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『梅津木全の竹刀売り』あらすじ

(うめづきまたのしないうり)



【解説】
 長州・毛利家の剣術指南番であった梅津木全(きまた)は今は浪人となり諸国を巡っている。途中やはり松前藩の剣術指南番であった渡辺清左衛門と出会い、無二の親友となる。この清左衛門がだまし討ちに遭い斬られてしまう。木全は清左衛門の残した2人の男の子を引き取ることになる。江戸の芝神明の裏長屋で貧乏暮らしをする木全と子供2人。子供が貰って来た竹の木で木全は竹刀を作り、これを売ればいくらかの金になると思うが、この竹刀が馬鹿でかく全く売れない…。

【あらすじ】
 長州・毛利家の剣術指南番であった梅津木全(きまた)は、今は浪人となり諸国を巡っている。ある時ある場所で、松前藩のやはり剣術指南番であって今は浪人している渡辺清左衛門と出会う。2人はたちまち意気投合し、清左衛門が兄、木全が弟ということで、義兄弟の盃を交わす。ところが清左衛門がだまし討ちに遭い、命を落としてしまう。木全は清左衛門の残した2人の倅、清太郎と清之助を引きとり、仇討ちの旅にでる。中山道の桶川宿に泊まっていたいたところ賊が侵入し、金目のものはすべて奪われてしまう。なんとか江戸にたどり着き、芝神明の裏長屋で貧乏暮らしをする。今日食べる物にも困るという有様である。清太郎・清之助の2人の子供は「昨日から何も食べていない」と訴えるが、木全は「武士の子であるのなら我慢しなさい」と言う。
 ある日、近所の鳶の親方が「これで遊びなさい」と言い、清太郎・清之助の兄弟に大きな竹の木をくれる。木全は兄弟からこの竹の木を譲り受け、小刀でこれを2つ、4つにと割き、刀で削る。やがて出来上がったのは竹刀である。これを売ればいくらかの金になると思う。
 表通り、今でいう東新橋2丁目辺りには武具屋が並んでいる。そのうちの一軒、武蔵屋という店に入り、番頭に竹刀を買い取ってもらいたいと申し出る。しかしこの竹刀がやたらと長くて太くて馬鹿でかい。竹刀には地方地方によって特徴があった。長州のものは鍔が大きい。肥後熊本の物は柄が長い。木全の作った竹刀はその両方の特徴を受け継いでいた。しかし天下泰平の世になって、江戸では小型で軽い竹刀が好まれていた。武蔵屋の番頭は、この竹刀は買い取れないと言う。木全は次に真向かいの店に入るが、店の者はこれまでのやり取りをすっかり聞いていた。木全が何も言わないうちに買い取れませんと断る。どこの店に行っても買い取ってもらえない。
 木全は清太郎・清之助を呼び出し、3人して「しないー」「しないー」と町を売り歩く。しばらくして用事のあった武蔵屋の主人が店に戻ってきた。表では「しないー」「しないー」と売り歩く声がする。番頭から事情を聞く。主人はもう一度話が聞きたいといって、木全を店に呼び寄せる。竹刀を確かめると、ズシリと重く立派である。一日にどのくらいの数の竹刀が出来ますかと尋ねると、満足のいくものは一日一本しか作れないと木全は答える。武蔵屋は木全の作る竹刀を毎日、一本100文で買い取ることになった。しかも夕方清太郎・清之助と一緒に来て、ここで食事を召し上がって下さいという。これから木全は毎日竹刀を拵え、夕方になると清太郎・清之助を連れて武蔵屋を訪れ、竹刀を100文で売り渡し、その後は店で3人夕食を取る。
 こうしてひと月が経った。武蔵屋では毎日、木全の持ってくる竹刀を買い取り、店に並べるが一本も売れずに置き場にも困っている。近所の者たちは武蔵屋さんの主人はおかしくなってしまったのではないかと噂しあう。往来で「喧嘩だ、喧嘩だ」と声が聞こえる。町火消しと大名火消しの喧嘩である。巻き込まれてはたまらないと近所の店は次々と店を閉める。武蔵屋も店を閉めようとすると、40歳くらいの小柄で立派な侍が、15人ほどの門弟を従えてゾロゾロっと入ってくる。武蔵屋の主人が「喧嘩がありまして店を閉めます」と告げると、侍は「身共が喧嘩の仲裁に入る」と言う。仲裁だからと言って刀は武蔵屋に預ける。町火消の者たちは物分かりが良くすぐに引っ込んだが、仙台様の中間は質(たち)が悪く、その侍と門弟たちを襲う。侍たちは武蔵屋に置いてあった馬鹿でかい竹刀を手に取り、仙台の中間たちに立ち向かう。これはとてもかなわない。中間たちは尻尾を巻いて逃げてしまった。
 侍は手にした竹刀をしげしげと見る。これは立派で使いやすい竹刀だ。侍はこの竹刀を30本、残らず買うと言う。これは肥後か長州の者が作ったに違いない、この竹刀は誰が作っているのかと尋ねると、武蔵屋の主人はコレコレシカジカと事情を話す。芝神明に住む浪人が作っており、その方は顔左半分に大きな傷がある。いつも夕方に子供2人を連れて店を訪れ夕食を食べて帰ると話す。「それは秩父の狸だな」と侍は言う。
 夕方になり、木全がやって来た。今日は2人の子供は風邪気味で家で休んでいるという。主人は今日、侍が15人ほどの門弟を連れて現れ、30本の竹刀を全て買い求めたこと、その侍が木全のことを「秩父の狸だな」と言っていたことを話す。木全は以前、秩父で甲源一刀流の修行をしており仲間からは「秩父の狸」と呼ばれていたと話す。さらにその侍とは「神田の狸」であろう。神田お玉ヶ池に道場を構える北辰一刀流の使い手、千葉周作である。すると、その侍、千葉周作が「久しぶりだなぁ」と言って現れる。2人は旧知の仲であった。千葉の道場でよもやま話に花を咲かせる。千葉は木全の身の上を知ると、100両という金を与えた。
 木全はその金でもって、清太郎・清之助を連れ諸国をめぐり、見事2人の父親の仇討ちに成功する。2人の兄弟は成長したのち、父親の仕えていた松前藩へ仕官する。また梅津木全も長州・毛利家への帰参が叶う。さらに武蔵屋は、その忠義は天晴であると褒め称えられ、日比谷の毛利家への出入りが許され長く栄えたという。 




参考口演:田辺鶴遊

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