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『石割雪駄』あらすじ

(いしわりせった)



【解説】
 ひじょうに珍しい読み物で、ネットで検索してもほとんど情報は出てこない。江戸時代の話、大坂に秋津島という関取がおり、「お玉」という娘がいる。秋津島には岩石という有望な弟子がいる。秋津島は岩石をお玉の婿に迎えようと思うが、顔の不細工な岩石をお玉は嫌がる。そのうちにお玉は比奈助という役者に夢中になり、やがて一緒に暮らすようになる。岩石はこれが面白くない…。

【あらすじ】
 大坂の豪商といえば鴻池善右衛門だが、ここを書家の亀田鵬斎(かめだほうさい)が訪れる。善右衛門は刀剣を集めるのが好きで、なだたる名刀が並んでいるが、そこに一振り、鈍刀、なまくら刀が置いてある。なぜこのような刀がここに置いてあるのか、善右衛門が説明を始める。
 道頓堀に秋津島周右衛門という関取がおり、九,十,十一代将軍の御代の間ずっと現役であったという。秋津島には「おとき」という女房がおり、「お玉」というかわいらしい娘がいた。周囲では彼女を「お玉小町」と呼ぶ。秋津島には多くの弟子がいるが、その中に岩石鬼右衛門という者がいる。10歳の時に巡礼の親が行き倒れになって、その子が拾われて秋津島に育てられてきたのだ。メキメキと頭角を現し、今では三役になっている。彼ならばお玉の婿に申し分ないと秋津島は思うが、大変に不細工な男でお玉は嫌っている。お玉は道頓堀の芝居に出ている嵐比奈助(あらしひなすけ)という役者と良い仲になっている。比奈助は若手立役では一番の役者で、お玉とはすでに固い約束を交わしている。秋津島は相撲取りの娘なら相撲取りと一緒になれと言うが、お玉は比奈助と添い遂げられなければ死んでしまうという。仕方なしに、秋津島は形ばかりの勘当にして、お玉と比奈助を一緒に住まわせる。二人の家の裏口からは女房のおときが足繁く通い、なにかと夫婦の面倒を見る。
 比奈助はもとより道楽者で、バクチだ酒だと手を出す。しまいには芝居に穴を開け、小屋から出入留めになってしまう。ここで挽回しようと、比奈助は堺の堺座に出て芝居を打とうとするが、それには50両という金が要る。金策に歩き回るがどうにも集まらない。お玉は実家の母親に相談するが、50両という大金はどうにもならない。奥の一間のタンスに、鴻池善右衛門に拵えてもらった岩石鬼右衛門の真新しい化粧まわしがある。これを質にいれたらどうか。ただし、化粧まわしは来月の15日には必要なのでそれまでには請け出さなければならない。
 さて、こうして50両という金が出来、比奈助は堺座で正月興行を打つ。しかし道頓堀のお玉の元になかなか金が届かない。15日、岩石鬼右衛門はタンスに入れてあった化粧まわしが無い事に気付く。おときが娘のために質入れしたと一部始終を話すが、鬼右衛門は許さない。秋津島とはもう師匠でも弟子でもない。師弟の縁を切るという。秋津島は泥棒も同然だと声を荒げ、彼の襟首を掴み、石割雪駄でもって秋津島の背中、そして眉間を打ち付ける。秋津島は血をタラタラと流す。鬼右衛門は悠々と立ち去る。おときは「堪忍してください」といって秋津島に泣きつく。おときは弟の行司、木村庄九郎のところへ相談に駆け込むが、その間に、秋津島は腹を掻っ捌いて自害してしまう。道頓堀じゅうが大変な騒ぎである。
 この知らせは、堺座の比奈助にももたらされる。出番直前だったが、なにもかも放り出して、石川五右衛門の扮装をしたまま道頓堀の秋津島の家へと駆け付ける。出て来たのは木村庄九郎であった。「お前のせいでこんな事になってしまった」。庄九郎は比奈助を家から追い返す。比奈助が二・三丁歩くとそこで茶屋から出て来た岩石鬼右衛門と鉢合わせする。鬼右衛門は「前々からうっとうしいと思っていた親方を打ち付けていい気分だ」とせせら笑っている。比奈助にとって秋津島は義理の父親であり、鬼右衛門は親の仇である。比奈助は芝居用の鈍刀(どんとう)、刃を潰してある刀を所持していたが、これでもって岩石鬼右衛門の胸を一突きする。さらになまくら刀でもって引きちぎるように鬼右衛門の首を取る。石川五右衛門の扮装をしていた比奈助は、役者の性なのか「絶景かな、絶景かな」と言ったとか。
 この後、比奈助は大坂寺社奉行へと自訴したが、御取調べの上、悪いのは岩石鬼右衛門だということになった。正当な仇討ちであるとのお裁きで比奈助の命は助かった。お玉と比奈助の仲は正式に認められる。比奈助はそれからも芝居に精進し、一枚看板と呼ばれるようになり、鴻池善右衛門も贔屓にする。岩石鬼右衛門を斬った鈍刀は、善右衛門の集めている名刀の中に加えられたという。




参考口演:田辺鶴遊

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