『講談るうむ』トップページへ戻る講談あらすじメニューページへ メールはこちら |


『伊豆の長八』あらすじ

(いずのちょうはち)


【解説】
 入江長八は1815(文化12)年の生まれで1889(明治22)年の没。江戸時代末期から明治期にかけて実在した左官で、特に漆喰細工、鏝絵(こてえ)を得意とした。江戸を中心に活躍したが、震災や戦災で多くの作品は失われてしまっている。また話中にあるように、出身地である伊豆の美術館で彼の作品を鑑賞することができる。この読み物は、一龍斎春水による創作講談である。

【あらすじ】
 西伊豆の松崎には左官の長八こと入江長八という男がいる。12歳の時から左官屋に奉公し、たいそう腕は良い。19歳の時、ひとり江戸へ出て亀沢町の長五郎親方の家で厄介になる。ここでもますます腕を上げる。仕事の合間に新内を習う。
 長八26歳の時、深川のお不動様へ行くと、かつて新内の稽古所で一緒だったおきんと出会う。長八は背が高くなかなかの二枚目である。二人居酒屋でお互いの近況を話す。長八は絵を描きたいという思いが強く、川越の絵かきの先生に習っている。一方、おきんは生活に困りおととしから泉屋という商家の旦那の妾になっている。2人は男女の仲になり、このまま本所割下水で一緒に生活を始める。
 ある夜、戸を叩く音がするのでおきんを探している泉屋の家の者かと思ったら、長五郎親方の元にいる竹蔵という男であった。人形町の薬師堂建立という大きな仕事があって腕のいい左官職人がたくさん必要である。そこで長八にも手伝ってもらいたいという。おきんは、毎日絵を描きたいのなら、左官に使うコテで絵を描けばよいと言う。これはいい知恵である。牡丹に龍という下絵を紙に書き、長五郎の元に持っていくとたいそうこれを気に入り、薬師堂の仕事の頭は長八に任せるという。長八の兄弟子たちにはこれが面白くない。長八は近くの寺に住み込み、おきんは長屋で一人長八の帰りを待っている。ある日、おきんが外を歩いていると左官の職人二人を見かける。陰から二人の話を聞いていると、長八の元で働く兄弟子たちで、面子を潰され腹に据えかねている様子であった。そんな状態なので仕事は兄弟子たちの協力が得られず、なかなかにはかどらなかった。
 2,3日後、ふらりと長五郎が仕事場にやってくる。世話をしてくれる人があって、今日は早めに切り上げて職人皆で酒を飲もうという。酒の席で長五郎は職人それぞれから不満に思っていることを聞き出す。兄弟子たちは長八が仕事の頭であることを快く思っていない。長八は、弟弟子である自分が頭をしていることを心から詫び、その上でこれからも今まで通り仕事を続けてほしいと兄弟子たちに頼む。彼らもこれを受け入れる。
 長五郎親方の態度がなんとなく不審だった長八は本所割下水の長屋へ帰ると、おきんが荷物をまとめ家を出ようとしているところだった。事情を聴くと、泉屋の旦那にバッタリ会い、たんまりと小遣いもやるから帰ってきて欲しいと土下座をして頼まれた。長八もなかなか家に戻って来ず、それならばと旦那の元へ戻ろうと思っているという。そういう割には身なりがみすぼらしい。実はおきんの方から泉屋へ会いに行き、金を貸して貰っていたのであった。前日の、酒の席を世話をしてくれる人がいたというのは嘘で、おきんが手配したものであった。これが成功したら長八は絵を描きながら左官の仕事をしていける。そういう思いで何から何まで仕組んだのだ。その上で金を貸して貰ったという恩義のある泉屋の旦那の元へ戻るつもりである。絵は完成し、誰もが感心する見事な出来だった。やがて長八はコテ絵の名人と呼ばれるようになる。たくさん造られたコテ絵も震災で焼け、今はほとんど残っていないが、西伊豆・松崎町の長八美術館で彼の作品を見ることができる。





参考口演:一龍斎春水

講談るうむ(http://koudanfan.web.fc2.com/index.html
inserted by FC2 system