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『槍持ち甚兵衛』あらすじ

(やりもちじんべえ)


【解説】
 現在、演じる人は少ないが五代目宝井馬琴のCD全集のなかに収録されている。
 越後・高田の榊原家には長さが6メートルもあるという家宝の大槍が伝えられ、参勤交代の折には、決まった槍持ちが運ぶことになっている。ある時、その槍持ちである甚兵衛の体調が悪くて運ぶことが出来ない。代わりに妹婿である多田の仁左が役目を引き受けるが、途中でその槍を折ってしまい死罪になる。人の命より槍の方が大切なのか、甚兵衛は悔しがる…。

【あらすじ】
 徳川四天王のうちの一家、榊原家には「霞亀甲栴檀(かすみきっこうせんだん)の大槍」という家宝が伝わる。長さは三間二尺(約6m)、重さが十六貫(約60kg)。もちろん実戦で使用するものではなく飾り槍であり、榊原家では藩主の式部太夫が越後・高田から江戸への参勤交代の折、槍持ち3人に持参させている。その槍持ちとは高田の城下から追分宿までは関山の五助、追分から坂本宿までは上田の源蔵、そして坂本宿から先は忍田(おしだ)村の甚兵衛の3人である。
 さて、参勤交代の時期だが、甚兵衛の体調が悪くこの槍持ちがとても出来るような状態ではない。そこで名主に代わりの人物を探してもらい、甚兵衛の妹婿である多田の仁左が選ばれた。出かける前日、仁左は村の者たちを集めドンチャカ騒ぎをするが、その酒席で仁左の手にしていたお猪口が2つに割れてしまう。後で考えればこれは不吉の前兆であったか。
 さて、仁左は坂本宿まで向かい上田の源蔵から大槍を引き継ぐ。間もなく熊谷宿というところで、突然強い風が吹く。「疾風(はやて)だ!」。強風と共に砂ぼこりが舞い、仁左の眼に入る。仁左は石につまづいてフラフラと倒れ、大槍の先端の真鍮部分がポッキリ折れてしまう。この罪を責められ、次の宿所で仁左は斬り捨てられてしまった。仁左が死んだとの知らせが、名主や甚兵衛の元にも届く。人の命より槍の方が大切なのか、甚兵衛は大槍のことを憎々しげに思いながら、仁左を弔いに出す。
 次に榊原式部太夫が、江戸から越後・高田へ帰参する頃には甚兵衛はすっかり体調も良くなっており、再び大槍の槍持ちを引き受けることになる。その道中、夜中に宿所で甚兵衛は台所からナタをそっと持ち出し、この大槍を真っ二つに割ってしまう。家来衆は「気でも狂ったのか」と驚く。「世間では榊原の厄介槍と呼ばれている」と言う甚兵衛。このままではこの槍をめぐって命を落とす者がこの先も出てくるだろう。それを防ぐため覚悟の上で槍を叩き斬ったのだ。
 この話は本陣の榊原式部太夫の元にも伝わった。甚兵衛の心意気に関心した式部太夫。大槍をめぐって下郎の者たちが難儀している。戦場で敵の命を取るべき武器で、自身の忠義の者たちが命を落としているとは。式部太夫も家老の安田作左衛門もなんとかして甚兵衛の命を助けたいと思う。
 筵の上で後ろ手で縛られた甚兵衛を家老の安田が手打ちにする。安田が斬ったのは甚兵衛の首ではなく、縛っていた縄であった。甚兵衛が斬られたことにしてわざと命を助けたのだ。向こう3年の間、中山道には近づかないように申し付け、金を与えて、甚兵衛をその場から去らせた。涙を流して甚兵衛は夜道を歩くのであった。




参考口演:宝井梅湯

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