に入った。与三郎の相方は九重、茂吉の相方は雲居。与三郎の方は九重の方から惚れられるが、性格にトゲがありケチな茂吉は相方の雲居に振られてしまう。まだ日が登る前だというのに茂吉は帰ろうという。与三郎と茂吉は店を出て、山谷堀まで来ると、馴染みの船宿、沢瀉屋(おもだかや)で小舟を一艘だしてもらう。与三郎、茂吉、そして船頭の仙太郎の3人は舟に乗り、山谷堀から大川に出るが、波は高く、しかも辺りは朝霧に包まれている。酔った茂吉は舟の中でバタバタ暴れそのうちに川中にドブンと落ちる。仙太郎は水中に入って探すが見つからない。仙太郎は与三郎さえ黙っていれば100年経っても茂吉は見つからないという。与三郎も余計なことに巻き込まれたくない。与三郎は5両の金を仙太郎に渡す。
 夏になり秋になり、仙太郎が来るたびに与三郎は金を渡す。一人で抱えられなくなった与三郎は番頭の善右衛門に相談すると、まとまった金を渡したのか仙太郎は来なくなる。11月に与三郎が薬研堀に行った折、仙太郎が待ち受けている。これっきりだと言って、仙太郎は100両の金を要求する。もういい加減にしてくれと言う与三郎。ここに与三郎の店内(たなうち)で浪人者の関良介というものがいた。牛ヶ渕に呼び出して仙太郎をバッサリと斬る。関良介は、与三郎の父親に事情を話す。ほとぼりが冷めるまで与三郎は江戸を離れた方がいい、どこか1〜2年田舎にやるのが良いということになる。木更津には与三郎の叔父で藍屋吉右衛門という者がいる。手紙を書いて与三郎を木更津に送る。
 与三郎が木更津にきて半年ほど経つと、東権現(あづまごんげん)というところでお祭りがあった。ふらりふらりと出かけると、ここで出会ったのがお富という女である。お富は元は深川の芸者で、今は木更津の親分、赤馬源左衛門に身請けをされている。源左衛門は博徒であり、旅から旅へと周っており今日も不在である。お富は子分に連れられお祭りに来ていた。このお富が鄙(ひな)には稀な美人である。これが2人の出会いになり、語らう仲になる。
 今では親分がいなくなると、金を出して子分を追っ払い、与三郎を家に引き入れて2人楽しい時間を過ごすようになる。「明日には親分が帰ってくるから、今度手紙を出すまで待っててちょうだい」、こう言って与三郎を送り出す。翌日、赤馬源左衛門は旅先から戻ってきた。風呂屋へ行き、子分である「みるくいの松五郎」はお富が浮気をしていることをばらしてしまう。その証拠をつかむためには、松五郎は源左衛門に知恵を付ける。風呂屋から戻った源左衛門は、これから松五郎を連れてすぐに江戸へ発つ、3日経ったら戻ってくるとお富に告げる。旅支度をして、源左衛門と松五郎は木更津を出る。さっそくお富は与三郎に手紙を出す。四ツというから夜10時頃、裏の木戸から忍んで来てくださいと認めてある。手紙に書かれたとおり、与三郎はお富の元を訪ねる。
 2人がイチャイチャしていた真夜中のこと、突然、赤馬源左衛門が戻ってくる。しばらく戸の外から中の様子を窺っている。「与三さん好き好き、赤馬なんて大嫌い。さっさ死んじゃえばいいのに」、こんなお富の声が中から聞こえてくる。源左衛門は激怒した。中に入り込み、与三郎を捕らえ、柱に縛り付ける。懐から匕首をだした源左衛門は、右の頬、左の頬、口、手と与三郎に34ヶ所の刀傷を負わせる。与三郎の身体は血だらけである。
 お富はいたたまれず、家を逃げ出す。松五郎が追うが、お富の行く先は崖である。どうせなら三途の川で与三郎と落ち逢おう。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、念仏を唱えて木更津の海へ真っ逆さまに飛び込む。松五郎は源左衛門にお富が海へ身を投げたことを報告する。源左衛門は与三郎に止めは刺さなかった。死骸同様の与三郎の身体を藍屋に連れて行き、200両の金を強請って赤馬源左衛門は何処へか逐電する。なんとか命は取り留めた与三郎だが、顔から身体から傷だらけになる。
 江戸へ帰り、日本橋の実家の奥座敷に潜んでいたが、これから3年経って5月28日、両国の川開きの日、たまたま訪れた玄冶店(げんやだな)で死んだと思っていたお富と再会するという有名な場面になる。




参考口演:神田菫花

講談るうむ(http://koudanfan.web.fc2.com/index.html
inserted by FC2 system