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『鉢の木』あらすじ

(はちのき)



【解説】
 北条時頼(1227〜1263)は鎌倉幕府・第5代執権。1246年に執権に就任。反対勢力を一掃し、執権としての地位を盤石なものにする。政治では仁愛、公平、質素倹約を旨とし、また庶民救済にも力をいれた名君といわれている。1256年には執権の職を譲り、出家して諸国行脚の旅に出る。これが『鉢の木』の伝説に繋がるのであろう。
 一龍斎貞水などの演じる『鉢の木』はやや難解であるが、この読物の面白さが分かるようになれば、講談ファンとして本物であろう。

【あらすじ】
 建長2年12月、北条五代執権の時頼(ときより)は大手辰巳の櫓で雪見の宴を催した。辺り一面は銀世界で、ボタンでも無いシャクヤクでも無い紅の花が咲き乱れ、その上をトビやカラスが舞い狂っている。時頼は、傍らにいた二階堂信濃守にこれはどうしたことかと尋ねる。信濃守は、昨年来の不作で、さらに今年は悪い疫病が流行り、人々は道々で行き倒れになる、その死肉をトビやカラスがあさっている、それが花びらのように見えるのだと言う。時頼は持っていた盃を置く。天災が起こるのは政(まつりごと)が悪いからだ。酒宴はすぐに中止になる。
 時頼は考えた。日本六十余州には優れた人材がまだまだ埋もれているに違いない。そういう人材を集めて世の中のために役立てよう。そこで諸国漫遊を思い立った。時頼は、頭を丸めて出家し、鎌倉建長寺の徒弟、覚了房道崇(かくりょうぼうどうそう)と名を改める。また二階堂信濃守も頭を丸めて僧になり、二人は諸国を巡る。
 その道中、建長4年霜月のこと。野州・足利学校で、下野国・安蘇郡(あそごおり)牧の山中には佐野源左衛門常世(つねよ)という者がおり、大変に評判の良い人物だと聞かされる。ぜひ彼に会ってみよう。山本の宿に信濃守を残し、一人、山また山を越え、降り積もった雪をかき分け、ようやく源左衛門の家へと辿り着いた。
 家の中からは白妙・玉笹の姉妹が現われた。陸奥から鎌倉へと向かう旅の僧だが、大雪で難儀しており、ここに一夜泊めて貰いたいと請い願う。姉妹は気の毒に思いながらも、主が狩猟に出ていて留守なので、殿方を泊めるわけにはいかないと言う。仕方ないので引き返すが、妹の玉笹が今日は母の三十五日なのでお経を唱えて貰ったらどうだろうと言い、旅の僧を連れ戻した。姉妹は親切であった。足を洗い、粟・稗の雑炊を頂くと次の間に通され、粗末な布団の中に入る。
 やがて雪の中、源左衛門がウサギ一匹を携えて帰ってきた。獣を殺生する己のことを落ちぶれたものだとつくづく思う。食事をしているうちに姉妹から旅の僧を泊めたと知らされる。源左衛門が挨拶をすると、旅の僧は自分は覚了房道崇という者だと名乗る。床の間には鎧・兜、弓、薙刀がある。あなた様は元々身分ある方であろう、本性を教えてもらいたいと僧は言う。はじめのうちは隠していた源左衛門も、僧が念珠をねじ切ろうとすると、自分の素性を明かす。僧は棚の上にある梅・松・桜の幹の鉢植えについて尋ねる。源左衛門はそれぞれの鉢植えについてその由来を答える。こうしているうちに薪が乏しくなってきた。突然立ち上がった源左衛門は梅・松・桜の鉢植えを棚から降ろすと、ナタでもって根元から切ってしまう。それを炉にくべるとバッと燃え上がる。僧は深々と礼を言う。
 翌朝になって別れを告げ、山本の宿へ戻り、信濃守と共に鎌倉へ帰る。一方、源左衛門宅では姉の白妙が僧の去った跡を掃除していると、衝立になにやら書いてある。昨日の僧が書いたのであろう。見事な手蹟で、「雪の夜、大切な鉢の木を切って暖を取らせてくれた。その恩賞として、加賀・梅田、越中・桜田、上野・松井田の三か所の荘を与える。早々に鎌倉表へ名乗って出るように。最明寺(さいみょうじ)時頼」と、書いてある。源左衛門は昨夜泊めた僧が、我が君である時頼であったことを知る。「早々に」とあるが、自分の手柄にすぐさま名乗って出るようではかえって名を汚す。源左衛門は改めて時頼からの御沙汰があるまで待つ心づもりである。
 一方、鎌倉へ帰った時頼はすぐに源左衛門を呼ぼうとする。しかし青砥左衛門藤綱(あおとさえもんふじつな)は、実は源左衛門は時頼の顔を知っていたのかも知れないという。果たして、本当の親切心からのもてなしだったのか。謀反が起こり時頼を倒そうとしている、すぐに鎌倉へ駆け付けるようにと偽物の下知(命令)を出した。源左衛門は先祖伝来の兜をかぶり、大薙刀を小脇に抱え込み、名馬に乗ってすぐさま鎌倉へと向かう。鎌倉では二階堂信濃守が出迎え、源左衛門と僧侶の姿の時頼と主従の対面を果たす。時頼は源左衛門を七万丁の大名にお取立てになる。これが「いざ鎌倉へ」の語源になったとも言われている。




参考口演:一龍斎貞水

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