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『鼓ヶ滝』あらすじ

(つづみがたき)



【解説】
 『鼓ヶ滝』は落語でよく掛かる噺であるが、講談でも軽めの演目として聞く機会の多い読物である。能楽の『鼓滝』を元にしている。この作品中の『鼓ヶ滝』は兵庫県川西市にあったものだと言われるが、現存しない。その跡近くには、能勢電鉄妙見線・鼓滝駅がある。

【あらすじ】
 鳥羽上皇に仕える北面の武士で佐藤兵衛尉義清(さとうひょうえのじょうのりきよ)、身の丈は六尺、体は二十五六貫というから身長は180cm、体重は100kgという大男。ご先祖様が俵藤太秀郷(たわらとうたひでさと)で近江国三上山の百足退治をしたという、侍として身分も申し分ないお方。23歳のある日、親しい友人と酒を浴びるほど飲んだが、その友人が翌日いきなり亡くなってしまう。義清は人の人生なんていうものは分からないと世の無常を感じる。そこで一念発起、友の菩提を弔いながら日本六十余州、和歌を詠みながら旅をしようと思い立つ。名を西行と改め、頭を丸め、墨染めの衣を着て修行の旅に出る。
 その道中でのこと、摂津国の山深くにある鼓ヶ滝をめざす。高さ8mというからそんなに大きな滝ではないが、滝壺に水がポンポンポンポンと落ちる音が山にこだまして、鼓を打っているような音が聞こえる。険しい山道を越えてようよう鼓ヶ滝へと到着する。見事な滝だと西行は感動し、「伝え聞く 鼓ヶ滝に 来てみれば 沢辺に咲きし タンポポの花」と詠む。ここを訪ねた人は多いだろうが、これほど見事な歌を詠んだ者はいないだろうと西行は自画自賛する。
 鼓ヶ滝の前でゆっくりし過ぎた。急いで山を降りようとするが、間もなく日は暮れようとしている。足は棒のようになりすっかり疲れ果て困っていたところで、粗末なあばら家を見付ける。家の中をそっと覗くと70歳ほどのお爺さん、連れ合いのお婆さん、それに15歳ほどの孫娘がいる。一晩泊めて欲しいと西行は家に入れてもらい、粥をご馳走になる。お爺さんは鼓ヶ滝でどんな歌を詠んだのか尋ねる。西行は自信満々に先ほどの歌を聞かせる。お爺さんは立派な歌だが「惜しい」と言う。鼓というのはポンポンと「音」のするものである。ならば「伝え聞く」よりも「音に聞く」と詠んだほうが良いと言う。確かにその方が良い。西行はお爺さんに頭を下げる。
 今度はお婆さんが、私も直してあげようと言うと、西行は驚いた。鼓というのはポンポンと「打つ」ものである。ならば「鼓ヶ滝に 来てみれば」よりも「鼓ヶ滝を 打ち見れば」の方がよいと言う。西行も確かにそうだと思う。
 今度は孫娘が、私も直して差し上げると言う。鼓というのは獣の「皮」を張って作るものである。ならば「沢辺に咲きし」と詠むよりも、「川辺に咲きし」と詠んだ方が良い、こう言う。「音に聞く 鼓ヶ滝を 打ち見れば 川辺に咲きし タンポポの花」。歌がグッと良くなった。
 なんということだ。西行は、自分のことを天下の名人だと思っていたが、この幼い娘にもはるかに及ばない。ガッカリしているところで、一陣の風がサッと吹き気が付くと、そこは山の中の一軒家ではなく、鼓ヶ滝の前であった。松の根方に座りながらウツラウツラしているうちに夢を見ていたのだ。自分が天下の名人とうぬぼれていたところで、住吉大明神、人丸大明神、中津島大明神の和歌三神がそれを戒めようと、先ほどの三人の姿になって現れたのだ。己の慢心に気付いた西行は、これから16年間、歌の修行にいそしむが、一日たりともこの鼓ヶ滝での出来事を忘れなかったという。




参考口演:一龍斎貞橘

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