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『般若の面』あらすじ

(はんにゃのめん)



【解説】
 「お定」という娘は親元を離れ、煎餅屋の元で奉公をしている。お定には一つ楽しみがあった。箱の中に入れてあるにこやかな「おかめ」の面を見て母親のことを思い出すのだ。それを傍から見ていた店の旦那はお定を驚かそうと、恐ろしい形相をした般若の面にそっと入れ替える。これを見たお定は、母親の身になにかあったに違いないと、店を飛び出し実家へと駆けていく。夜、山道を走っていると金毘羅堂の前に男が二人いる。お定は男から薪に火を付けるよう頼まれた…。
 上方落語で『鬼の面』という同様の話がある。

【あらすじ】
 明治の末、茨城県多賀郡大津町の在に田沢勘作という若い漁師がおり、村の娘の「おかめ」と夫婦になる。二人の仲は睦まじく、やがて女の子が生まれ「定(てい)」と名付ける。お定が十二歳の時、父勘作の乗った船が沖で嵐に遭い沈んでしまう。勘作の命は助かったが、それから田沢の家は網元への船の弁償やら義理の悪い借金やらで生活が苦しくなる。夫婦で夜逃げの相談をするが、それをお定は懸命に引き留める。結局お定は家を出て奉公をすることになった。
 翌朝、お定は父親に連れられ一山越えて、平潟町の松月堂という大きな煎餅屋まで行く。事情を聞いた煎餅屋の旦那の九兵衛はお定を預かることを快諾し、しかも弁償金の方も立て替えてくれるという。父親は感謝しながら帰る。
 お定は二歳になる男の子のお守りをすることになった。それだけでなく家の多くの仕事をこなし、朝早くから夜遅くまで実に良く働く。ある晩、旦那の九兵衛がお定のいる女中部屋の前を通りかかるとボソボソと話し声が聞こえる。一人でいるはずなのに何を話しているのだろうと思って障子の隙間から覗いてみると、お定は箱を覗き込んで「それではおっ母、おやすみなさい」と話しかけている。不思議に思った旦那の九兵衛。夜が明けて、お定がいない時、女中部屋に入って昨夜お定が覗き込んでいた箱の中を見てみる。中にはにこやかな「おかめ」の張り子の面が入っている。なるほど、お定の母親の名前が「おかめ」なので、この面を母だと思って語り掛けているのだなと納得した。いたずら心を起こした旦那は、孫の玩具箱から般若の面を取り出し、お定の箱の中の「おかめ」の面とそっと入れ替えた。
 夜、部屋に戻って来たお定が箱の蓋を取り覗き込んでみると、にこやかな「おかめ」の面が、恐ろしい顔をした般若の面に変わっている。お定は母親が病気か怪我で苦しんでいて、それでこんな恐ろしい形相になっているに違いないと思う。居ても立っても居られないお定。夜明けまでには間があるからそれまでにひとっ走りして母親の様子を見にいこうと、般若の面を無造作に懐へ入れて、無断で店を飛び出す。
 お定は山道を走る。山中には金毘羅堂があり、そこを通り過ぎようとすると、暗がりには大きな男が二人いる。男は、薪に火がなかなか付かないのでどうにかして貰いたいとお定に頼む。お定は細かな枯れ葉や枯れ枝を集めマッチに火を点ける。夜露で湿っていたものとみえて、モクモクモクとものすごい煙がのぼる。あまりに煙いので、お定は般若の面を顔に付ける。「おじさん、これでいいかしら」。お定は顔をあげると、煙の中から突然恐ろしい形相の般若の顔が出て来たので、二人の男はびっくり仰天する。「出たぁ」。この叫び声を聞いて、お堂の中から十五、六人の男が飛び出してバラバラバラと逃げていく。お定はあっけにとられる。そのまま山を下り、懐かしの我が家へと帰る。夜中なので両親とも寝ていたが、母親には何も変化はなく、どこも具合が悪くないという。誰かがいたずらで面をすり替えたのだろうとお定は言い聞かせられる。
 父親に連れられて平潟町へと戻る。金毘羅堂を通りがかった時、中を覗いてみると月明かりに照らされて壺皿やサイコロや沢山のお金が散らばっているのが見える。ここに良からぬ連中が集まってバクチをしていたが、二人の男の叫び声を警察の手入れの合図と勘違いして逃げ出したらしい。
 松月堂では、いつも朝一番に起きるはずのお定がいないので大騒ぎになっていた。戻ったお定から事情を聴く旦那。母親を思う心に感心するとともに、面をすり替えたのは自分だと白状する。旦那の提言で、金毘羅堂の一件を警察に届ける。堂に残された175円13銭という大金は遺失物として掲示されるが、もちろんバクチの場に忘れた金が自分の物だと名乗って出る人などいない。一年が経過し、金はすべてお定の元に下げ渡され、借金に苦しんでいた田沢の家は救われるのであった。




参考口演:宝井琴桜

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