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『赤穂義士外伝〜梶川与惣兵衛』あらすじ

(あこうぎしがいでん〜かじかわよそべえ)


【解説】
 『梶川の屏風回し』などの演題が使われることもある。
 梶川頼照(かじかわよりてる:通称・与惣兵衛)(1647〜1723)は徳川家に仕える旗本であり、1701(元禄14)年3月14日、江戸城殿中にて浅野内匠頭が吉良上野介に刃傷に及んだ際には、内匠頭を取り押さえた。この手柄で19日には500石の加増になっている。またこの刃傷事件の詳細を『梶川日記』に書き残している。
 浅野内匠頭が積もる遺恨を晴らす機会を邪魔建てしたとして、講談ではよい人物とされていない。

【あらすじ】
 元禄14年3月14日、場所は江戸城御本丸の『松の廊下』。積もる遺恨から、播州赤穂の城主5万3千石の浅野内匠頭が、高家筆頭の吉良上野介に刃傷に及ぶ。斬りかかったものの、金輪の入っている烏帽子をかぶっていたので刃が頭に届かない。上野介はその場から逃げだそうとする。内匠頭は続いて背中をに斬りかかり鮮血が流れるが、上野介に致命傷は与えられない。折しもこの松の廊下を通行していたのが700石を頂戴する旗本、梶川与惣兵衛(かじかわよそべえ)。大力無双の梶川は内匠頭の後ろへ廻り込み、がっちりと羽交い絞めにし「お場所柄であるぞ控え」と叫ぶ。内匠頭は「どなた様かは存ぜぬが、武士の情け、その手をお放し下され」と涙を流して懇願するが、梶川は放さず、内匠頭はそのまま捕らえられる。内匠頭は即日のご切腹となり、赤穂のお家は断絶となる。一方、上野介への処分はない。
 それから1年10ヶ月経った元禄15年12月14日、大石内蔵助(くらのすけ)をはじめとする赤穂浪士四十七士が本所松坂町吉良邸に討ち入りし、上野介の首を取って見事に本懐を遂げる。江戸の町は興奮冷めやらぬ中、松の廊下にて吉良の命を救った廉で御公儀より梶川与惣兵衛は500石のご加増になる。与惣兵衛は大喜びである。このままいけば長崎奉行になれるかも知れない。与惣兵衛は世話を受けた老中の方々へお礼をしに出掛ける。
 まず初めに訪ねたのが老中筆頭の秋元但馬守の邸である。奥の座敷に通され、但馬守が現われる。てっきり与惣兵衛は自らの武勇が褒められるのかと思ったが、但馬守は源頼朝公の富士の巻狩の屏風を見せる。「この沢山の人物の中で、一人だけ花も実もある情けが分かる者がいるが誰か分かるか」と言う。与惣兵衛は言い当てられない。それは御所五郎丸(ごしょのごろうまる)であると但馬守は答える。但馬守は『曽我物語』を滔々と語り始める。武士ならば当然に曽我物語くらいは知っている。まだこれから立ち寄る先があるのにと与惣兵衛は困り果てるが仕方なく聞いている。
 曽我兄弟はいよいよ仇、工藤祐経(くどうすけつね)を討ち本懐を遂げようという夜、見回りの御所五郎丸と出会う。五郎丸は曽我兄弟のことを良く知っている。兄弟の目的を察知した五郎丸は2人を見逃して仇討ち大望を叶えさせる。兄の十郎は討ち取られ、仇討ちを果たした曽我五郎はこの人に功名を立てさせようと五郎丸のお縄に掛かる。御所五郎丸こそ花も実もある武士ではないか。それに引き換え、哀訴嘆願する浅野内匠頭を解き放たず、望みを叶えさせなかった梶川は人の情けがない、そのような奴は大嫌いだ、屋敷にはもう来るなと罵倒される。
 長々と曽我物語を聞かされた上に出入留めになってしまった梶川与惣兵衛。しょんぼりして次の老中、土屋相模守の邸に向かう。ニコニコしながら相模守は出て来て、是非見て貰いたいものがあると言う。次の間に秋元公の邸にあったのと全く同じ富士の巻狩の屏風がある。相模守もまた御所五郎丸こそ花も実もある武士ではないかと言い、お前のような奴は見たくもないと怒鳴りつける。ウヘッーと退散する与惣兵衛。
 ひき続いて、与惣兵衛は同じく老中の稲葉丹後守の邸を訪ねる。恐る恐る見回すと、やはり次の間に同じ屏風がある。また同じお小言を食らうに違いない。帰ろうとすると丹波守の家来がつかつかと駆け寄ってきて与惣兵衛に組み付く。「お離しくだされ」「なぜ殿に会わないうちに帰りなさる」これでは話がアベコベである。
 ふだんから自分のことを可愛がってくれた小笠原佐渡守なら大丈夫だろう。部屋に通されたが、いい具合に例の屏風は無い。「ああ、良かった」と安堵したが、いつまで経っても佐渡守が姿を現さない。たまりかねて家来に聴くと、富士の巻狩の屏風が届くのを待っていると言う。ウワッーと驚いた与惣兵衛。どこの邸にも同じ屏風があると思ったら、グルグルと回っていたのだ。
 こう方々から睨まれていては堪らない。与惣兵衛は倅に代を譲り、自らは隠居したという。




参考口演:一龍斎貞水

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