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『大岡政談 天日裁き』あらすじ

(おおおかせいだん てんぴさばき)



【解説】
 大岡政談のなかの一つ。日が当たる当たらないの争いは、現在の日照権の問題にもつながり、現実に関わりのある方も多かろう。
 神田三河三河町に、那須屋という紺屋と橘家という質屋が隣あって建っている。質屋は新しく大きな土蔵を造ろうとするが、それでは紺屋の物干し場に日が当たらなくなってしまう。紺屋は抗議をするが、自分の地所に何を建てようと勝手だといって質屋は聞く耳を持たない。そこで紺屋は奉行所へと訴え出る…。

【あらすじ】
 享保年間、八代目将軍・吉宗の御代の話。神田三河町に那須屋という紺屋がある。主人は藤蔵といい「宵越しの銭は持たない」という江戸っ子気質の男である。その隣が橘屋という質屋で、主人の平兵衛は吝嗇な人物である。こんな藤蔵と平兵衛は気が合うはずがない。
 橘屋が大きな土蔵を建てるために足場を組んだ。大工を呼んで、ドンカン工事を進める。そんな所に大きな土蔵を建てられると、隣の紺屋の物干し場に日が当たらなくなる。染めた物を天日で乾かせられないとなると、紺屋の仕事にならない。紺屋の藤蔵は隣の橘屋に掛け合う。土蔵を二間ばかり下げて欲しいと言うが、平兵衛は聞く耳を持たない。藤蔵は身勝手だと言うが、平兵衛は自分の土地に自分で蔵を建てるのに身勝手も何もないと言う。
 こうして工事はどんどん進むが、これが想像以上の大きさである。藤蔵は奉行所に願書を出し、お上のご威光で隣の土蔵を取り壊して貰おうとする。
 那須屋藤蔵、橘屋平兵衛、そして家主が奉行所へ入り、南町奉行である大岡越前守がご出座になる。平兵衛は、二間下げては十分な面積が取れない、土蔵が狭くては商売に差し支えると訴える。越前守は質屋にとっては土蔵は命、自分の土地に何を建てても構わない。工事を進めて差し支えないと言い付ける。平兵衛の勝訴である。何が名奉行だとプリプリ怒る藤蔵。帰り際に越前守は、物干し場に日が当たらなければ稼業に差し支えるであろうから、紺屋を辞めて金魚屋になったらどうだと笑いながら言う。これを聞いてますます藤蔵は怒る。
 「金魚屋というのは面白いかも知れない」、家主は言う。裏手には藤蔵の持ち分である空き地があるので、ここに池を掘ればよかろう。向こうの橘屋が地境いっぱいまで土蔵を建てるのなら、こちらも地境いっぱいまで池を掘ればどうだ。池は深ければ深いほど良い。次第に池の水が隣の土蔵の土台にしみ込んで傾いてくるだろう。これは良い考えだ。藤蔵はすぐに人足を集めて、深い穴を掘りそこに水を注ぐ。橘家の土蔵の土台は緩み、蔵が傾いてくる。これを見て驚いたのが橘家である。すぐに池を埋めて貰いたいというが、「自分の土地に山を造ろうが池を掘ろうが勝手だ」と藤蔵は取り合わない。
 今度は、橘家がお恐れながらと奉行所へ訴えに出る。越前守は、己の地所の中に己で池を掘っても法には背かないと言って、訴えを認めようとしない。平兵衛が前に申し立てた屁理屈でそのまましっぺ返しを食らったのだ。
 越前守は平兵衛に、世の中は持ちつ持たれつ、互いに協力していかなければならないと平兵衛を諭す。平兵衛は今の蔵を取り壊し、二間下げて再び蔵を建て直すと約束する。藤蔵も池は埋めることになり、両者の争いは円満に解決した。越前守は那須屋藤蔵の気性を気に入り、家に出入りが許され、この紺屋は長く栄えたという。




参考口演:田辺銀冶

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