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『天保六花撰〜松江侯玄関先の場』あらすじ

(てんぽうろっかせん〜まつえこうげんかんさきのば)


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【解説】
 『天保六花撰』は講談中興の祖といわれる二代目松林伯圓(しょうりんはくえん:1834?〜1905)の作。世話物の連続講談であり、河内山宗俊、片岡直次郎、金子市之丞、森田屋清蔵、暗闇の丑松、三千歳、この六人の悪党が主人公になる。この『松江侯玄関先の場』は『雲州屋敷』とも呼ばれ、歌舞伎では『天衣紛上野初花(くもにまごううえののはつはな)』として有名である。
 雲州松江の城主、松平出羽守は、女中奉公をしている質屋・上州屋の娘である浪が気に入るが、婿の決まっている浪は、傍女(そばめ)になれという要求を受け入れようとしない。怒った出羽守は浪を座敷牢に閉じ込めてしまう。上州屋はお数寄屋坊主の河内山宗俊に浪を助けて欲しいと依頼する。宗俊は、上野宮家の使者と偽って出羽守の屋敷に乗り込む…。

【あらすじ】
 上野の池之端に上州屋という大きな質屋がある。ここを訪れたのが江戸城に出入するお数寄屋坊主、河内山宗俊(こうちやまそうしゅん)である。金に困った宗俊は自分の名前の書いてある名札を質に入れ、50両という金を貸して欲しいという。もちろんこんな物に価値があるわけはなく、上州屋の番頭は丁重に断る。宗俊が帰ろうとすると、店の奥から主の彦右衛門が出て来てこの名札で50両を貸すと言う。宗俊は奥の座敷に通されると、そこには十人ばかりのデップリ太った男がいる。連中は顔を突き合わせて深刻な様子で何やら話をしている。
 これから彦右衛門が語り始める。彦右衛門には浪(なみ)という18歳の一人娘がいる。浪は、赤坂にある雲州松江18万6千石の城主、松平出羽守の上屋敷に女中奉公に出る。この浪に婿が決まり早々にお宿下がりを願うが、どうしても出羽守が浪を返そうとしない。ある日のこと、出羽守の屋敷に出入りしている小間物屋が訪ねてきた。この小間物屋が語るには、出羽守は美しい浪を大層気に入り、側妻(そばめ)になるよう言い寄るが、すでに婿の決まっている浪はこれを受け入れない。これに怒った出羽守は浪を座敷牢へ閉じ込めてしまったとのことであった。相手が大大名では町人はどうすることも出来ない。なんとかして娘を返して欲しいと彦右衛門は宗俊の前で何度も頭を下げる。宗俊は今日の夕方までには帰って来れるよう計らうと言う。宗俊は上州屋から300両という金を受け取った。
 赤坂の出羽守の屋敷前に一挺の駕籠が到着した。駕籠舁きの着ている法被(はっぴ)を見て、門番は驚いた。上野・寛永寺の山の印の入った法被を着ている。駕籠の中から一人の立派な僧侶が現われ、屋敷の門をくぐる。この僧侶は上野宮家の使者の道海(どうかい)であると名乗り、出羽守と面会したいと言う。しかし出羽守は腰元をズラッと並べ、朝から悪酒を飲んでいる。困った留守居役の高木小左衛門は、出羽守が三日前から風邪で寝込んでいると言うと、道海はそれでもお見舞いがてら病室で話をしたいという。高木が出羽守に伝えにいくと、顔が赤いのは風邪で熱があるからだとごまかせば良いということになった。
 道海は出羽守と対面して語る。上野宮様は近頃囲碁に凝っており、時折、上野界隈の大店の主がお相手をする。その中の質屋・上州屋彦右衛門がなにやら深刻に考えているようなので尋ねてみると、出羽守の屋敷に女中奉公に出ている娘の浪がお宿下がりが許されず、なかなか帰って来れないと言う。上野の宮様が直々に娘を返せと圧力をかけているのだ。さすがの出羽守も震え上がった。早々に浪のお宿下がりのお許しが出る。
 自分の部屋に帰った出羽守は悔しくて仕方がない。そこで出羽守は気づいた。あの僧侶はどこかで見たことがある。江戸城に詰めるお数寄屋坊主ではあるまいか。出羽守は北村大膳を呼ぶ。北村大膳が襖の陰から使者の間を覗くと、そこにいるのはまさにお数寄屋坊主の河内山宗俊であった。早速、出羽守に報告するが、浪はもう宿下がりさせてしまったとのことで、どうしようもない。出羽守は、宗俊を取り押さえろと命じる。
 道海こと宗俊は、高木小左衛門に「山吹の茶」を一服所望すると、50両の目録が運ばれてきた。宗俊が帰ろうと玄関先で草履を履こうとすると、槍を手にした北村大膳が駆け寄ってきた。「その方はお数寄屋坊主の河内山宗俊であろう」。宗俊は他人の空似であろうととぼけるが、左の頬のホクロが決め手になった。宗俊は、自分は天下の御家人であり、その自分が捕まれば少々面倒なことになる。大公儀での取り調べで、ある事ない事喋ってやろう。そうなると出羽守の身、あるいはこのお家が危うくなるかもしれない。ここまで言われると北村大膳は何も出来ない。留守居役の高木小左衛門が北村大膳をなだめ、宗俊にはこのままお引き取りを願いたいという。宗俊は北村大膳に向って「馬鹿め」と言って、屋敷から帰っていく。こうして無事、上州屋の娘、浪は救われたのであった。




参考口演:神田松鯉

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