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『大久保彦左衛門〜木村の梅(梅の木のご意見)』あらすじ

(おおくぼひこざえもん〜きむらのうめ・うめのきのごいけん)



【解説】
 「木村の梅」「梅の木のご意見」「木村の梅のご意見」という演題も良く使われ、前座などの若手が短めに演じることも多い。大久保彦左衛門は家康、秀忠、家光と三代にわたって徳川家に仕えた旗本で、「天下の御意見番」と言われる。講談でも諫める役として、また知恵を使って万事解決する役としてしばしば登場する。ある日大久保彦左衛門が御殿にあがると、次の間には高さが三尺もある見事な梅の木が鉢植えされている。“木村の梅”と呼ばれ、家光公が大変にご寵愛なさっている。この梅の木を一枝手折れば死罪、一輪花を散らせば7日間の謹慎であるとのことだが、人よりも梅の木が大切であるか、いざというとき梅の木が敵方を防いでくれるか。彦左衛門は残らずこの梅の枝を折ってしまう…。

【あらすじ】
 徳川の武将、大久保彦左衛門は16歳の時、鳶の巣文殊山で初陣を迎え、見事に敵の大将の和田兵部を討ち取る。戦場に出ること数百回。家康は3万石の知行を与えるというが、彦左衛門はこれを断る。その代りに、わがまま御免のお許しを得たいという。目上の人に対しても物言うわがままの許しを家康から賜る。こうして彦左衛門は「天下のご意見番」と呼ばれることになる。彦左衛門は、家康、秀忠、家光と、三代、60年にわたって徳川家に仕え、忠勤に励む。
 三代将軍、家光公の御代のこと。ある日、彦左衛門が御殿にあがると、次の間の縁側に高さが三尺を越えるというから1メートルあまりもある堂々とした梅の木が、立派な鉢に植えられて、置かれている。17の枝が延び、数千の花が咲き誇っている梅の古木で、辺りには馥郁(ふくいく)たる香りが漂っている。梅の木の傍らには坊主が2人控えている。彦左衛門は坊主に何をしているとかと尋ねると、ここで梅を守っているという。この梅の木は上様が御寵愛する「木村の梅」と申す名木である。この梅の木を一枝手折れば死罪、一輪の花を散らせば7日間の謹慎であるとの話である。彦左衛門は梅の香りが分からないと言い、枝を2、3本手折って鼻に近づけて匂いをかぎたいと言うが、坊主たちは「冗談仰ってはいけません」と応える。
 上様の前に着座した彦左衛門は御前で両手を付き、ご挨拶をする。家光は、今冬は寒さが厳しく、風邪などひくといけないので、毎日登城しなくてもよいと告げるが、彦左衛門はそこらの若造とは身体の鍛え方が違うと言い、例によって鳶の巣文殊山で初陣を飾った際の自慢話を始める。自分は暑いからと言って薄着はせず、また寒いからと言って厚着をせず、また欲が無いので贅沢はしないと語る。家光公は「次の間を見よ」と言って襖を開けさせ、「どうじゃ、見事な梅であろう。これは“木村の梅”じゃ」と得意げに言う。彦左衛門は先ほど見せていただいたが、他にない名木であると褒め、この「木村の梅」を拝領したいと言う。「先ほど自分には欲が無い」と言ったばかりでいかと、家光公は問いただす。「自分が所望するのは知行や金でなくたかが梅の木1鉢である」と言葉を返す。家光公は断るが、彦左衛門は「それでも頂きたい」と言う。しかし家光公はやはり断り、彦左衛門は「それなら結構です」と言う。立ち上がった彦左衛門は、木村の梅の前まで進み、番をしている坊主を拳で殴って追い払い、メリメリ、バリバリと梅の枝を折ってしまう。さらにその枝から、花をひとつ残らずむしり取る。
 「やぁ、さっぱりいたした」。彦左衛門は「この梅はあまりに見事に咲いているのでむしり取られるのだ」と、満足げに言う。家光公はあっけにとられている。正気に戻って「その老人をどこへでも連れていけ」と近習に命じる。近習たちは彦左衛門を両側から抱えようとする。「何をいたす」、彦左衛門は自分を捕らえようとする近習を振り払い、家光公の前で正座をする。彦左衛門は大きな眼(まなこ)でジッと家光公を睨む。家光公も睨み返す。彦左衛門の目からは涙が流れ、しまいには大きな声で泣き出す。家光公は「この狸オヤジは、どこをつねって涙を流しているんだ」と呆れる。
 彦左衛門は家光公に進言する。「人と梅とどちらが大切ですか。敵の前に梅の木を置いても、攻めてくる敵を防ぐことはできない。それなのに『一枝手折れば死罪、一輪の花を散らせば7日間の謹慎』とはどういうことだ。梅をもって尊しとするのはいかがなものか」。この諫めを聴いて家光公はハタと気づく。彦左衛門に近寄って「許してくれよ」という。彦左衛門はズズズと下がり、「さすがは上様。自分の意見を聞き入れてくださり、恐れ入り奉る」。このように、例え将軍の前でも物おじせずに、過ちを諫める。大久保彦左衛門が「天下のご意見番」と呼ばれた所以である。




参考口演:神田菫花

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