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『左甚五郎 あやめ人形』あらすじ

(ひだりじんごろう あやめにんぎょう)


【解説】
 上野・寛永寺の鐘楼堂を巡っては別に『水呑みの龍』という読物があるが、これとは別の話で、2人の女性が焦点となる。この女性が2人とも貞女であり、甚五郎のために尽くすという珍しい形の話である。
 寛永寺の鐘楼堂の柱4本に龍を彫るのに4人の名工が選ばれる。そのうちの1人が甚五郎であった。甚五郎は江戸の龍の彫り物があるところを巡るが、参考になるような物は見つからない。飛騨の師匠の家にある『雲龍比翼』という本には見事な龍が描かれているのとのことだが、先祖伝来のその本を見るためには、師匠の家の婿にならなければならない。しかしすでに甚五郎には、江戸に綾という妻がいる…。

【あらすじ】
 三代将軍家光の時代、江戸・寛永寺に鐘楼堂を建立することになった。その4本の柱に龍の彫り物を施すことになり、全国から名工が選ばれる。このうち甚五郎だけはまだ無名の者であった。神田皆川町の源太親方が、たいそう甚五郎に力を入れており、彼と自分の娘・綾とを縁づかせている。綾は神田小町と評判の娘であり、周囲の者たちは甚五郎のことをやっかみもしていた。
 甚五郎は江戸の方々へ龍の彫り物を見に行くが、なかなか見本になるような物は見つからない。そこで甚五郎は考えた。自分の師匠は巨勢(こせ)甚兵衛という優れた彫り物の工匠だが、この師匠の先祖が巨勢金岡(こせのかなおか)といって、唐(もろこし)にも並ぶ者がいないという彫り物の名人であった。師匠の家には先祖から伝わる『雲龍比翼(うんりゅうひよく)』という本があり、そこには優れた龍が描かれていると聞いている。この本を見せて貰えたらと参考になるだろう。妻の綾に話したうえで、甚五郎は師匠のいる飛騨へと旅立った。
 10日経って甚五郎は飛騨に着き、師匠の甚兵衛とその娘、尾花に会う。尾花は実は甚五郎に恋心を抱いていた。甚五郎は『雲龍比翼』の本を見せて貰いたいというが、甚兵衛はあの本は家宝であり、家の当主でなければ見せることは出来ない。尾花の婿になって巨勢の家を継いでくれれば見せられるという。甚五郎は江戸に綾という妻がすでにいることを話せなかった。
 甚五郎は江戸まで戻る。思い悩んだ末、妻の綾には『雲龍比翼』は川が氾濫した際に流れて無くなってしまったと嘘の話をする。『雲龍比翼』の本も龍の彫り物の仕事も諦める、という心づもりであった。夜になり甚五郎は、婿になって巨勢の家を継ぐ件は無かったことにして欲しいと、師匠に出す手紙を認める。
 翌朝、甚五郎はその手紙を出し、綾の父親・源太に会いに行くと言って皆川町まで出かける。甚五郎が訪ねてくる来る前に、綾は父親の元に行く。綾は昨夜、甚五郎の書いた手紙を読んでしまっていた。綾という妻を捨てて別の女性と一緒になることは出来ないと思った甚五郎は、『雲龍比翼』の本を入手することも栄誉ある龍の彫り物の仕事も断念したのであった。しかし綾は甚五郎の仕事をなんとても成功させてほしかった。そこで甚五郎と離縁しようと考える。自分が身を引いても夫を世に出したいという思いであった。
 源太はすぐさま飛脚屋に行き、甚五郎が飛騨の師匠に向けて出した手紙を取り戻す。源太の家に甚五郎が現われる。甚五郎は龍の彫り物の件を断ろうとするが、源太は将軍様からの頂いた仕事を何事かと怒る。娘の綾とも離縁させると言って、家から追い出してしまった。甚五郎は綾の待つ家へと戻る。龍の仕事を断ったことを告げると、怒った綾は家を出て行ってしまった。源太も綾も、甚五郎が『雲龍比翼』の本を入手し仕事を成功させるために、わざとしたことであった。
 しばらくして、飛騨から師匠の甚兵衛と尾花が、江戸の甚五郎の家を訪ねて来た。婿になる件について断りの手紙を出したはずなのになぜだろうと不思議に思いながらも、妻の綾も出ていってしまったことだしと、2人を家に迎え入れた。『雲龍比翼』の本を見ることも出来、無事、鐘楼堂に納める龍を彫り上げることが出来た。
 鐘楼堂は完成し、家光公がご上覧になる。どの龍も見事な出来たが、特に西側の甚五郎の掘った龍が優れている。「甚五郎は日本一の名人である」という言葉を家光公から賜る。
 その日の夜のこと、神田皆川町では、源太が娘の綾を斬り殺したという噂が広まる。人々は、源太が狂ったと口悪く言う。しかし甚五郎が調べてみると、夫が立派な龍を彫り上げてもう思い残すことはないと、綾が自害したことが分かった。これに心を動かされた尾花は手紙を残して家を去り、尼となって綾の菩提を弔った。ひとり残された甚五郎は綾の面影を人形に刻んで、「あやめ人形」として生涯離さなかったという。





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