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『名医と名優(男の花道)』あらすじ

(めいいとめいゆう、おとこのはなみち)


【解説】
 今では落語でもお馴染みの話になっており林家正雀師匠が演じる音源がCD発売されている。半井源太郎という貧乏な医者は、長崎で眼科医の修行を積み、今は江戸へと向かっている。途中、東海道の金谷の宿に泊まると、同じ宿の二階では役者の中村歌右衛門が「風眼」という病で苦しんでいた。源太郎の懸命の手当ての甲斐あって病は無事に完治する。「あなたの身に一大事があった際は、どんな時でもすぐに駆け付けます」、歌右衛門はこう礼を言い2人は別れる。3年後、源太郎の身にその「一大事」が起こる…。

【あらすじ】
 江戸は文化・文政の時代の話。半井(なからい)源太郎というひとりの貧乏な医者がいた。5年の間長崎で眼科医の修行を積み、江戸へ出て一旗揚げようと、東へ向かって東海道の金谷の宿・近江屋に泊まる。真夜中のこと、「ウーン、ウーン」と二階から唸り声がするのに気づく。宿屋の女中から「中村歌右衛門様の目の玉が飛び出して、苦しんいる」と聞かされる。この歌右衛門は3代目で天下の名優と呼ばれている。案内をされて源太郎は部屋に入ると、歌右衛門は七転八倒の苦しみで周囲の者たちはオロオロするばかりである。「これは悪性の風眼(ふうがん)という病だ」。源太郎は三日三晩、不眠不休で手当てをする。四日目の朝、当てられた布を取ると見事に歌右衛門の目は治っている。さらに3日、療治を重ね歌右衛門ら一行は金谷の宿を出立する。また源五郎もこれに同道する。
 江戸に着き「ありがとうございます。この御恩は生涯忘れません」。何度も深々と礼を繰り返す歌右衛門。百両の入った包みを源五郎に渡そうとするが、源五郎はこれを受け取らない。「先生の身に一大事があった際には、いつどのような時にでも駆け付けます」、こう約束して2人は別れた。
 それから3年、さらに芸に研鑽を重ね歌右衛門の名声はますます高まる。一方、源太郎は神田・お玉ヶ池脇の長屋で医業を開くが、もとより「医は仁術」という者なので相変わらず貧乏なままである。
 その源太郎が、水野出羽守の公用人である土方縫殿助(ふじかたぬいのすけ)の招きで、珍しく向島の料亭に来ている。土方は幇間医者に珍妙な踊りを躍らせ、宴席は大盛り上がりである。しかし源太郎は下を向いてつまらなそうな顔をしており、酒癖の悪い土方はそんな源太郎に絡みつく。「今度はお前が踊れ」と迫るが源太郎は断る。激怒した土方は刀の柄に手をかけるが、それでも源太郎は自分は不調法者であるからと応じようとしない。「しかるべき踊り手ならば」と言う源太郎。「しかるべき踊り手といえば、坂東三津五郎か、中村歌右衛門か」と迫る土方。つい源太郎はかつて出会った「中村歌右衛門」の名を口に出してしまう。土方は「では、中村歌右衛門をここに呼べ」と言うと、もはや観念したか「中村歌右衛門様なら手紙一通でここに参ります。もし来なければ切腹します」と源太郎は答える。源太郎は急いで手紙をしたため、使いの者に託して中村座に出演中の歌右衛門へと送る。
 中村座の歌右衛門は命の恩人、半井源五郎からの手紙ということですぐ様これを見る。今まさに幕が開こうという時だが、すぐに駆け付けなければならない。幕が開くとそこには歌右衛門が着座している。金谷の宿での話しをし、今、命の恩人の危機であるので芝居が始まるまでしばらく待って欲しいと話すと客席も気持ちよくこれに応じた。駕籠を飛ばして向島に向かう。浅草寺から七つの鐘を打つ音が聞こえ、源太郎がまさに今、刀を腹に突き立てようとした時に、転げるように歌右衛門が座敷に飛び込んだ。歌右衛門が踊りを舞うと、宴席からはヤンヤヤンヤの喝采が起こる。これから歌右衛門は駕籠に乗り中村座へと戻るが、観客は誰一人帰っていなかった。ここで歌右衛門はまたとない『熊谷陣屋』を演じるのであった。




参考口演:神田松鯉

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