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『名人小団次(紅緒の草履)』あらすじ

(めいじんこだんじ・べにおのぞうり)


【解説】
 『名人小団次』または『紅緒の草履』の演題で演じられる。この読物での市川小団次は四代目になり、幕末に活躍した名優であり、1812(文化9)年の生まれ1866(慶応2)年の没。
 大坂で名優といわれた嵐璃珏(りかく)を座頭として、仮名手本忠臣蔵が上演されている。五段目の場で市川米十郎(小団次の前名)演じる千崎弥五郎がいつまで経っても舞台に現れず、芝居は滅茶滅茶になってしまった。米十郎は腹をくだし厠から出られなかったのだ。座頭である璃珏は梯子段から米十郎を蹴落とし、米十郎は怪我をする。米十郎は悔しさを胸に、璃珏の脱げた草履を持って夜一座から抜け出す。それから十数年経って…。

【あらすじ】
 天保年間の話。上方屈指の名優「嵐璃珏(りかく)」の一座は、大坂道頓堀・増田座で仮名手本忠臣蔵を通しで上演している。五段目・山崎街道の場面。夜闇の山道で璃珏演じる早野勘平が舞台に出ている。ここで市川米十郎演じる千崎弥五郎が登場するはずなのだがいつまで経っても出てこない。おかしいと思った客席はざわつき、璃珏は「幕を引け!」と叫ぶ。楽屋へ戻ると、璃珏の前に米十郎が姿を現す。出番直前で急に腹が痛み出し厠に駆け込んでそのまま出られなくなってしまったと言う。「舞台を台無しにしやがって」。怒りの収まらない璃珏は草履を履いた足で米十郎を蹴り倒し、米十郎は梯子段から転げ落ちる。見ると額から血が流れている。「よくもやりやがったな!」逆上した米十郎は璃珏に殴りかかろうとする。「ここで手を出したら二度と役者として舞台に上がれなくなる」、名優のひとり三津五郎が米十郎を押し留める。見ると足下には蹴られた際に脱げた璃珏の紅緒の草履が落ちている。米十郎はこれを懐に入れて夜密かに一座から姿を消す。
 17年後、璃珏は江戸からの出演依頼を受け、浅草猿若町の小屋で「小幡小平次」の幽霊役を演じている。一方これに対抗して市川小団次という役者の一座が中村座で「鍋島猫騒動」を上演しており小団次は化け猫の役で出演している。双方の芝居とも同日が初日で最初のうちは両者大入り満員であった。しかし日が経つにつれ小団次の方の芝居は盛況が続く一方、璃珏の方は客の入りがだんだんに減る。
 小団次は自分が演じる小屋に来て欲しいとの手紙を璃珏に送る。璃珏は小団次の楽屋を訪れる。小団次は「お懐かしうございます」と言うが璃珏には何のことだか分からない。小団次は「私の守り本尊でございます」と言って床の間に置かれた一足の紅緒の草履を璃珏に見せる。草履には「璃珏」という名が書かれている。小団治こそかつて璃珏に蹴り倒された市川米十郎で、その後江戸で修行を積んで今では一座を持てる役者になっていた。小団次は長く璃珏に憎しみを抱いていたが、それを力にして成長しここまでの役者になれた、今は璃珏に感謝していると話す。璃珏はあの時はひどい目に遭わせてしまったが、実はその後も米十郎のことを案じていたと言う。手に手をとって喜び合う2人。こうして小団次は世話物の名優として後世に名の残る役者になったという。




参考口演:田辺凌鶴

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