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『夜もすがら検校』あらすじ

(よもすがらけんぎょう)


【解説】
 長谷川伸が大正13年に発表した短編小説で、彼の出世作となった。講談では定番の読物として多くの人が演じている。
 『平家物語』を語らせれば日本一という玄城(げんじょう)検校は京都に住む。江戸の大名たちからもぜひ検校の語りが聴きたいという声が掛かり、友六という家僕を連れて東海道を東へと向かう。江戸では友六は“おりよ”という女に夢中になる。京都で2人一緒に暮そう。友六はこう言って帰路、検校には分からないよう、このおりよを共に連れていくことにする。中山道の雪深い木曽の山中の宿でおりよはやはり江戸を離れたくないと言い出す。検校を雪の中に放り出してしまい、金も奪って一緒に江戸へ戻ろう。おりよはこう友六をそそのかす…。

【あらすじ】
 江戸時代の中頃の話。京都に『平家物語』を語らせれば日本一と評判の高い玄城(げんじょう)検校という者がいた。この人の平家物語は一晩中聴いていても飽きないというので、人は『夜もすがら検校』と彼を呼ぶ。江戸の大名たちから、是非検校の語る平家物語を聴きたいという声が掛かり、友六という使用人を連れて東海道を東へと向かう。江戸に着き、方々で平家物語を語るが、大変に評判がよく滞在が3,4ヶ月と延びてしまう。一方友六はすることが無く、芝の神明前の水茶屋に出入りするようになり、そこで「おりよ」という女性と出会う。友六はおりよにすっかり夢中になってしまい、自分は間もなく上方へ帰るので一緒にいって所帯を持とうと言う。旦那は目が見えないので、京都への道中、女が一人余計に着いていっても上手くごまかせるだろう。往きは東海道を通ったので、帰りは中山道を経由することにする。旅の宿では玄城検校を床に就かせると、友六とおりよは二階の同じ寝間で夜を過ごす。
 木曽福島の宿では大雪で3日の間発てない状態が続く。暇を持て余した玄城検校が琵琶を持つと弦が2本同時に切れる。何か不吉の前兆でなければ良いが。二階ではおりよと友六が喧嘩をしている。おりよはやはり京都なぞには行きたくない、江戸以外に住みたくない、江戸でならば所帯を持ってもいいと言う。邪魔な検校を始末して金もそっくり頂いてしまおうと、おりよはそそのかす。雪が止み宿を発つが、友六に酒手を渡された駕籠屋は途中で検校を雪の中に放り出して去ってしまう。
 友六の悪だくみを知り悔しがる検校だがもうどうしようもない。手探りで落ちていた琵琶を見つけ出す。杖も無く足で探りながら歩くが、道の下へと滑り落ちてしまう。吹き溜まりに落ち怪我はなかったが、大道から外れた山の中でもう誰も自分を見つけてくれることはなかろう。死を覚悟して琵琶を取り出し雪の中、平家物語を語り始める。
 息も絶え絶えになって来た頃、大きな風呂敷包みを持った若い男がその声を聞き付け、法師頭巾を被った検校を発見する。検校を背負った男は山田村という場所の一軒家まで連れて行き、炉に火をくべて身体を必死に暖める。まだ運があったか検校は意識が戻り、男にこれまでの一部始終を話す。検校は京都へ戻るための路銀を貸して欲しいと頼むが、男も一文無しである。実はこの男は借金を重ね、夜逃げするところで検校を見つけたのだ。検校は漆(うるし)の焼ける臭いがするのに気づく。検校に暖を取らせるため、男は先祖代々伝わる大切な仏壇を焼いてしまっていたのだ。さらに腹の空いた検校に雑炊を食べさせ元気づける。男の心遣いに感動する検校。男は夜逃げをするつもりだったが、もう空は明るくなるろうとしている。
 2人は美濃の大垣まで出る。検校は『平家物語』を語ってあちこちを廻るが、なにしろ日本一と言われる『平家物語』の語り部なのでたちまちのうちに金が集まる。これならば通し駕籠で京都へ行ける。男にも一緒に行こうと勧めるが彼はこれを断った。2人は別れ、検校は無事に京都へ戻ることが出来た。
 それから5年という月日が流れる。京都にしては珍しくえらく雪の降った日、玄城検校の屋敷にいつしか木曽の山中で出会った若い男が訪れる。手放しで喜ぶ検校。聞くと別れた後、男は仕事を得ようと方々を歩き回ったがなかなかいい職が見つからず、ここ京都へ立ち寄ったという。検校は金の入った包みを渡そうとするが、自分の借金は自分で返すと言って受取ろうとしない。命の恩人である男になにか恩返しがしたい検校。男はただひとつ『平家物語』を語って欲しいと頼む。もちろん検校は承知し、一番大切にしている名器の琵琶を手にする。語りが最高潮に達したところで、何を思ったか検校は柱に琵琶を思い切りぶつけ木っ端みじんになる。検校は妻に壊れた琵琶を炉にくべるように言う。あの木曽の一軒家で男は大切な仏壇を焼いた、その代わりに検校が宝としているこの琵琶を焼いたのである。検校の真意が分かった男は改めて金を受け取った。夜が明けるまで2人は思い出話を語り合う。
 翌朝、検校は旅立つ男を見送る。男が近江国に差仕掛かると、みすぼらしい身なりのひとりの男とすれ違う。彼こそは雪の中に検校を放り出して逃げた友六で、八王子の宿でおりよの色男という者と出会い、滅茶滅茶に叩きのめされ、金も女も盗られてしまったのだ。江戸でおりよを探すが見つけられるはずもなく、また職も見つけられず、せめて故郷である京都で死のうと西へ向かっているのであった。琵琶湖の水面はまるで若い男の善行と友六の悪行を映し出す浄玻璃(じょうはり)の鏡のようであったという、『夜もすがら検校』という一席。




参考口演:宝井琴調

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